第10話 オッサン少女、買い物する(2)
宿に戻って一旦解散。そして、各自が荷物を部屋に置いた後、宿屋の前に集合となった。
この宿では昼飯は出してないので、腹が減ったら屋台などで適当につまむということだ。
俺はチャージし損ねててスカンピンだが、みんなが何か買うたびに分けてもらえた。
しばらくすると、ノリスが。
「じゃあ、午後はエミルちゃんの装備ね!」
そう。魔法少女は、変身しないとただの非力な女の子だ。普段でも、最低限の身を守る防具くらいは必要だ。
それに、やっぱりファンタジー物なら武器屋とか魔法屋だよな。
おら、ワクワクしてきただ!
* * * *
「こんな小娘が冒険者だと? 世も末だねぇ」
背が低くて髭の濃い、やたら筋骨たくましいオッサンにそう言われると、なかなか複雑な感じだ。
ドワーフだな。どう見ても。なら、エルフもいるな。いてほしい。
「エミルは魔法職なんだ」
ブールの言葉に、武器屋のオヤジは「ふん」と鼻を鳴らした。
「それだと、防具は革鎧が精々だな」
もしかして、この世界でも「鉄などの卑金属は魔法の発動を妨げる」てのがあるのかな? と思ったけど。単に重量の問題らしい。
オヤジは店の奥に行ってゴソゴソやったあと、いくつかの革鎧を持ってきた。
「ほれ、これが女ものの鎧だ。当ててみて合うやつを選びな」
おや? サイズはどれも同じように見えるぞ。
「あの、これってどの辺が違うんですか?」
「決まっとるだろうが」
オヤジは自分の胸のあたりに手を当てた。ニヤッと笑って。
なんかムカッと来たんだけど、なぜなのかは知りたくない……。
ノリスに手伝ってもらって、一つ一つ当ててみる。結局、胸のサイズは一番小さいのでぴったりだった。
なんだろう。……なんで負けた感じがするんだ?
次は武器なんだが。うん、思った通りだ。一番軽いショートソードでも重すぎる。片手剣なのに、両手で持ってもふらついてしまう。
「嬢ちゃん。これならどうだ?」
別な剣を渡された。
「あ、軽いです! これなら――」
と、ブールが割って入った。
「ミスリルとか、やめてくれよオヤジ」
えええ? これがミスリル?
確かに、鉄とは違う青みが買った光沢を帯びている。
「お前さんの腕力でなら、それしかないな」
「これは凄いですね。でも、お高いんでしょう?」
「いやいや。これでたったの百ミルだ」
おおー! と声が上げたのは周囲の店員たち。
なにそれ、ヤラセかよ!
「決して損はさせんよ」
商売上手なドワーフって、ありなの?
ま、今の「ノルムの盾」の予算じゃ、支払えないから意味ないんだけど。
「何なら分割払いでも」と引き下がるオヤジをしり目に、革鎧だけ買って店を後にした。
シンプルなローブでも、上から革鎧を装備すると冒険者らしさが赤丸急上昇だ。
「エミルちゃんは魔法職なんだから、剣は合わないよね」
アルスくんが慰めてくれる。
うん、まぁ……剣術も習ってないのに、相手と切り結ぶなんて無理だしな。
次に入ったのは魔法屋。呪文を学ぶ魔法書や、杖などの魔法具、
扉を開けると、店内は薄暗く、左右の棚には様々な品が無造作に並べられている。少しかび臭いような、何かハーブのような香りが漂ってる。
「おや、お客さんかえ?」
店の奥から声がする。灰色のローブで、顔はフードに隠れているけど、声からすると、しわくちゃの婆さんだな。
「この子に杖を見繕いたいんです」
アルスがそう告げると、老婆は「よっこらせ」と立ち上がって、こちらへ歩いてきた。
「ふーむ。あんた、魔法は何が使えるかね?」
「えっと……火属性を少々」
夕べので呪文はしっかり覚えたので、変身しなくても「炎の矢」は撃つことができるはずだ。威力はさておき。
……そう言えば、アイツは「炎の矢」しか撃ってこなかったな? 結界を張れるくらいなのに、攻撃は初級魔法ばかりだった。
手加減したのか、こっちがちょこまか動くから、長い詠唱ができなかったのか。
老婆はまじまじと俺を見つめた。「鑑定」とかされてるのかも。
「ふーむ。初心者もいいところだね。なら、これなんてどうだい?」
渡されたのは
一番値段も安い。
それでも、魔法の発動や制御をしやすくしてくれるそうだ。
「でも、これってアルスさんが持ってるのとは違いますね?」
アルスの杖はずっと長くて、一メートル半くらいある。上端には金属製のゴツい飾りが付き、下端の石突も金属でカバーされている。
「ああ、これは魔法具というより打撃武器だからね。自衛のための」
とは言え、あのゴツい金属製の飾りが直撃したら、命が危ないぞ。
「魔法の試し撃ちがしたければ、奥の部屋を使うと良いぞ」
婆さんはそう言うと、店の奥の木戸を示した。
戸を開くと、その奥は細長い部屋になっていた。奥には弓道の射場の的みたいなのがおかれている。
「へぇ……」
木戸を潜るときに、ギルドの練習場に出入りするときに感じた感触があった。これは防御の結界が張られているな。
「ここなら、火でも水でも、安全に試し打ちできるぞえ」
「ありがとうございます」
婆さんに一礼して、俺は的をめがけて「炎の矢」を何度か撃ってみた。確かに、短杖を使った方が命中率が高い。
もっとも威力はショボイし、数発撃ったら頭がズンと重くなった。やっぱり、この身体に溜められるマナは、大した量ではないようだ。
ごく普通の町娘レベルだな。
そして、ブレスレットには膨大な量のマナが溜めこまれているものの、やっぱり魔法少女にならないと使えないようだ。
ひとしきり試射してみて、俺は結論を出した。
「この短杖に決めます!」
ということで、お買い上げ。
装備の方の支払いはアルスが行ってたが、「パーティーの共同管理の口座から出すんで、気にしないでいいよ」との事だった。
なんでも、共同口座の管理は彼がしているらしい。確かに、メンバーで随一、学があるというからな。
店から出ると、まだ日は高く午後三時くらいだった。
「じゃあ、ギルドに行ってジャイアントリザードの魔石の代金を受け取るか」
ブールがそう告げたので、一同ぞろぞろと歩きだす。
俺は、革鎧と腰帯に差した短杖のおかげで、すっかり冒険者気分で浮き立っていた。
ルルルン・ルンルン♪
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