自棄酒そして
シヨゥ
第1話
「またダメだったよ」
呼び出されて居酒屋に来てみれば、先に飲み始めていた彼がそう漏らす。なにかに失敗したことはあきらか。
「ダメだったって何? この前言っていた新しい事業が失敗したの?」
「そう」
「早くない? まだ1か月ぐらいしか経ってないじゃないか」
「1か月前はいい事業計画ができたって思ったわけ。でもよ。調べれば調べるほどにハードルが高いのなんのって。参入者がほぼいないことの理由がわかってしまったわけよ」
「それで諦めたと」
「もう1回計画の練り直しですわ。ほんと1か月損した。だから今日は付き合ってほしい」
「分かったよ。それじゃあお疲れさん」
ちょうど運ばれてきた生ビールで乾杯をする。
「それにしても早すぎるんじゃないか? 聞いた感じ儲かりそうだったけど」
「労力に見合わないって。あんなの馬鹿正直に取り組んでいたら全然利益出ないって」
「じゃあ馬鹿正直に向き合わなければいいのでは?」
「えっ?」
「馬鹿正直に向き合うからハードルが高いわけだろ? ならハードルの横を通るみたいな抜け穴みたいな方法とか探したの?」
「いやそれしかないからさ」
「本当にそうか? じゃあその事業に参入している企業はどうやって儲けているんだ?」
「……どうやってだろう?」
「言葉がきつくなるが、調べが甘いとしか言いようがないな」
言い切ると彼はジョッキを置いた。
「成功者ってのはあきらめない。あきらめないからこそ他人とは違う道を思いついて、実行して、成功する。まだたった1か月だろ。まだ考えを巡らせていない部分があるはずだ。付き合ってやるから考えてみよう」
そう提案すると彼がボロボロと泣き出した。
「ありがとう……ありがとう」
「それじゃあ今上がっている問題から整理してみよう」
自棄酒から建設的な企画会議へ。大きく趣旨が変わった飲み会は二次会、三次会へと続いていく。これほどにまで頭を使う飲み会は後にも先にもないだろう。
自棄酒そして シヨゥ @Shiyoxu
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