魔法少女、全国行脚!

第31話 オッサン少女、絡まれる

 ブラド・ド・メギドス子爵。成金ネズミ男の名前だそうだ。

 なんか血まみれでドドメ色でギトギトするような響きだな。


 どうやらコイツは、新たに辺境伯に任じられたヤツの寄子よりこ、つまり手下らしい。新・辺境伯が領地の掌握で多忙なため、コイツに親書を託して登城させた、というわけだ。


 ちなみに、後でビシャルに聞いたところ、寄親よりおや寄子よりこってのは、貴族の家同士の主従関係を親子関係に例えたものだそうだ。


「そ、そんな……エメリウス領はゲロウメ様の下で平和に繁栄しております!」


 瘴気で表情は見えないけど、ブラドドメの声は裏返ってた。ハンカチを出して顔に当ててるので、盛大に脂汗を垂らしているに違いない。


 ……まぁ、コイツは例の陰謀に関係してない「かも」しれないけどな。


 まぁ、なんだ。そんな可能性は限りなくゼロだけどね。

 そもそも、陰謀に加担してなければ、今頃は「酷い言いがかりだ!」と怒り心頭のはず。これはいわゆる「義憤」だから、本人にとってマイナスの感情は起こらない。

 つまり、顔に瘴気が生じている時点で、「クロ」なわけだ。

 とはいえ、こちらには物証などない。俺の「瘴気探知」は俺にしかわからないのだから。


 しかし、新しい辺境伯って、「ゲロウメ」か。いや、俺は前世の日本語の響きで反応してるだけだけど……。

 誰か知らんが、俺を笑い死にさせようとしてるだろ!?

 思わず頬がピクピクしちゃうじゃないかw


 さてと。

 ここでコイツをとっちめても、どうせ何も出てこない。辺境伯領の問題は、やはり現地に行かないと、どうにもならないだろう。

 というわけで。


「では、本日はこれで失礼させていただきます」


 一礼すると、俺は踵を返して謁見の間の出口へ向かった。

 具題的なところはさておき、「王家と貴族がマナを出しきって、貧困層に仕事を作る」という点は、国王から了解が得られた。これが通れば、少なくとも王都から瘴気がだだ漏れ、という今の状況は終るはずだ。

 そうなれば、次は地方・辺境となる。当然、エメリウス領はその筆頭だ。


 ネズミ男の子爵は、その日のうちに帰郷するとか。

 うん。引き止めないけどね。全力で。俺が行くまでに「首を洗ってその時を待て」しとけや。


 ……なんだけど。


 なんでかなぁ。広間にいる騎士たちの視線が凄いんですけど。いや、あれだけの大立回りしたんだから仕方がないか。

 だけど俺、誰一人として指一本、触れてもいないのに……。


 特に、刺すように鋭いのを感じたので立ち止まる。そちらを見ると、以外にも小柄な騎士だった。兜で顔は見えないが、目が合った感じがする。

 と、騎士が兜を脱いだ。零れ落ちる金髪。


 ……おお! 女性騎士!?


 こちらを睨みつける青く怜悧な瞳。

 うーん。絵になるな。

 ……これはフラグが立ったぞ、きっと。


 一礼して、俺は広間を出た。

 しかし兵士らの視線は、俺が王宮の正門を潜るまで粘りつくように付きまとった。


 そんなに見つめちゃ、いや~ん。


* * * *


 中央区の城門を出て南地区に入ると、路地裏に入って人目がないのを確認してから、変身を解除した。

 いつも思うんだが、この一瞬全裸になるのだけは勘弁して欲しい。収納から服が出てくるまで金縛りになるのも。

 柄の悪い奴らを引き寄せちまうじゃないか。


「よぉ、お嬢ちゃん」


 路地裏の戸が開いて、ニタニタ笑ってる男が出て来た。どこかの窓から覗いていやがったな。

 ああ、もう全身から「私、性犯罪者です」てな雰囲気がだだ漏れ。


「いきなりあんな姿を見せつけられちゃあ、俺のムスコが黙ってられなくてな」


 うっ。元男としては気持ちが分からんでもない。

 だが、今生としては気持ちが悪すぎる!

 いいから! ムスコさんを紹介してくれなくても! 股間に手をやるな!


「エッチなことは、イケナイと思います!」


 そう言って右手を上げ、そこへメイスを収納から出した。はっきり言って、変身しないと持ちあげるのも辛いほど重い。

 なので、振り下ろすまでもなく男の頭に命中。


「グヮッ!」


 舌なめずりをしていたところなので、思いっ切り噛んだらしい。股間から手を放して口を抑え、その場にうずくまった。


 ……うん。ちょっと過剰防衛だったかな?


 少しだけ反省して、メイスを収納に戻す。

 そう言えばこれ、魔物との決戦で借りてたものだっけ。返し忘れてた。


 で、表通りに戻ってギルドに向かう。

 メイスを借りた冒険者がいると良いんだけど。いなくても、窓口に預けておけば返してくれるだろう。

 変身を解いたので、体力も普通の女の子だから、「トテトテ」という擬音が似合う感じで街を歩く。


 ……なんか、やたら視線を感じるな。


 どうやら、比較的治安のよい南地区でも、美少女が一人で出歩いていると目立つらしい。考えたら、いつもパーティーのみんなと一緒だった。最低でも、ノリスがそばにいた。


 ……みんな、さりげなく視線からかばってくれてたんだなぁ。


 などと感謝しながらも、悪意なら瘴気を感じるから大丈夫、と思っていたら。

 はたと気づいた。


 ……さっきの男、瘴気はまとってなかった!


 そうか。あくまでも本人は「イイコト」しようとして口説いていただけだから、「悪意」はなかったわけだ。

 される側はたまったもんじゃないけど。なにせ、中身はオッサンだから「ただしイケメンに限る」もあり得ないし。


 というわけで、長い銀髪をサッとまとめて、フードを深くかぶる。ちょっと暑いけど、人目を引くのは避けたい。


 そして、王都の南門近くのギルドまで「トテトテ」と歩きだすのだった。


* * * *


「エミルちゃん!」


 ギルドの扉を潜ったとたん、ノリスの声が出迎えた。全力で駆け寄って来たと思ったら、そのままベアハッグ。


「まったくもう、いきなりどこ行ってたのよ!」

「ちょっ、ギブギブ!」


 女剣士の筋力で抱きしめられたら、身体が持たない。息を吐いたらもう吸えないほどだ。

 そのまま、酒場コーナーのみんながいるテーブルへ連行された。


 でもって、いきさつを話したら。


「「「「「国王に直訴!?」」」」」


 きれいにハモられた。


「だって……スラムの人たち、みんな瘴気まみれなんだもの」


 それがどんどん産屋に流れ込んで、どんどん魔物が生まれてくる。そんなの、一刻だって放置できない。

 だから、教会の孤児たちのために食料を――。


「あ、そうでした!」


 寄付したのはギルドから預かってる糧食の一部だ。買い取らないとな。それに、借りてたメイスも返さないと。

 で、窓口へ向かったわけだけど。


「エミル嬢。あなたに話があります」


 入口の方から声がかかった。

 振り向くと、謁見の間で睨んでた、金髪碧眼の女性騎士が立っていた。


 男の次は女騎士とはな。全く、よく絡まれる日だ。

 フラグ回収、早すぎるぞ!

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