第13話 セカイヤ
「涙……?」
那月の寝顔を見ながら驚いたように
薄暗くなった居住空間内。
タオルケットをかけ、ベッドで静かに眠る那月の左目から一筋の涙が流れていた。
「何か悲しい夢でも見ているのでしょうか。食事の時はとても楽しそうにしていましたのに」
心配しながら言う
「案外、反動かもしれん。このひと時がいつまで続くか、不安に感じたのだろう」
「あるいは、あのゾウ型の
「もしかすると、動物園でのことを見ているのかもしれません」
「動物園?」
惣神の意外な言葉に、銃神が思わず聞き返した。
「はい。小三の遠足で動物園へ行ったのですが、そこでゾウが昔、戦いに使われていた話になり、男子たちと一緒にいた那月も感心していたのですが、女子たちにしてみれば愛らしいゾウが殺し合いに使われていたことに引いていました。男子に同調にした那月は女子のグループに戻れず、男子たちも離れ、那月は一人になり泣き出してしまったのです」
「……」
「私がなんとか収め、那月を女子のグループに戻し、その後はいつもどおりになったのですが、後にも先にも、那月が泣いたのはその時だけですね」
「そんなことがあったとは……」
呟くように言う銃神。
那月の心境を思い、神たちは心を痛めた。
「ゾウに対して、那月は特別だったんでッスね」
「狼や豹など、猛獣だった夜獣から、ゾウが出現したからな。気にはしていたんだが、なるほど合点がいった」
「あと世論もあるだろうぜ。現実では、お隣の大国が更なる軍備の拡大を発表したからな。庶民の不安が広がっているのは間違いねえ」
「大きくて威圧感があり、戦うことができるものの具現化だったのね」
「現実……。そうですよね。あの夜の街は、そこに住む人たちの心を表した世界なのですから」
!
一瞬、はっと思い出したように反応する神たち。
隠していたものが現れてしまった感覚になる。
「ガーッハハハ、いまさら焦ることでもあるまい」
「そうでッス。那月も承知していまッス。ただ、分かりやすくしたのが我々。それだけでッス」
「
冷静に話す宅神と呪神に、商神があらためて夜の街について言った。
「ええ。そうしなければ、この世界では生きていけません」
「目の前の人を助けた力が全世界を狂わす力にもなる。それを封印する意味でも、現実世界では生きられない」
「本人では止められないとなれば、世界の誰かが引き金を引くしかなくなる。だから誰の手も届かない場所にいるしかない。人間として、一人で」
「……」
銃神の言う、引き金を引くは那月の殺害を意味し、普通に暮らせなくなっている状況に一瞬、沈黙する。
──すると、呪神が声を出した。
「この前のように、我々が仮死させることによって止めている。リスクはあるが、生きていける」
「そのとおりでッス。とにかく、生きることが大切でッス」
「ええ、そうですね」
「OL姿の那月も興味あるけど……」
「精神世界で事務じゃ仕事にならねえ。だからといって、現実世界に行くかっつっても狙われるんじゃ意味がねえわな」
「ガーッハハハ、しかも敵が前にいるとは限らん」
「結論としてはこのまま、この世界に居るのがベスト。ということだね」
「そうね。とりあえずは現状維持。もっと良い方法がありそうだったら、それを考えてみるってこと」
話がまとまり、見えない
すると衣神が気づいた。
「そういえば、あの夜の街。なんか呼び名がほしくない?」
考えてもみなかったことに、他の神たちは驚いた。
「……まあ、僕たちだけが意識的に行き来しているし、それで通じているのだから構わないんじゃないかい」
「そうだけど、夜の街っていうと別の意味もあるじゃない。なんか、遊ぶ、みたいな」
「那月にしてみれば仕事場、戦場といったところでッス」
「夜の街……、那月の場所……、那月が生きられる場所……」
「
惣神の言葉に、はっとして注目する六注の神。
「那月を隠し、那月を活かすための場所、世界。いいんじゃないか」
「そうだな」
「ガーッハハハ、それはいい。気に入った」
「良いと思いまッス」
「店みてえなところもいいわな。実際、稼ぐところでもあるし」
七柱の神、全会一致。
すると惣神は涙のあとが残る那月の寝顔を見ながら
「那月、あなたはここを含めて世界夜で生きていかなければなりません。でも安心して。私たちが、ずっとそばに居ます。だから泣かなくていいんですよ……」
身体のない神たちは那月の涙を拭うことはできない。
しかしそれは那月自身が行うだろう。
神たちは那月のそばに居続ける。
彼女の笑顔を守るために。
◇◆◆◆◆◆◆◆
お読みくださり、有り難うございます。
シリーズの原点である本作はとりあえずここまでです。
この後、那月が最終的にどうなったのか『イブとヤエ』の方で触れられています。
気になった方は覗いてみてください。
世界夜~魂の街で夜獣と戦え! 一陽吉 @ninomae_youkich
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