ジャンとの関係

「? ジャンが何か?」


「ええ、『お嬢様のことを第一に考えて、自分のことは二の次、いやそれ以上に気にしていない。お嬢は自分が死ぬことまで考えている気がする』と言っていました。大袈裟だとか、考えすぎだと思っていましたが…ジャンの人を見る目はまだまだ健在のようです」


「聞きたいのだけど、あなたとジャンの関係はどういうものなの?私の話になんの反応もしなかったあなたが、ジャンが話した時には驚いていたじゃない」


 それに、ジャンが関わったことで騎士の人たちの殺気がなくなったのが気になる。


「それは、ジャンが私の中で一番信頼できる人物だからですよ」


「どうして?」


「ジャンは以前までは騎士団長をしていたのですよ。ですが、奥様が亡くなってから料理長に就任しました。もともと手先は器用で、料理も上手く、誰も何も言えませんでした。いえ、言える資格もありませんでした。料理にやすやす毒を盛られていたのですからね」


 ローレンは自虐的に笑みを浮かべる。


「ジャンが料理長に就任するときに私に言ったのですよ。『俺が育てた騎士たちだ。俺がいなくなっても裏切るやつはいねぇ。けど、内部はどうだ。あんたがいながらあんなことになった。だが、あんただけのせいじゃねぇ。俺が外しか見ていなかった結果だ!だからこそ、俺は内側まで手を出させてもらう。文句はないな?』と。文句を言えるはずもないです。だけど、その言葉をもらってから、私は一番ジャンを信頼しているわけです」


 ジャンは見た目通り騎士関係の人、それも団長まで上り詰めた人物。そんな人が自分の地位を捨ててまでこの家を守ろうとした。そんなすごい人が味方でいることがとても心強い。

 でも、気になることが一つ。


「ジャンが料理長になるのが早すぎないですか?」


「毒が料理に入っていたことは周囲の事実でしたからね。責任を取らされる可能性がある料理人たちはほとんど辞めたのも理由の一つです。そして、残った料理人たちをまとめ上げたジャンの手腕が素晴らしかったのもあるのでしょう。いつの間にか料理人たちの間でも一目置かれている状態でしたね」


「…そう。ジャンはすごい人だったのね。初めて会った時から少しそんな感じはしてたけど…」


 ジャンに初めて会って、お礼を言われて、問い詰められて、説明したら頭を撫でられ、褒められた。恨んでいる人物の娘にする態度じゃ全然なかったものね。


 だけど、そんなジャンの言葉が勇気づけてくれた。私は私だと少しでも思えるようになった。父と母を私とは別であると考えられるようになった。父の代わりにではなく、私としてお姉様を守る決意ができた。


 彼がお姉様を守ってくれるのです。だから私はみんなを信頼して、家を空けよう。大丈夫、父が何をしてこようとも何も問題はない。

 

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