選択肢
私は今、お姉様の発言を理解できず困惑している。意味はわかる。けれど、お姉様が私の養母に? だけど、お姉様と私は歳は一つしか離れてなくて…えっ?
「ごめんなさい。急にこんなことを言われても困るよね。だけど、さっきのは私の決意。もうアリシアに甘えて、守られるだけじゃない。私はあの家がアリシアの居場所なんだって思って欲しい」
「甘え…?」
お姉様が私に甘えていた? お姉様はずっと未来を変えるために行動してきた。だからこそ、あの日、初めて私とあった日に前世の話をしに来たんだから。
「不思議? 私もリオン様に言われるまで気づいていなかったの。けれど、言われて納得しちゃった。私は前世の話をいろんな人に話したけれど、私がしたことはそれだけだったの」
「ですが、未来がわかれば不幸を回避できるのではないでしょうか? それなら、お姉様は十分…」
私がそう言うとお姉様は首を横にふる。
「ううん。違うの。私は話しをただけ。私自身、そのあとは何もして来なかったの。ただ人に話して、私を助けてくれるのを待っていた。お母様の時も…あなたの時も…」
「お姉様…」
「初めは誰かに話すだけで変わると思っていた。私一人ではダメでも、みんながいたらって。実際、お母様に話した時、お母様は真剣に私の話を聞いてくれた。そして、使用人たちを次々と父の…あの男の目に止まらないようにしていった。そんな話は小説にはなかったもの。うまくいっていると思っていたわ。けれど、お母様は亡くなった。そして、あの男と、浮気相手、そしてあなたが来て諦めちゃったの。未来を変えることは不可能なんだって思っちゃった。何をしてもダメなんだって…」
「…それなら…どうして…どうして私に前世の話をしたのですか?」
諦めていたのなら、私に会いに来た行動と矛盾する。未来が変わらないと思っているのなら、私は必ずお姉様と敵対的になると思っていたはずなのに…
「どうして…どうしてだろう? あの時は本当に…私が何もしなければ、あなたが私に何もしなくなるんじゃないかって思った。それに、前世の話をすれば同情を買えるんじゃないかって思ってたのかな? うまく言葉にできないけれど、あの時の行動は私なりの最後の悪あがきのつもりだったの」
お姉様様があの時私に話してくれたのは、お姉様が私をいじめなければ、私が嘘をついたりしてお姉様を追い詰めることをしないと思っていたから。
結果的にお姉様の勘違いだったけど、それで私はお姉様が話してくれた物語は途中なんじゃないかと思った。
「だけどね、私の話をしてからアリシアが私の為に頑張ってくれているのをとても嬉しく思った。けれど、私はそれをただ見ているだけだった。どこか他人事だった。何をしても結果は変わらないんだって。私にしか出来ないこともあったはずなのにね」
お姉様にとって、たぶんアーシャ先生が生き残る為に頑張ったんだと思う。けれど、アーシャ先生はお姉様が知っている通りに亡くなってしまった。
だから、お姉様は諦めてしまった。そして、諦めながらも、私に話してくれた。それでもより良い結果になるように……
「そして、あなたが私の前からいなくなった。最後の言葉。私がヒロインで、アリシアが悪役。その言葉がストンと腑に落ちたの。けれど、悪役がいなくなってハッピーエンドにはならなかったよ。アリシアがいなくなったあの家はとても…あの男がいた時よりも……もっと冷たい場所に…感じたの」
お姉様の目尻に涙が溜まる。
「あなたが頑張っている間、私は何もしてこなかった。あなたが苦労していたことを私ならすぐに解決できたはずなのに、そんな最低な姉だったけど……」
「そんな私だけど! アリシアとまた一緒いたいの! 今度はあなたを一人にしない。だから、もう一度……もう一度だけ…私にチャンスをちょうだい」
そう言ってお姉様は頭を下げる。
私は何て答えたらいいのだろう?
私もお姉様と一緒にいたかったです? それとも、やっぱりあの家に私の居場所はない?
お姉様の不遇を不満に思う使用人を探す為にあれだけ煽ったから、正直、私のことはよく思っていない人の方が多いだろう。それならいっそ初めからエヴァンス公爵家のお世話になった方がいいんじゃないのかな……
さっきまでお姉様と一緒にいたいと言っていたのに、いざ目の前にすると躊躇してしまう。
新しく出てきた選択肢…友人ではなく、もう一度お姉様の家族となる選択……
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