ジャン視点 会話の裏で

 今、俺が立っている先では、お嬢とローレンが話している。主にローレンがお嬢に文句というよりも、考え直しを要求するつもりだったらしいが、お嬢によって、丸め込まれているあいつが面白い。


「団長は、あの方のことをいつお知りになったんですか?」


「はぁ。今の団長は俺じゃねぇ、料理長だ。それに今の団長はお前だろ、アルフレッド。いつになったら俺を料理長と呼ぶんだ、まったく…」


「申し訳ありません。それで…」


「俺は誘ったぞ?お前は断ったけどな」


「なっ、それはいつのことですか!?団長に久しぶりに誘われたのはあなたが、あの方にソファーを…あ!」


 やっと気づいたみたいだ。全く、ソファーを運ぶごときの仕事にわざわざ俺が誘うわけないだろうに。


「あーもう。どうして、団長まで貴族のような面倒臭い話し方をするんですか!!そりゃ普通、断るでしょ!ソファーを肩に担ぎながら、『お嬢の部屋にこれを届けに行くんだ。手伝わねぇか?』と聞かれても、何を手伝うのかわからないから断るに決まってるじゃないですか!」


 頭をガシガシと掻きむしりながら訴えかけられるが、知ったことじゃない。


「言葉に含みを持たせるのは貴族じゃなくても当たり前だ。敵がいたとして素直に全部話すつもりか?甘えるな。それに、こんなのは序の口だ。手伝いが全くいらない状態で、手伝いを言われたら何か裏があることぐらいすぐに気がつくだろう」


「ぐっ、それは…」


「こんなこと、九歳のお嬢でも、楽々に気づくぞ。いや、それ以上のことをもうしている。そんな人なんだよ、お嬢は」


 まるで九歳には見えないぐらいに大人びている。話し方も考え方も。だが、生き急いでいるようにも感じる。ただの勘なのだが…


「あなた様はあの男が当主から落とされたならば、どうなさるおつもりなのですか?」


 ローレンの質問が聞こえてくる。どうするかなんて九歳の子供に質問することじゃねぇ。だが、お嬢は予想していないことを平気で返してくる。


「私?私はもちろん父と母とこの家を奪った大罪人として処罰されるでしょうね」


 二人が驚いているのが声でわかる。俺のただの勘であって欲しかった。だが、お嬢は本当に自分のことなんてどうでもいいと考えているのか?


「…団長、これがあなたがあの方に肩入れする理由ですか?」


「…ああ、だが肩入れするというのなら、お前もだぞ、アルフレッド…」


「えっ?」


「気づいていなかったのか?お前、あの集会の後からずっとお嬢のことをあの方と呼んでいたぞ」


「…ほんとですね。気づいていませんでした」


「お前が敬称を使うなんて珍しい。あの男はなんと呼ぶんだ?」


「…ゴミクズ」


「ほんと、素直に答えるなお前は」


 だが、アルフレッドもお嬢のことを認めているんだ。お嬢はこの家で一人だと思っているかもしれねぇが、それは違うってことを今度、ガツンと行ってやらなきゃな。


「アルフレッド、絶対守るぞ。お嬢様もお嬢も…」


「はい。絶対に…あの方を犠牲になんてさせません。では、団長、私は明日に備えて準備に戻りたいと思います。では失礼します」


 騎士団は俺が育てた。そして、アルフレッドは俺が認めて、団長に推薦したんだ。あいつらが本気になったら、あの男が何を連れてきたとしても、問題ないだろう。


「はぁ。そういえば、あいつ、結局最後まで団長呼びだったな。今度、一度訓練に混ざるか…」


 このモヤモヤとした気分は久しぶりに体を動かさねぇとな。


 あの男の前でこれだけ警戒するんだ。何も考えず、おとなしくしといてもらいたいね。あの男が何かするだけで、お嬢に負担がかかるんだ。頼むから何もしないでくれ…って言ったところで無駄か。

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