第11話


                 11(最終話)


 

 西城の事件は、智也たちの勤める会社にも、かなりの影響が出て、刑事事件になってしまった事もあり、当然 取引は暫く中止になった。西城本人も現在身柄が警察にあり、取り調べ中である。

 調べていくと、事件の経緯は、元々プレイボーイの異名を持つ西城だが、意外に学生の頃に憧れた女性の事が未だに忘れられず、初恋の女性に 由がとっても似ていたのが事の発端だと言う事だった。

 まさか、初恋の思い出の、恋煩いが原因だったとは、西城も意外に芯は ウブ だったのを知った智也は、いくつになっても若い頃の恋は、その人を盲目にしてしまい、事によっては、その人を狂わす事になるという事を、意味深気(いみふかげ)に思った。



                  ◇


                  ◇


                  ◇



 あの事件から、数ヶ月後。



「お帰りなさい智也。お疲れ様」

「ただいま、由。あれ?これは?」

「あ~コレ? 今日、実家に行ってきたら、持って行けって言われて....」

「凄い量だな、トウモロコシ...、食べきれるか?ウチだけで」

「明日、智也の実家と 雅さんとこに、三分の二ほど持って行くわ」

「そうしてくれ、いくら何でもコレだけの量は、オレは好きだけど、とても無理だ消化し切れない。でも、嬉しいな」

「智也、好きだもんね」

「ゆゆ の方が、断然好きだぞ!」


「......もう、ばか......」

「男は、好きな女の前では、バカになるんだよぉ~」

「もう!ホントに......」


 ちょっとした罵倒をしながらも、嬉しがる 由。



 由は、会社を自己都合退職したいと願った。


 トラウマの残る倉庫が有る事での業務が、精神的に気難しいと判断した 由は、退職を選んだが、会社側としては、残って欲しいと話し合いをして、朝9時出勤 午後4時退社のパートとして、事務所だけでのチェックの担当を引き続きする事になった。


 智也の体調も元通りになり、最近は事件のお陰という事もあり、智也自体の業績が上がって、昇給がぐんと伸び、とうとう 智也と由は、比較的会社の近くにアパートを借り、同棲する事になった。


 特に、由の両親が、事件で由の事を、身を挺して守った事に。

「任せるから、二人が結婚するまで、一緒に暮らしてみなさい」

 と言われ、智也の両親からも 。

「どうせ結婚するんでしょ? 今から慣れておきなさい」 

 と言われる始末である。


 一度、智也の両親と、由の両親が和食処で、挨拶がてらの食事をしたが、特に母親たちが、気が合ってしまい、今ではメル友、ショプ友(買い物友達)になって、良く連絡を取るようになった。

 また、父親同士も、コレまた良く はまちゃんに 出向くようになり、二人だけの小宴会を開き、母親たちに内緒で、コソコソと飲み合っているらしい。(バレバレだが)



