金魚

 溺れる夢を見た。

 水の中を泳ぐ、色とりどりの宝石のような魚に目を奪われ、それを掬い取りたいなどと思ってしまった。

平生ならば魚如きに目を奪われる事はない、あれはただの生き物だ。地面に打ち上げれば渇いて涸れ果てて、見るも無惨な死骸になる。あれの鱗が美しいのは、水の中を生きている時だけ。そんなこと簡単にわかるはずだ。それなのに、欲しくて、欲しくて、仕方がなかった。

喉から手が出るようとは、この事だろう。

 無我夢中で手を伸ばし、水面に手が触れた。その瞬間に、身体が宙に浮いていた。気が付けば水の中でもがいていたのだ。

生来、人間は水の中で生きるように出来てはいない。呼吸ができないという恐怖が背筋を這い上がり、一層冷静さを欠いてがむしゃらに水を掻いた。

 死を覚悟して、辺りを見るとゆらゆらと揺れる魚たちがこちらをじっ、と見ていた。真っ赤になって下手くそに泳ぐ姿が滑稽だったのかもしれない。彼らの口がパクパクと動き、そこから溢れる気泡が、嘲笑しているように思えて惨めだった。

 そこで、目が覚めた。

 激しく咳き込み、身体の万全を確かめ、起き上がると、深いな冷たさとぐっしょりと濡れた感触が残るベッドがあった。

まるで、先程まで水の中にいたかのように。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る