第4話 戦い、そして……
「うおおおおおおおーっ!!!!!!!」
那月は叫びながら
進行する車両をすり抜けて車道を横切りつつ、スピールを両手で構え、その引き金を引く。
放たれた魔法の弾丸は的確に夜獣をとらえ、横道へ吹き飛ばした。
薄暗く人通りの少ない横道は自動車一台分ほどの幅だが、すぐそばに駐車場がある。
「十二台駐車できるスペース。いいかんじでッス」
ここでなら他に人を巻き込まずに戦うことができる。
「大丈夫ですよ」
通過する笑顔を背中で感じながら、那月は起き上がる夜獣たちに飛び込んだ。
消し飛ばされた夜獣の腕はすでに再生されていたが、ちょうどよかったとばかりに背負い投げを豪快にきめ、路面に叩きつけた。
そのまま仰向けの夜獣に銃口を向けて魔法を撃つと、重なり合う光が夜獣の頭部を消し散らした。
「とりあえず太郎。次は次郎」
便宜上つけた名前で夜獣を呼称し、右手を振り上げた次郎の左足をしゃがみ蹴って刈り倒すと、そこから両足を絡ませ関節技をしかけた。
「ガーッハハハ、
足の動きを封じつつお互い逆立ちするような体勢となった那月。
すかさず左手で身体を支えながら、右手のスピールで魔法を撃った。
「三郎、ちょっと動かないで」
魔法で生成された青い帯状のものが全身に巻きつき、三郎は見事に転倒。
「太郎もまだダメ」
仰向けのまま頭部の再生をしていた太郎だったが胴体部が氷で覆われて凍結し、その活動が停止した。
「次郎、とりあえず、ダウン」
逆立ち状態である次郎の目の前にそれを突きつけ凝視するのも構わず、那月は魔法を撃った。
眉間から体内に向けて浄化の光が輝くと、次郎は筋力に相当する力が抜け、頭から潰れるように倒れた。
その瞬間に那月は、足を絡ませたまま身体をひねり、次郎をうつ伏せにして尻に乗る形になった。
こうすることで次郎の動きを封じたまま射撃ができる。
「じゃあ三郎、あんたから消えて」
両手でしっかり構え、スピールの引き金を引く那月。
大きな反動と同時に、重なり合う光が三郎の身体を消し飛ばす。
二発、三発、四発、五発と、那月が魔法を撃つたびに再生しようとする三郎の身体が消失していく。
「あと少し……」
残った三郎の足に一発撃ちこめば完了というところで、那月の足元にも変化があった。
力を取り戻した次郎が、うつ伏せのまま身体を大きく反らせて那月を持ち上げ、絡めた足を強引に外そうとしていた。
「やばっ……」
足を緩め逃れようとしたが、反動のついた次郎の両足は投石器のようにして那月を投げつけた。
その先にはビルの壁がある。
「那月、
激突する直前、那月は
「ハアッ……、ハアッ……」
「那月……」
膝をつき、疲労から息を切らす那月に、
前を見ると、太郎、次郎、三郎、全員がゆっくりと起き上がって、その眼光を那月に向けていた。
太郎にかけていた魔法による凍結も解けていたようだ。
そして、それぞれダメージによって、その存在力に差が表れていた。
太郎は腕と頭部の消失によって身体が半透明になっており、三郎は消滅寸前までいっただけにまわりが透けて見える状態。
次郎に関しては変わり映えがない感じだった。
「那月、弱っているやつから仕留めろ」
「よっしゃあ」
立ち上がりながら那月が撃つと、三体の足元に氷華が花開いた。
直径一メートル大の水滴を叩きつけ、瞬時に凍らせたようなそれは下半身を捕らえ、動きを封じることができる。
だが三体は、驚異の反射能力で横へ、上へと跳んで避けた。
避けたが、那月はそれを狙った。
シリンダー内で最強の
声も上げずに三郎は完全に消滅した。
続けて那月は太郎にスピールを向けた。
空中で一発、着地に失敗して転倒したところに四発撃ちこむと、太郎も三郎と同様、完全に消滅した。
「那月!」
惣神が声を上げるが、次郎はすでに目前にまで迫っていた。
右足を振り回す横からの強烈な蹴り。
那月はとっさに腕をバツに組み、魔力を集中させて防御するが、威力を抑えきれない。
サッカーボールのように飛ばされ、駐車しているワンボックスカーに打ちつけられた。
派手な音と同時に窓ガラスは砕け、車体はドアを中心に大きくへこんで横転した。
「っく……」
身体がめり込む勢いだが、那月はなんとか脱出。
だが、そのまま前のめりに倒れた。
魔力によって骨折こそないが、疲労と衝撃のダメージで全身が悲鳴をあげていた。
本来であれば即死の攻撃である。
いかに鍛錬し魔法が使えても、人間である以上、疲労するし外部からの影響に肉体が反応する。
うつ伏せでぐったりしたまま荒い息をする二十歳の女。
夜獣はまだ残っている。
戦わなければならない。
那月は状態を確かめる。
全身が痛い……。
倒れたときに擦れた左頬をもヒリヒリする……。
身体が重い、思うように動かない……。
思考がまとまらない……。
どうする、どうやってやっつける……。
──ガラス片で切った頭部から血が流れ、アスファルトに広がっていく。
「那月、一番高い薬を使え! 那月!」
必死に叫ぶ
「キンジイ……」
右手にはまだスピールがある。
なんとか起き上がろうとする那月。
ゆっくりと夜獣が近づいてくる。
私が死んだらみんなを守れない……。
泣いてたまるか、やられてやるもんか、ふざけんじゃない……。
私が……、みんなを守る!
──危機にあっても揺るがない意志が那月の扉を開けた。
胸部から魔力が発せられると、そのまま那月を持ち上げ、その場に立たせた。
影のような霧のようなそれは止まることなく流れ続け、周囲を覆っていく。
幸せを奪う存在を滅する力が、泉のように溢れてくる。
──そして、那月自身も変化を見せた。
魔力を呼ぶ那月。
その魔力を受け入れる那月。
魔力を溜めおく那月。
那月を魔力から護る那月。
いくつもの那月が現れ、それぞれに役割を果たしながら、ブレた写真のように那月本体に重なり合い、揺れていた。
しかし、その眼は真っ直ぐに獲物をとらえている。
異様さにたじろぐ夜獣に向け、那月はスピールを構えた。
「!」
銃の反動以上に強力な艦砲の如き光の轟弾が放たれ、夜獣を飲み込み、一瞬で消し去った。
破損したワンボックスカーも魔力が修復して、元どおりの形と位置に戻した。
同時に、また二人、那月から那月が現れていた。
「はっ、はあーーっ……、はあーーっ……、っぐ……、はあーーっ」
あからさまに異常な呼吸と、多量の汗にもかかわらず、那月の眼は前を見据えたまま動かなかった。
その間にも、魔力は収まるどころか勢いを増し、街を支配する気配を帯びていた。
そしてまた、それを抑える那月が現れると、呼吸と発汗は更に激しくなった。
「いかん、このままでは持っていかれる!」
「スピール!」
「了解!」
精神を失うとして呪神が叫び、惣神が銃神に促した。
右手で構えたままのスピールは、那月の意思に関係なくシリンダーがスイングアウトし、トリガーが引かれた。
那月を緊急用の
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