キツネと姉妹

緑のキツネ

キツネと姉妹

あいつなんて……大嫌い。

そう思うようになったのは

お母さんが死んでからだ。

お父さんはもう死んでいるから

今は2人しかいない。

そのせいで私たち姉妹の意見は食い違い、

毎日喧嘩していた。



まだ太陽も登っていない朝。

私はキッチンで朝ごはんを作っていた。

私が作れるのは目玉焼きと卵焼きぐらいだ。

手慣れたように

片手で卵を割って作りはじめた。

あいつの分も作らないとな……。

私はいつも早く起きるけど

あいつは学校に行く10分前に起きてくる。

それなのに感謝もなく無言で学校に行く。

妹との言葉の数は少しずつ減ってきていた。

できた目玉焼きをお皿にのせて、

あいつを起こしに行く。


「伊月(いつき)。起きろよ」


「茜(あかね)はいつもうるさいな」


伊月は起き上がり、リビングへと向かった。


「いただきます」


朝ごはんを食べる時間。

これが私にとって苦痛である。

もっと伊月と仲良くしたいのに。

話す言葉が見つからない。

そういえばこの部屋には時計があったな。

辺りを見渡すとポツンと

時計がひとつあった。

その針は完全に止まっていた。


「あの時計って電池でうごいるのかな?」


無言だった。

私の堪忍袋の尾が切れかけた頃、

テレビをつけると

学校に行く時間になっていた。


「やばい。遅刻するよ」


あいつなんか……遅刻すればいいんだ。

自転車に乗りハイスピードで漕ぎはじめた。



『茜はお姉ちゃんなんだから

伊月に優しくしなさい』



お母さんの言葉をふと思い出した。

私は朝ごはんも作って、

あいつを起こしに行ってるのに……。

感謝も何もない。それどころか無言。

私は何であいつの姉なの?

あんな奴の面倒を見ないといけないの?

あいつなんて……いなければ……。


「じゃああいつを消せば良いのか?」


私はチャリを止めた。

どこからか声が聞こえた。

辺りを見渡すとそこには1匹のキツネがいた。


「君が私に話してるの?」


「私は魔法使いのキツネ。

本当に妹は必要ないの?」


何で私のことをこんなに知っているのか?

まさか私の考えてることが……


「あいつなんて……大嫌いだ。

この世から消えてほしい」


「分かった。3.2.1.0」


0と言った瞬間、キツネは消えてしまった。

本当に伊月は消えたのかな……。

学校に着くとすぐに伊月の教室に向かった。

伊月の担任がいたので

聞いてみることにした。


「このクラスに伊月っていますか?」


「北見伊月の事か?」


「はい」


「あいつは1ヶ月前に病気で死んだよ」


え……。

あのキツネが言ったことは本当だった。

家に帰っても私1人しかいない。

やっと1人になれた。

授業が終わり、

家に帰っても私1人しかいない。

もう夜ご飯を2人分作らなくて済む。

ちょうど近くにあった

赤いきつねにお湯を注いだ。

そういえば……

赤いきつねはあいつの好物だったな…。



『伊月はどっちが好きなの?』


『私はやっぱり赤いきつねかな……茜は?』


『私は……緑のたぬきかな』


『えー。絶対赤いきつねの方が美味しいよ。

だって油揚げがあるもん』


『理由はそれだけ?』



私達がそう言いながら笑い合っている

映像が頭に浮かんだ。

あの時はまだ仲が良かったのに。

パサ

目の前には1通の手紙があった。

どこから来たのか?窓は閉まっている。

ドアも閉まっている。

入ってくるはずがないのに。

私はそれを開いた。



遺書

茜へ

今までごめん。

お姉ちゃんにはいつも

お世話になってたのに……。

素直に感謝を伝えられなかった。

私もお姉ちゃんの事は嫌いだった。

だけどもうすぐ死ぬと分かるとなんだか

お姉ちゃんに会いたくなって……。

目玉焼きを作ってくれてありがとう。

いつも朝、起こしてくれてありがとう。

感謝を伝えられなくてごめんね。

お姉ちゃんは私の宝物です。

また会おうね。さようなら。

伊月より



もう目の前の

赤いきつねは伸びているはずだ。

もう汁も少なくなってるはず。

それなのに私は食べようとはしなかった。

涙で景色が滲んでいく。

伊月と食べたい。もう一度会いたい。

目の前にキツネが現れた。


「その気持ちが大切なんだよ」


「キツネさん。この魔法を解いてください」


「分かった」


「3.2.1.0」


0と言った瞬間、

キツネは伊月へと変わった。


「伊月。会いたかったよ」


「何でお姉ちゃんがここにいるの?」


「早く食べようよ。赤いきつねを」


「そうだね」


目の前にはちょうど3分経った

赤いきつねが2つあった。


「いただきます」


リビングにあった壊れたはずの時計は

ゆっくり動きはじめた。

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