実践

 緊張していた空気がお姉様によって壊されてから、意識を取り戻したのかレオス様が吠える。


「シェリー!こいつがどんな奴か知っているんだろう!どうして、どうしてこんなことをしているんだ!こいつは君を裏切るんだろう!?」


 どうしてこんなことをしているのかという疑問については同意ですが、私がお姉様を裏切るという発言については許容できない。『だろう』という言葉は未来のことを知っている人にしかできない言葉だ。そして、それを知っているのはお姉様のみ。つまり、お姉様はレオス様にも前世の話をしたことを意味している。


「お言葉ですが、裏切ると言うのであれば、あなたも同じでは?お姉様を見捨てて私と婚約をしたレオス様?」


「違う!俺はそんなことはしない!」


「ええ、口ではそういえますね。ですが、今はそれよりも…」


「ああ、そうだな」


 私とレオス様は同時にお姉様の方を見る。幸せそうに私を撫でているお姉様は見られていることが不思議なようです。が、これだけは言わなければなりません。


「「お前は(お姉様は)どうして、そうポンポンと前世の話をするんだ(されるのですか)!」」


「ふぇっ」


「お前を傷つける可能性があったんだろう!なぜそんな奴にお前の秘密を暴露するんだ。それによってもっとお前が傷つく可能性は上がると思わなかったのか!」


「そうですお姉様!裏切るとわかっているような男に話すなんて有り得ません!お姉様が話すことによって、よりバレないようにお姉様が口封じをされる可能性だってあったんですよ!」


「俺はそんなことをしねえよ!」


「どうだか。爵位に釣られて、婚約者よりも違う女に尻尾を振るような方の言葉なんて信用できません!」


「誰がお前なんかに!」


「そうですか…ごめんなさい、お姉様。少し待っていてください。この男がお姉様に相応しくないと言うことを証明して見せましょう」


 私はじっと、レオン様のことを見る。口は悪いけど、公爵家の人と考えるならしっかりと鍛錬しているのでしょう。今こそ、アーシャ先生に教わった貴族の男の落とし方を実践するときです。



「いい?アリシア。貴族の男の大抵はちゃんと体を鍛えているものなのよ。高貴の貴族なら特に小さい頃から鍛えられていることが多いわ。まぁ、全員とは言わないけどね…それよりも、そんな男性に対し、手を握って、見上げてこう言うの。『民を守るために、こんな努力をされているなんて…私、尊敬します!』ってね。それで、大抵の男は落ちるわ」


「落としてどうするんですか?それに…私はアーシャ先生ほど綺麗じゃ…」


「アリシアは綺麗だし、可愛いわ。それは間違いない。私が保証してあげるわ。それに男を落とす理由?そうね、言い寄ってきたときに、持ち上げて、照れている間にこれからも頑張ってくださいと言うと、みんな揃って『はい!』と答えるから、話がそらしやすかったからかな?」


「それは…」


「いいのよ。貴族なんて、自由恋愛の方が珍しいもの。私も含めてね。だから、あなたは好きな人を見つけるのよ?」


「いなかったときは?」


「その時は、その時よ。見つかったら運が良かったと思えばいいわ」


「え〜」


「言葉が乱れているわよ。アリシア。いつでも気を抜かずにね」


「はい。わかりました。アーシャ様」


 使うことがあるとは思わなかったけど、お姉様のためにやります!

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