第3話 三体の……

「いた、三体」


 そう言って、岩東那月いわとうなつきは大通りの歩道を歩く三体の夜獣やじゅうを見つけた。


 夜十時になろうかという時間。


 街は人の数こそ若干減ったものの、飲み会途中の会社員を中心に賑わい、行きかっている。


 夏にあって涼しい格好の人間に比べ、夜獣は相変わらず黒のスーツをきっちり着こなしていた。


 そして今回、その数は三体。


 頭部は全員、狼で中肉中背といった体躯たいく


 しかも、一匹狼ならぬ三匹の友、とでもいうように男子高校生を連想させる雰囲気で街を歩いている。


 だが人々はその存在に気づくことなく、楽しそうな顔をしていた。


 那月以外は。


「さて、どうするか……」


 呟きながら夜獣の姿を追う那月。


 街の大通りは自動車が一台分通る一方通行の車道を挟んで歩道があり、商店やビルが建ちならんでいる。


 那月はその車道を挟んだ反対側の歩道から、夜獣の斜め後ろを見る位置で歩みをあわせている。


「火力重視に実装して各個撃破が良いのだろうね」


 銃神じゅうしんが目の前の夜獣に対して提案した。


「たしかに、夜獣が見かけどおりとはかぎらん」


「ガーッハハハ、一対一にさえもっていければ、那月は負けんからな」


「私もそう思います」


 それに呪神じゅしん武神ぶしん惣神そうしんが同意して言った。


 無言ながら宅神たくしん衣神いしん商神しょうしんもそれに納得した。


「よし、それでいこう」


 方針が決まると、那月は右腰のホルスターからスピールを取り出した。


 魔法を撃ちだせる拳銃、スピール。


 そのシリンダーをスイングアウトさせ、装填されていた効果筒こうかとう、全六発を排出した。


 効果筒とは、簡単にいえば魔法を撃つための空薬莢からやっきょうである。


 既存の銃を用いて魔法が使えるように発明されたもので、聖銀製せいぎんせいの円筒に呪紋が刻印されてあり、魔力を充填させることで詠唱などを省略し、引き金を引くだけで簡単に魔法が使用できるのだ。


 当然、使用ごとに魔力を消費し、その魔法の威力によっても変わるため、自身の魔力容量が少ない一般的なユーザーは、グリップ内部に魔力を満たした弾倉部を収納して使うこととなる。


 ──排出した効果筒が路面に落ちる直前に銀色の光球となり、左腰にあるポーチに吸い込まれていく。


 再装填における効率化のための回収機能。


 それにかまわず那月は同じポーチに左手を入れ、必要な効果筒を取り出した。


重光弾じゅうこうだん捕縛弾ほばくだん純聖弾じゅんせいだん、凍結弾、身代わり弾、吹っ飛べ弾」


 自分だけの呼び名を含めながらシリンダーに装填していく。


「あとはタイミングをみて……」


 言いかけて、那月は変化に気づいた。


 それは七柱の神も同様であった。


 夜獣たちの目が、前方、百メールほど先の母子を捉えていた。


 事務職らしい三十代半ばの母親と、小学三年生ぐらいの娘、そして五歳ほどの息子。


 母親を中心に手を繋いで歩いている。


 金曜の夜。


 諸事情はあるようだが、そこに悲壮感はなく、三人とも幸せそうな笑顔をしていた。


「今日、学校でこんなことがあったんだよ」


「まあ、それは楽しそうね」


「ボクも早くガッコウいきたいな」


 そんな会話が聞こえてきそうだった。


 しかし夜獣の決定は変わらず、真っ直ぐに母子へ向かっていく。


 夜獣は攻撃した者に反撃をするが、いきなり襲いかかるようなことはしない。


 だが、目標として捉えた者には触れ、精神を侵す霊的毒素を与えて狂わせる。


 女、子供といった線引きはない。


 幼い子でさえ容赦なく狂人に変わる。


「!」


 一拍、強い鼓動が響き、那月の記憶が脳を駆け巡っていく。


 母、弟、デパート、笑顔、七人の大人たち、立ち上がる影、涙……。


 泣いてたまるか、やられてやるもんか、ふざけんじゃない。


 私が……、みんなを守る!!


 ──気づいた時にはすでに引き金を引いていた。


 五歳の子に触れるはずだった夜獣の手は、重なり合う光の光弾によって消し飛んだ。


 そして夜獣は自分たちを攻撃する驚異の存在、那月に目を向けた。


 もはや目標は母子ではなく那月。


 眼光鋭く、牙を剝き出し、爪が引き裂く刃として現れる。


 夜獣が、全力で始末する体勢になった。


「うおおおおおおおーっ、!!!!!!!」


 那月は叫びながら夜獣たちへ駆け出した。

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