入って来たのは
サリアが扉を開け、少し経ってから入って来たのはドーラともう一人…
「ドーラ、それに…どうしてジャンがここにいるの?」
ジャンはアースベルト家の元騎士団団長で、今は料理長で…えっ、どうしてジャンが?
「あー、悩んでいるところ悪いが久しぶりだなお嬢」
「え、ええ、だけど、えっ?」
「まぁ、俺もお嬢に言いたいことは山ほどあるんだが、今日は護衛で来たんだよ」
「ごえ…い」
ジャンが護衛するような人物なんて…一人しか…
「はぁ、もう入って来たらどうですか、お嬢様?」
ジャンが扉の外に向かって声をかけると、女の子が一歩一歩ゆっくり入って来る。
「おねえ…さま…」
ずっと顔を俯けているが、見間違えるはずもない。こんなにすぐに会えるなんて…
「アリ…シア……アリシア!!」
お姉様が私に走り寄って抱きついてくる。けれど、いつもと違って何も言わない。
「お姉さ「……っ……ごめん…なさいアリシア。ごめんなさい」どうして…お姉様が謝るんですか。私の方が…謝らないと…いけないのに…」
「そんなことない! …私が…甘えていたの…ずっとアリシアに負担をかけて…私は…あなたがいなくなるまで気が付かなかったの! 私は…あなたが頑張ってくれている時に、何もしてこなかったことが情けなくて…」
お姉様が泣いている。お姉様が泣いているのは初めて見た。
「…ごめんなさい…アリシアが頑張っている間…私は何もできなかった…ううん。してこなかったの。屋敷の中でもあなたに対して…悪意があることは考えればわかったはずなのに…エヴァンス公爵とのやりとりも全部…全部あなたに押し付けてしまった…」
「そんな…」
そんなことないです。そう言おうとすると、お姉様が顔を横にふる。
「…結局、私は全部諦めていたの。どう頑張っても未来は同じことになるんだって…だから、諦めてた。あなたが頑張っていることを知っても…それでも諦めてたの…」
お姉様はずっと諦めていたんだ。たぶん、アーシャ先生が亡くなった時から、未来を変えることはできないって、それでも、私に明るく、私をいじめなければいいって言っていたんだ。少しでも未来が変わることを期待して…けれど、確信できなかった。
「私が甘えていることに気づいたのはあなたが私の前からいなくなった後、ある人に『いつまで甘えたままでいるのか』と聞かれた時、それまではずっと後悔するだけで…また諦めるところだった」
お姉様も私と同じで後悔していたんだ。もっと一人でいるんじゃなくて、二人で話し合えばよかったんだ。
「だけどね、またアリシアとちゃんと会って話したかった。だから、エヴァンス公爵に相談したの。アリシアと先に話をさせてくれないかって」
「エヴァンス公爵が?」
「ええ、アリシアの賢さを知っているもの。こんなチャンス逃すわけないわ。けれど、私に話す機会をくれた。だからね、姉としてダメダメだったこんな私だけど、アリシアとまた一緒にいたいの」
「…お姉様…私もお姉様とまた一緒にいたいと…話したいと思っていました。けれど…」
そんなことをすればお姉様の沽券に関わってしまう。そう思ってリオン様を見ると、ため息をつかれる。
「はぁ、しっかりと話し合えと言っただろう。他のことは何も気にしなくていい。今日のお客はシェリア嬢、いやシェリア・アースベルト殿だけだ。君が思っていることを全部話せばいい」
本当、リオン様は…私のために…いろんなことを……こんなによくされて…私は…
「ありがとうございます。リオン様」
たぶん、初めて心の底から笑えている気がする。
「ッ…気にしなくていい。さぁ、しっかりと向き合うんだ」
私はリオン様に頷き、もう一度お姉様に向き合う。
「お姉様、私、リオン様のおかげで学園の飛び級ができるみたいです。なので、お姉様と一緒に学園生活を送ることができます。だから…これからは姉妹ではなくなりますが、一緒にいてもいいですか?」
姉妹じゃなくなることなんて関係ない。私は、私がお姉様と一緒にいたいのだから。
「……の」
「えっ?」
「それじゃダメなの」
目の前が暗くなる。どうして? 私がお姉様に何も言わず離れたから? 私がお姉様を傷つけてしまったから?
「それってお友達の関係で終わるってことでしょう? そんなのいや。私はずっと、寝る時もずっとあなたと一緒にいたいの!」
「ですが、私は…」
私はどこかの養子に…さっきお姉様が言っていたエヴァンス公爵ならまだ交渉の余地がありますが、そうでないならば…
「アリシアの家はあの家なの! アンやマリア、ジャンやローレンがいるあの家が! だから帰って来てアリシア!」
「……」
今度は私が首を横に振る。
「それはできません。私は自らあの家を出ました。それに、あの家には私や両親が多くの迷惑をかけてしまいました。今更戻ることはできません」
「そう…やっぱりアリシアはそう言うのね。わかった…」
お姉様が立ち上がり、私を見下ろす。その目はいつものお姉様とは違って、少し冷たく感じる。
「私は今日であなたの姉であることを辞めます」
「……っ……わかり…ました」
さっきのがお姉様…ううん、もう読んじゃダメなんだ。…シェリア様にとって姉妹を続けるための最後の説得だったのかな…
けれど、あの手を取ればリオン様に迷惑をかけることになる。私のために、全てを準備してくれたのに、それを全部投げ捨てて手を取ることは私にはできない。
「…だから、あなたには娘になってもらいます。この私、シェリア・アースベルトの娘に」
「えっ!?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます