第19話 オッサン少女、支度する
ギルドからの扱いには納得いかない点は多かったけど、さりとてゴブリンの大群を放置しておくわけにはいかない。なんたって、大群というより大軍に近いのだから。
もしかするとゴブリンキングが現れたかもしれない、とか言ってるし。
よりにもよって、王都の目と鼻の先だ。下手をすればこの国が滅んでしまいかねない。
そんなわけで、レイド戦への参加を了承すると、ギルドマスターは俺たちに新しいギルド証と今回の報酬を渡した。
あ、ビシャルだけは銀ランクのままだ。金へのランクアップは基準が厳しいらしい。
これ以上、レベルとの
今回の報酬だけど、ゴブリン討伐の依頼が達成とされたので四十ミナとなった。
加えて、焼きゴブリン盛り合わせが討伐の成果と認められたので、さらに増額。
ゴブリンは見つけ次第討伐する。そんな常設依頼が国から出されているそうだ。魔石は全部俺が貰っちゃったけど、討伐の証拠となる焼きゴブリンだけで八十ミナとなった。
ちなみに、報酬は厳密にみんなで等分に分けた。結構もめたけど。
ブールなんて「お前が焼き払ったんだから」と全額よこそうとしたけど、そこは「だって仲間だもん」と固辞した。
でも、ビシャルはどちらの報酬も辞退した。貰った宝珠で充分だそうだ。
そして、俺たちは街へと出た。
さて、まずは装備を整えないと。
ギルド推薦の雑貨屋で、携行食を補充。森の奥深くにまで行くとなると、かなりの量が必要だ。食用になる魔物もいるけれど、じっくり血抜きして
そのほか、傷薬や解毒剤なども。アルスや俺がマナ切れしたら困るからね。
もっとも、食料や薬など消耗品は、俺が荷運び役としてギルドが用意した分を持って行く手はずになっている。しかし、もし森の中ではぐれてしまったら一大事だ。
というわけで、最低でも森を脱出するまでの分は各自が持たないと。今回の討伐で、この身体で一日に携行食をいくつ食べるかわかったので、俺も過不足なく買えたはず。それでも、前回の討伐に比べると倍くらいの量になった。
かなりの額の出費だが、討伐の報酬で懐が豊かだ。
胸が、じゃないぞ?
で、その後はバラバラに分かれて別行動。
戦士組は武器屋へ。焼けてしまったノリスの胸当ては、新調することに。テリーも矢を受けて危なかったから、この際新調するそうだ。
テリーは加えて矢の補充。ブールの盾も修理が必要だった。
アルスは教会かな? 信心深いのは良い事だけど、マナが貯まらないだろうなぁ。
武器も防具も、携行食ですらも、庶民の生活費に比べてはるかに高い。魔法職だってマナを大量に消費するのだから、冒険者は決して割りの良い商売ではない。はっきり言って、商売でもやった方が身入りが良いはずだ。
それでもみんなが冒険者になったのは、きっと強くなりたいからだろうな。
それに、元手はゼロでも始められるし。最初の木ランクで受けられる依頼なんて、薬草採取とかだし。
で。みんなから離れて、俺が向かうのは魔法屋だ。
マナが空になった小粒の宝珠を処分するために。
……なに? ビシャルも来るって?
* * * *
「ふん。このサイズならゴブリンのだろ?」
カウンターの上にバラバラと出した宝珠を見て、婆さんは言った。
「しかも、全部マナが空っぽとはね。普通、魔石を浄化しても半分は残るもんだ」
「えーと、売れませんか?」
俺の質問に、婆さんは。
「いんや。きれいに浄化できてるから、財布用には向いてるね。瘴気が少しでも残ってると、しょっ引かれちまう」
なんでも、宝珠がきちんと浄化できてさえいれば、瘴気を受け付けなくなるという。なので、瘴気の残った不完全な宝珠は販売禁止だそうだ。
人間誰しも、気分が暗くなると多少は瘴気が生じてしまう。それでも宝珠に込める時は清浄なマナだけになるのだそうだ。
……てことは、落ち込んだときは宝珠からマナを引きだせば、ある程度は気が晴れるのか。現金なもんだな。
文字通りの意味で。
で、カラの宝珠は十個あたり一ミナで引き取ってもらった。
その代金で、宝珠を使った財布を一つ購入する。容量が五十ミナ程度のものだが、マナはカラなので安かった。形は指輪タイプで、財布用途では一般的らしい。
裸の宝珠では持ち運びに難があるし、戦闘中にマナを補充するなら、直接肌に触れていた方が都合がいい。
石ランクのギルド証は八ミナしか入らないので、今回の戦闘時、マナ補給にはちょっと心もとなかった。今は鋼ランクだから二十七ミナになったけど、魔の森の討伐が長引けば分からない。
元日本人として、貯金が減るのは悲しいけど、マナを惜しんで命を落としたらシャレにならない。
……貯めといても、別に利息が付くわけじゃないし。あ、日本でもほとんど同じか。
定期預金の通帳に記載される、誤差のような金額を思い出した。そう言えば、あっちの俺は死んじまったんだから、一体どうなったのやら……。
用事が済んだので、俺の背後の奴にも聞いてみる。あくまでも社交辞令だ。
「ビシャルさんも、財布用の宝珠を買いますか?」
銀ランクのギルド証は、俺の買った財布の倍以上が入る。それでも、マナをバカ食いする魔法をぶっ放したら破産だ。
「そうだな。マナを溜めるのに時間がかかりそうだが」
俺が渡したマナたっぷりの宝珠は、既にギルド証と杖に補充したようだ。彼もカラになった大きめの宝珠を売り払い、俺の財布の倍くらいのを購入した。
ホクホク顔の婆さんに「毎度あり」と見送られながら、俺たちは店を後にした。
* * * *
で、仲間とはギルドの酒場で待ち合わせることになってたのだが。
扉を開けたら、中は人で埋め尽くされていた。
いつも夕刻には、依頼から戻った冒険者が列をなしていたが、そんなものではなかった。朝の満員電車並みだ。
「すみません、通してください!」
まさに「肉壁」だ。入り込む隙間なんてない。それどころか、後ろからどんどん新手が入って来る。
もはや人の濁流だ。もみくちゃにされながら、どんどん流されてしまう。
……あ、汗臭い! 鼻が曲がりそう!
気が付くと、裏手の訓練場に流れついていた。場所が広いので人口密度が下がり、ようやく一息ついた。
ここに用はない。早くみんなと合流しないと。
そう思って振り返ると、なぜかまた肉壁がそそり立っていた。
「なんだこのメスガキ。こんなところまでケツを売りにでも来たのか?」
肉壁が、しゃべった?
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