           ◇



「ごめんね智也、一人だけフルで働かせて」

「何言ってるんだ。由があのまま働いていたら、今頃多分、精神的ストレスで治療を受けていると思うぞ」

「ありがとう、感謝してます」

「いいって。むしろ、家事一切をやってもらって、オレの方が済まない気持ちでいっぱいだ。ありがとな ゆゆ」


「ともや~......」

「ゆゆぅ~......」


「ちょっと待った!! お兄ちゃん」


「「え?!」」


「え? じゃないから...。もうホントに、偶に来てみたら、イチャコラと...、全く、人が見てない時でもやってたのね、爆発しなさい、二人とも!」


「なんだ ひとみ」

「なんだじゃないの、お母さんがコレ持って行けって、渡されたの...、はい」

「うわ!」

「こんなにレタス、どうするの?」

「何とかしてよお兄ちゃん、今朝、お祖母ちゃんの畑で摂れた、新鮮モノよ」

「それにしてもこの量、すごいな」

「智也、今からウチの実家と はまちゃん に行って、使ってもらおうよ」

「そうだな、雅さんにも連絡入れといてくれ」


 そう言う事で、明日予定だった実家と浜ちゃんへのおすそ分けを、トウモロコシを含めて、今から届ける事にした。


「あ~~~!お兄ちゃん、私も行って良い?」

「ああいいぞ」

「やった~」

「なんだ?」

「えへへ、実はね...」


 ひとみが言うには、最近になって、浜ちゃんのお好み焼きが美味しい事に気が付いたひとみは、テイクアウトのお好み焼きを、智也のおごりで狙うのであった。




          ◇



「「こんばんは」」

「あら早いわね。連絡貰ってから10分くらいしか経ってないのに」

「お母さんが夕飯を作る前に来た方が良いと思い、すぐ来たの」

「ありがとうね...、まあ新鮮なレタス! ありがたいわ、大好きなのよ、智也くん、ご両親にお礼言っといてね」

「はい。喜んでもらって、良かったです」


「あれ?ひとみちゃんも居るの? 変わった組み合わせね、でも仲がいいのはいい事ね、こんばんは」

「おばさん、こんばんは。はい、由ちゃんはいいお姉ちゃんです」

「あら、なんか嬉しいわ、もうすぐ義姉妹だものね、由の事よろしくね、ひとみちゃん」

「はい、こちらこそよろしくお願いします」


「はいはい! お母さん、コレからもう一軒行くの、だからもう行くわね」

「そう、急ぎなのね、じゃあ気を付けてね、三人とも」

「「「は~い」」」



          ◇



 智也の車をひとみが運転して、はまちゃん に向かう三人。


「運転上手くなったなひとみ」

「えへへ~。たまにお母さんと一緒に車で買い物に行ってるからね~、いい練習だよ」

「なるほどな、どうりで」

「ひとみちゃん、いよいよ卒業ね、会社の内定も決まっているし、よかったわね」

「うん、コレで春から、お兄ちゃん達と同じ社会人だからね。何か、ドキワクだよ~」

「複雑だな、ドキワクって...」


 そう言っているうちに、はまちゃんに着く。 雅には連絡しておいたので、店に居るはずだ。


「「「こんばんは~」」」

「あらいらっしゃい。早かったのね」


 雅が居た。待っててくれたのだが、横に 麗(うらら)を抱いた夫の雅が居た。


「おう、智也。雅から聞いたぞ、ありがとな」

「いえいえ」

 そう言って、袋いっぱいのシャキシャキレタスを雅に渡す。

「うわ、こんなに沢山、ありがとね、智也くん」

「いえいえ、メニューで使ってください」

「ありがたいわ...、おかあさ~ん...」


 そう言って雅が奥に消えていった。


「先輩。麗ちゃん めっちゃカワイイっすね」

「ありがとな。母親に似て、可愛いんだ、オレ 毎日メロメロなんだ」

「あ~~~~、分かる気がします」


 雅が由を見て。


「お前たちも、じきに結婚するんだろ、俺たちも同棲が長かったからな、やっぱ親を安心させるためには、結婚だな...、由ちゃんはどうなんだ?」

「はい、私は結婚はしたいですけど、実際に子供が出来たらと思うと、それからの見通しがまだハッキリとは...」

「はは、子育ては一人でするもんじゃないぞ、由ちゃん。 以外に身内が助けてくれるからな、それに、会社も子育て制度がしっかりしている会社もあるんで、一人で何とかしようとは思わない事だ」


「なるほど、先輩。俺たちも、お互い実家は近いんで、そんなに深刻に考える事はないんですね」

「そうだ! ま、俺たちだって子育て先輩だし、雅にも聞けよ」

「あ! そうですね、子育て大先輩がココに二人居たんだ」

「気が付くのが遅いぞ智也」

「すんません」


「...で、いつ子供が出来るんだ?」


 そう言った瞬間に、由が顔を真っ赤にして、爆発した。


「いや、もう...、恥ずかしい、智也......」


「先輩! 結婚が先ですよ」

「まあ、順番はな」


 会話をしていると、奥から女将の美佐子が出てきた。

「ありがとね~、智也くん、すごい新鮮で、助かるわ~。メニューに使わせてもらうわね、ホントにありがとう」

「いえいえ」

「あれ? ひとみちゃんも居るのね、付き添いかしら?」

「いえ、多分こいつはここのお好み焼きを、オレに奢って欲しくって、付いて来ているだけです」

「う!......」

「図星だな、ひとみ」

「お、お兄ちゃん...」


 みんなで大笑いをする。 ひとみが顔を赤くしているが、開き直って。


「お兄ちゃん、私 はまスぺ が欲しい!」

「お、潔(いさぎよ)いな。分かった、俺たちの分も入れて、3枚お願い出来ますか?」

「分かったわ、毎度ありがとうございます」

 そう言って、美佐子が厨房にいる政士(はまちゃん のオーナー)に向かって、注文した。

 一瞬、政士の口角が上がった気がした。



          △



 テイクアウトの はまスぺ を受け取り、ひとみも送って伊藤家にトウモロコシを置いてから。智也と由はアパートに帰ってきた。


「凄い一日だったな~」

「宅配の夕方だったね」

「やっと落ち着いたな」

「コーヒー淹れようか?」

「頼む」



          *



 智也は、コーヒーを淹れる由の後ろ姿を見ながら、初めて出会った時の事を、懐かしく思い出していた。


(本当に偶然だったな、あの時俺が学食に行かなかったら、未だにオレはフリーで居たかもしれないのに、あのちょっとした事が、ここまで二人を結びつけるなんて、思っても見なかったな)




【「何か意外だな~、高橋さんて、高校時代からしっかり者だっていうイメージがあったから、まさか、財布を忘れるなんて、思ってもみなかったよ」

「そうなの? 私って男子から見て、しっかり者だと思われていたのね、意外だわ」】




(懐かしいな、あのやり取りがあったから、いまこうして、 由と、結婚前の同棲生活があるんだな)


「なぁに?智也。そんなに私を見て...、惚れ直したの?」

「惚れるのは、毎日進化してるぞ、ゆゆが可愛すぎるから」


「.........」


「はは、どうだ参ったか?......」

「う~~~......、えい!」


「むちゅう~......」


「う~......」


 由に“貪りキス”をされる智也、しかも、中々許してくれない様子だ。


「ポはっ~!!.......、参った~ ゆゆ」

「分かった?智也。私だけを見てなさい」

「わ、分かった......、って、えい!!」

「きゃ~!!」


 最後は結局 智也に襲われる 由であった。



        □



 この小説を最後までお読み下さり、ありがとうございました。


-僕(俺)たちの馴れ初めから- 色んな事があったけど、数年かけて、どうやらこの二人は上手くいきました。



 改訂版までお読み下さりありがとうございました。



   雅也



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僕たちの馴れ初めから Y編 改訂版 雅也 @masaya0808

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