【42-19】

橙 suzukake

【42-19】

「ありがとうございます。確かに承りました。では… ナンバープレートはいかがいたしましょう。ご希望されるナンバーとかはございますか?」


「私ね、自分の車を持つようになってこれで4台目なの。私の誕生日が1月9日だから、いつも『19』は付けていたのね。1台目は二十歳の時だったから20-19。次の車の時が25歳だったから25-19。で、次が36-19で、今回は42歳だから【42-19】でお願いするわ」


「ええっと・・・ お客様、本当に【42-19】をご希望されるんですか?」


「ええ、そうしていただくわ。何か不都合でも?」


「あ、いや、ご希望されれば、抽選になることなく、まず、間違いなく【42-19】のナンバーは取得可能だとは思いますが… でも、お客様、『42』は『42死に』の意味を持つ不吉な数字ですので、希望されない限りは元々、車のナンバープレートとして欠番になっている数字なんです。しかも、『19』ですから、【42死に-19行く】となって最悪の組合せになろうかと…」


「あら、そういう意味で数字をとらえれば、そう読めるわね。でも、誰でも、生きているうちは42歳になるものでしょ?42歳になったら死ぬとか、不幸になるとかいうわけでもないでしょう?」


「まあ、そうなんですが… わかりました。これから私が過去に車をお売りした方のエピソードを3つお話します。それを聞いていただいて、それでも、【42-19】のナンバーを付けたいということであれば、私も止めません。それでよろしいですか?」


「わかったわ。そのお話、是非、お聞かせいただきたいわ」


「わかりました。でも、今からお話しする内容は、営業にもかかわることですので口外しないことをお約束いただけますでしょうか?」


「大丈夫よ。口外しません」


「ふう… では、お一人目のお話をします。その方は美奈代みなよさんというお名前の女性の方で、ご自分の生年月日をそのままナンバーにしたいということでご希望されました。昭和42年1月9日生まれで【42-19】ですね。私も、まだ、この営業の仕事を始めたばかりだったこともあって、『はいはい』と安請け合いしたのですが、後で、上司に『なんで、そんなナンバーを受けたんだ!』ってこっぴどく叱られました。で、美奈代さんは新車をご購入いただいてから3か月後に交通事故でお亡くなりになりました。制限時速60kmの見通しの良い直線道路で電柱に正面衝突して即死です。ブレーキ痕が無いことから居眠り運転の疑い、というのが警察の見解です」


「まあ、居眠り運転なら、そうなっちゃっても仕方ないわね」


「次に二つ目の事例です。結婚直前のカップルが来店されてご購入いただきました。彼氏さんの誕生日が4月2日生まれで、彼女さんの誕生日が1月9日生まれで、お二人の誕生日を一つのナンバーにしたいということでした。結婚前の幸せな時期でのご来店でしたので、私が不吉な数字のお話をしてもお二人で笑い飛ばされていました。幸せの証としてそのナンバーを強く希望していることを私も上司に話して、最後はお認めいたしました。ところが、ご結婚される前の、ある朝の通勤時間帯に、停まっていたゴミ収集車に突っ込んで車は大破。二人は即死でした。ブレーキ痕も無いことから、二人で顔を見合わせて会話していたのか、運転手が携帯を操作していたのか、二人が喧嘩をしていたのか、いずれにしましても、車内の状況は不明なのですが、運転手の脇見運転が原因、と警察では判断されました。幸せの絶頂の中、結婚直前の訃報に、私もさすがに凹みました」


「そうね~ かわいそうだわ、ほんと」


「お客様、この二つのエピソードだけでも、最早、充分ではないですか?【42-19】をおやめになりませんか?」


「ううん、もう一つのエピソードを聞きたいわ」


「そうですか… わかりました。その方は男性で、プロの囲碁棋士をされていました。車の商談の冒頭で『ナンバーは【42-19】にしてくれ』とその方は仰いました。前例が二つもある私ですから、車の価格やらグレードの話もそっちのけで、全力でお止めしました。しかし、『勝負の世界で生きている者として、運命にも挑戦をしたい』と頑として自分のお考えを曲げないばかりか、希望ナンバーを受けてくれないなら他の店に行く、とまで言い出したものですからやむなくお受けいたしました」


「で、その方もやっぱり?」


「はい。ワインディングロードを走っておられたのですが、崖下に転落して車は大破し炎上。運転席で黒焦げになって亡くなられました」


「そう… 確かに、不吉なエピソードだわ」


「そうでしょう。もう、4人の方がここまで悲惨な亡くなり方をされているのですから、最早、鉄板の不吉な数字なのです。わかっていただけたでしょうか」


「でも・・・ 俄然、私も挑みたくなったわ。その運命とやらに」


「な、何を仰るんですか!いけません、絶対にいけません!」


「だって、私も、今までずっと、車に命を預けて、自分の年齢と生まれた月日のナンバーで通してきたんですもの、そうは簡単に譲れないわ!」


「では、仕方ありません。実は、今、お話し足りていなかったことがありますので、それをお聞きくださいますか?」


「え?まだ、その話に続きがあるの?」


「はい。お一人目の方、美奈代さんというお名前の女性でしたが、彼女が取得したナンバーは【新潟374 は 42-19】でした。次のカップルの方のお車ナンバーは【新潟532 ね 42-19】でした。そして、プロ囲碁棋士の方のナンバーが【新潟514 は 42-19】だったのです。おわかりになりましたか?」


「え、全然、わからないけど」


「じゃあ、この紙に書きますね。1台目の美奈代さんが『新潟374』。2台目のゴミ収集車に激突した車のナンバーが『新潟532』…」


「あ、ちょっと、待って。374は美奈代で、532はゴミに、ってこと? …ということは、もしかして…」


「そうです。囲碁棋士の方は新潟514で、碁石です。4桁のナンバーは希望される通りにできますが、この地域名の後の3桁の数字は希望された数字ではなく、与えられた数字になります。これが、偶然とはとても思えません」


「わかったわ、わかりました!やめます!この数字!」


「よかった。わかってくださって」


「じゃあ、【42-19】じゃなくて【19-42】にするわ!」





「お客様・・・」








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【42-19】 橙 suzukake @daidai1112

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