養子になるということ

「…はい」


 リオン様の言った養子になるという言葉…つまり、もう二度とお姉様との血縁はなくなるということ。仕方ない。それは私が望んでしまったことだから。

 けれど、二度と会えないわけではない。これからは物語なんて知らない。たとえ、これからお姉様の笑顔を奪うようなことがあっても、私が私にできることを精一杯する。不幸なこと以上に私がお姉様を笑顔にするんだ!


「吹っ切れたかい?」


「はい!」


 リオン様の質問に笑顔で答える。


 今回、リオン様がテストをしたのは私が飛び級できるほどの学力の確認と、私を養子にするために実力を示すものだったんだ。

 全部、リオン様に助けられている。あの時も、今も。私はどうすれば彼に恩返しをできるのかな…?


「そうか。それじゃあ、今から会ってもらおうか」


「今からですか?」


「ああ、先方がどうしてもすぐに君に会いたいと言っていてな。私の話なんて全然聞いてくれなかったんだよ」


 リオン様の話を全然聞かない人物? そんな人物、思いつくのは一人だけだけど…望み過ぎよね。


「君の学力や今回の件の話を少しさせてもらったのだが、君の発想力や言葉は十分淑女としてやっていけるということでな、今を逃すと他に取られてしまうとたいそう焦っているんだよ」


「私はそこまでの人間じゃ…いえ、ありがたい話ですね」


 いつもように否定しようとして、リオン様に異常だと言われたことを思い出し、肯定する。


「よし。サリア。この部屋に呼んできてもらえるか?」


「はい」


 サリアが部屋を出て行くのを見届け、誰が来るのかを想像する。両親のような人じゃなければいいのだけれど…リオン様が言っているんだもの、大丈夫よね。後は…


「お姉様と仲良くすることを許してくれる人がいいな」


「それは大丈夫だ。けれど、これからはお姉様はやめた方がいいぞ」


「ひゃい!!」


 声に出ていたらしい。リオン様に声を掛けられて、驚きのあまり変な声が出てしまった。恥ずかしい。


 そんな私を見て、リオン様は笑っているし…ムー


 思わずアーシャ先生にしないように言われていた口を膨らませる行為をしてしまう。


「すまなかったな。だから、そんな可愛い顔はしないでくれ」


 リオン様はそんな私を見て笑いながら謝ってくるが、その後の言葉に謝る気がないのがわかる。


「かわっ、もうっ! からかわないでください!!」


 リオン様の前だと安心してしまうためか、色々と油断してしまう。気をつけないと…


「からかっているわけではないのだが…」


「もうこの話はいいです!それで、お姉様と呼んではいけないというのは、対外的に問題があるということですよね」


「ああ、一部は血縁も関係なく、優秀な人物をそう呼んでいるとは聞いているのだが…」


「私たちのような特殊な場合は気をつけたほうがいいということですね」


「問題はないのだが、シェリア嬢を慕う人物が出て来たとして、君との扱いに差が出るだろう?その理由を聞かれた時の返答がな…真面目に全部答えるわけにはいくまい」


「確かにそうですね。お姉様なら…同じ姉と慕っていたとしても、私とは違いが出てくるかもしてません」


 今までのお姉様の様子を思い出すと、必ず私の方を優先してくれる。そんな気がする。


「…嬉しそうだな」


「えっ」


 そんなに嬉しそうな顔をしていたかな?


「はぁ、どうしても君のことに関してはシェリア嬢には勝てそうにない。私は君を悲しませてばかりだ」


「…そんなことないです。リオン様は私を思って叱ってくれました。泣きたい時には胸を貸してくれました。私はリオン様がいなければずっと一人で気持ちを押し殺していたかもしれません。だから、とても感謝しています」


 それに、初めて会った時もレオス様から守ってくださいました。レオス様は私の言い回しに気づいていただけませんでしたし、レオス様がいなければあの時に面倒ごとが増えていたような気がします。


「…なんだよ」


「なんでもありません」


 思わずレオス様を見ていたのを気づかれてしまったみたいです。ですが、本当にリオン様には何かお返しがしたいですね。


「私の気持ちを、心を救ってくれたリオン様は、お姉様とはまた違った温かさがあり、とても安心できます。そんなリオン様に私は守ってもらってばかりで……何か、私にして欲しいことはありませんか?」


「…してほしいことか…色々あるが、一番は君が「コホンッ、リオン様、お相手の準備が整いましたので、お部屋に招いてもよろしいでしょうか?」……ああ、頼む」


 ものすごく残念そうな顔をしているリオン様を見ると、少し笑ってしまいそうになる。こんな顔をしているリオン様は初めて見た。

 

「笑っているところ悪いが、本題は君なんだ。しっかりと話し合えよ」


 リオン様の発言の後、この部屋の扉が開かれた。

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