第17話 オッサン少女、談判する
いつもよりもやや遅めに、皆は起き出して来た。
「さて、どうしたものかな?」
朝食の後、そう切りだしたブールのほっぺたには、盛大な紅葉柄が描かれていた。
……だって、いくら大丈夫だと言っても近寄って来るんだもの。正当防衛だ。
理由を話したら、満場一致で「ブールが悪い」となったし。
「やはり一度、引くべきであろう。夕べのあれが大半とは思えん」
そんなビシャルの発言に、テリーが返した。
「そう思う根拠は?」
「複数のゴブリンメイジがいるなら、その上にゴブリンリーダーなどのさらなる上位種がいるはずだ」
なるほどな。
だが、隣のアルスは顎に手を当てて考え込んでいる。
「アルスくん、どうしたの?」
「うん……あれを放置して帰るのはマズイよね」
そう言って指さしたのは、夕べ俺が量産した焼きゴブリンだ。猪や熊の系統なら肉が食用になるらしいが、あの山になったのからは酷い臭いがする。
「……さすがにアレは食べれませんよね」
「「「「「その発想は無かった!」」」」」
なぜかハモられた。
* * * *
要するにアルスによれば。
通常は討伐の証に魔石と身体の一部(たいていは両耳)を持ち返るのだが、数が多い上に焼け焦げて硬くなっているので、全員でやっても丸一日かかりそうだ、ということだ。
特に、耳の部分はウェルダンを通り越して炭化してるので、ボロボロ崩れそうだった。
しかも総出で回収ということは、当然俺もやると言うことになる。魚を
で、終ったころにまた襲撃を受けたら……魔の永久ループだ。
「丸ごと持って帰れれば良いのにね」
なんてつぶやいたら、チェシャが顔を出した。
「持って帰ればいいと思うよ」
なんだ。久しぶりだな。もう出てこなくていいのに。
「つれないなぁ。まあいいか」
そこで、いつものドヤ顔。
「キミには収納魔法があるんだから、あれくらいパッと収納できるよ」
またそんな便利魔法……説明し忘れてたなコノヤロ。
「そんなことないよ。変身のたびに使ってるじゃないか」
へ?
「消えた服がどこに行くのか、考えたことない? で、出てくるときは着ていた通りでしょ?」
確かにそうだ。
腰帯も、そこに差した短杖までそのままだし。
よし。
俺はすっくと立ちあがると、みんなに向かって宣言した。
「わかりました。私が収納します」
あっけに取られてるみんなを尻目に。
いや、だからってお尻を注視しないでってば!
「収納!」
手をかざしてそう唱えたら、焼きゴブリンの山盛りは消え去った。
「「「「「おおー!」」」」」
またもハモった。
とりあえずこれで、帰路に付けるな。
* * * *
で、翌日の夕方。
何とか門が閉まる前に王都にたどり着き、ギルドで討伐結果を報告したのだが。
「すみません、魔石と耳がそれだけでは……」
受付嬢のお姉さんを困らせてしまった。
俺が変身する前にみんなで倒したゴブリンは、普通に魔石と両耳を持ち返ったのだが、やはりそれだけでは上位種がいた証拠にはならないらしい。
そこで、おずおずと申し出る。
「あの……他にも持ち返ってるので、見ていただけますか」
「はい、どうぞ」
「いえ……ここではちょっと」
場所も取るし、何より臭い。
「もっと広い所の方が」
「では、裏の訓練場を使いますか?」
あそこなら良さそうだ。
「はい、お願いします」
ということで、そこに収納から焼きゴブリン山盛りを出した。
「これは……収納魔法?」
お姉さん、フリーズしちゃった。
「えと……ナイショにした方が良いですよね?」
「……は、はい。それにしてもこんなに……」
で、ビシャルの方に向き直った。
「さすがは銀ランクのビシャルさまですね」
「あ……いや、俺は――」
こっちを見て戸惑ってるので、思いっ切りウィンクしてやった。
「うっ!……うむ……まあな。で、解体と魔石の買取を――」
そこで、俺は割り込んだ。
「魔石の方は、そのまま引き取らせてください」
* * * *
「変身!」
宿に戻ってから、一人であの謎ダンスをする。
さすがに変身後の衣装では刺激が強すぎるので、廊下に出るのはまずい。なので、女人禁制のこの部屋で変身し、引き取った魔石を浄化するわけだ。
ブレスレットのマナ回復の剰余で宝珠を満たすのは邪道だと、チェシャからクレームが入った。だけど、魔石の瘴気を浄化するのなら文句はないはず。何しろ、魔法少女の本来の役目だし。
「浄化!」
最初に小粒な下位ゴブリンの魔石を浄化し、そのマナを使って上位種のを浄化していく。結果的に、マナ切れした無数の小粒宝珠と、マナに満ちた十数個のやや大きな宝珠が手に入った。
ここで、変身を解除して外に声をかける。
「もう入ってきていいですよ、ノリスさん」
「同性なんだから、私も立ち会いたかったな~」
「いえ、大丈夫ですから」
立ち会ってどうする気なのか、聞いたらダメな気が凄くするのでスルーだ。
そして、やや大粒な宝珠を袋に入れ、小粒なのは収納でしまって階下の食堂へ向かった。
そこでは仲間の男性陣が祝杯を挙げていた。
「それでは、依頼達成とレベルアップを記念して、乾杯!」
ブールの音頭で、今夜何度目かの乾杯となった。
俺は変身前に魔法を使いまくってたので、レベル5になった。ビシャルもレベル7になり、悪くない成長度だ。
やはり、ただ魔法を使うだけでなく敵を倒した方がレベルが上がりやすいみたい。
そして今回の魔石、そのままギルドに売れば合計四百ミナになるくらいだったらしい。浄化して宝珠にした時のマナが買い取り価格なので、最終的には二百ミナほどがビシャルの杖に納まった。
これで大体、あの模擬戦で浄化してしまう前のマナ量に戻ったはずだ。
ちなみに、後に残った大量のカラ宝珠だが、これにも魔法具に組み込むなどの需要があるらしい。短杖を買った魔法具屋に持って行くと、多少の
なので、それらは袋に入れて胸元へ……。
……いや。決して今夜ブレスレットのマナが回復するときの余剰で、とか考えてないよ。
ほんとだよ!
* * * *
朝チュンで目覚めると。
「おはよう、エミル」
胸から生えてる謎生物に挨拶されて。
……お、おはよう。
「何だかねぇ、この辺からマナを一杯感じるんだけど」
俺の胸のあたりをまさぐりやがる。
……ああっ、だめ、そんなところ触っちゃ!
「脳内で気色悪いセリフ発しないでくれる?」
……この野郎! 俺に
「まぁ、とにかくこれはマズイのよ。この世界のマナの流れがおかしくなっちゃうからね」
……ぶーぶー。だったら魔法少女それ自体がイレギュラーだろ!!
「今度やったらペナルティね。そうだなぁ、変身ダンスの光の渦をなくしちゃうとか」
だめ~! R18来るから! きっと来る! きっと来る!
「あ、変身解除の金縛りタイムを二倍でもいいな」
どっちも願い下げだ。
わかった。もうしないから。
「じゃ、このマナはボッシュートするね。宝珠は好きにしていいから」
朝から俺は、しおしおのパ~だ……
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