第6話 オッサン少女、ギルドへ行く

 その日の夕方。

 王都の門で簡単な検問があった。

 衛兵詰め所で、商人とブールがそれぞれ胸元からペンダントのようなものを取り出し、窓口のプレートの上に置く。するとプレートが淡く光った。


「よし、通っていいぞ」


 ……え? これだけなの?


 本当に簡単で、問題なく門を通ることができた。

 商人の男とは門をくぐった先の広場で分れた。

 ほとんど会話も交わしていないので、名前すら知ることは無かった。


「さて、エミルちゃん。これからなんだけど」


 ノリスさんが声をかけて来た。


「行く当てもないってことだから、あたしたちと一緒にギルドに行かない?」


 もちろん、俺に異論があるはずもない。


「はい、よろしくお願いします!」


 というわけで、俺は『ノルムの盾』のみんなと一緒に、まさに中世ヨーロッパという感じの街並みをぞろぞろと歩いた。

 ギルドでは、依頼完了の報告と報酬の受け取りがあるらしい。


「今夜は宿も二部屋取れるな。エミルもいるし」


 今までは四人部屋で泊まってたという。


 男女一緒で大丈夫だったんだろうか……。

 まぁ……野営で抱き枕にされたんでわかるけど、ノリスさんは女性にしては意外とマッチョな体つきなんで、襲われたりはしないんだろう。

 あと、ブールとはやっぱり兄妹らしいし。


 冒険者ギルドは、門前広場に面した二階建ての大きな建物だった。看板はファンタジー物の定番、剣と杖のぶっちがいになったレリーフ。

 ブールが大きな二枚扉を開くと、まさにギルド、といった光景が広がった。

 正面には窓口のカウンター。お約束の美人のお姉さんが担当らしい。その前には、見るからに荒くれ者どもが並んでいた。

 大半はムサい男たちだが、少数ながら女性もいる。


「報告は俺がする。エミルは冒険者の登録だな? みんなは休んでてくれ」


 ブールの言葉に、残りの三人はギルドの奥の酒場に向かった。

 ああ、この辺も定番だな。


 というわけで、俺はブールの後ろに着いて列に並んだ。こうやって立つと、盾役タンクだけあってデカイ。……まぁ、俺が縮んだのもあるが。

 背負った大盾もデカイ。真ん中が大トカゲの突撃で凹んでるけど。確かに、修理が必要だ。


 やがて列が進み、ブールの番になった。胸元からペンダントを取り出し、窓口のプレートに置く。

 門番の詰め所とよく似たプレートだった。


「『ノルムの盾』のブール。護衛の依頼の完了報告、それとジャイアントリザードを討伐したので、魔石を売りたい」

「はい、承ります」


 受け付けは美人のお姉さんだ。荒くれ者の相手なら鉄板なんだろう。女性相手にイキるのはカッコ悪いからねぇ。


 近くで見ると、ペンダントは黒いガラス質の板で、角を落とした長方形になっていた。表面には「ブール ノルム」という言葉が彫られていて、片方には紐を通す穴が、反対側には豆粒ほどの白い石が嵌っている。

 その隣に、ブールは赤い丸石を置いた。

 お姉さんがプレートに手を置くと淡く光った。


「依頼完了と魔石を確認しました。依頼主から預かっていた報酬、五十ミナはどうされますか?」

「五ミナだけギルド証へ、残りはパーティーの共同口座へ」


 再びプレートが淡く光る。


「はい、振り込み完了しました。魔石は査定の後、明日お振込みします」


 すげー。この世界はキャッシュレスなのか!


 なんとなく、ファンタジーなら金貨がジャラジャラと思い込んでたので、意外だった。

 でもって、今のでギルド証にチャージされたんだな。こうなると電子マネーだね。


「あと、こいつの冒険者登録を頼む」


 感心していたら、ブールに肩を掴まれて押し出された。


「はい、承ります」


 ブールがギルド証をしまうと、代わりにお姉さんが机の下から木の札を取り出し、プレートに置いた。形はブールのギルド証と全く同じだが、名前は彫り込まれていない。


「このプレートに手を置いてください。……はい、では名前と出身地をお願いします」

「名前はエミル。出身は、ええと……」


 まさか日本とか言えないよな。

 なので、助けを求めてブールを見上げると。


「ノルム村。俺たちの同郷だ」


 さらっと言ってくれちゃったけど、いいのかな?

 まぁ、戸籍とかないなら大丈夫か。


「あと、俺たちのパーティー『ノルムの盾』に入れたい」

「はい。登録料とパーティー追加で1ミナいただきます」

「口座からで」


 すると、またプレートが光り、木札に「エミル ノルム」と彫り込まれた。ラストネームじゃなくて出身地なのか。


「はい、登録は完了です。エミルさん」


 そう言って、お姉さんは木札――ギルド証を渡してくれた。早速、首にかけてローブの胸元に押しこんだ。お財布代わりらしいから、大事にしないとね。


 ふとブールの方を見ると、やたら真剣な顔で自分のギルド証を見つめてる。何かと思って覗いてみたら、名前の下に数字が出てた。見たこともない文字のはずだけど、二・五と読めた。


「その数字って何ですか?」

「これか? 宝珠に触ると残額が出るんだ」

「へぇ……」


 そりゃ凄いな。でも、俺のギルド証では何も出ない。そりゃそうか、登録したばかりじゃ残金ゼロだもの。


 そして、酒場の方で待ってる三人のところへ向かう。

 三人は丸いテーブルを囲んで、何か飲んでいた。多分、エールとか言う定番の酒だろう。

 ギズモはテリーの肩の上で、はぐはぐと何かを食べてる。かわいい。


「済んだぞ。ミナを降ろして来い」

「やった! この酒代で空っ穴だったんだ!」


 ノリスさんが満面気色で立ち上がると、アルスもテリーも後に続いた。三人は受付カウンターのそばにいくつかある小卓に向かう。そこには、受付のようなプレート型の魔法具が設置されていた。

 あれが多分、この世界のATMなんだな。ちょっと列になってるから、しばらくかかりそうだ。


 と、ブールがウェイトレスのお姉さんを呼び止めた。


「俺にはエールを。ツマミに二皿追加で、こいつには――」


 ブールが注文しようとしたのだが。


「お酒は、ちょっと」


 元の俺は飲兵衛だったが、この身体が受け付けるか分からない。この二日間で二度も倒れてるからなぁ。


「じゃあ、発泡水あたりか?」


 サイダーみたいなものかな?

 俺がうなずくと、ブールはウェイトレスさんの差し出したプレートにギルド証を触れさせた。

 ウェイトレスさんは酒場のカウンターへと向かった。


 少し待つ間、俺は酒場の中を見回した。さすがは異世界、あり得ない髪や目の色の様々な人種がごった返している。

 受付に並ぶのはパーティーのリーダーかソロの冒険者で、マッチョ系が多い。その反面、酒場には女性もかなりいる。大体、三対二くらいだろうか。

 そのせいで、銀髪に赤目という俺の外見も、そこまで目立ってはいないようだ。


 やがて注文した皿と飲み物が届き、そこへATM魔法具から三人が帰って来たので、乾杯となった。


 そして、飲み食いしながら色々話を聞いたのだが……。


 ええっ!? それじゃミナってのは……。

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