第22話 ある日夫婦でユニバを巡って 4
正式名称『ウィザーディング・ワールド・オブ・ハリー・ポッ〇ーエリア』。
今から10年前にオープンしたなじみのあるエリアであり、そのすべてが『不思議』の三文字に包み込まれている。
パーク内有数のショップ数を誇り、アトラクションもさることながら見るだけでも楽しめるエリアとなっている。
「どうします? まずはアトラクションか、ショッピング。どちらをさきにしますか」
僕がミカサちゃんにそう問うと、少し悩んだような仕草をした後。
「荷物が多くなるからアトラクションが先だな」
そう言って、僕の方を見つめた。
さてはここでうんと買い物をするつもりだろう。
今でも二人の手にはジュラシックパークエリアで買ったお土産が多く提げられているというのに。
はあ。
ま、ミカサちゃんとの思い出作りだ。ミカサちゃんに満足するまで楽しんでもらわねば。
そう決心し、ミカサちゃんに切り出す。
「じゃあ、先にアトラクションから行きましょうか」
そう微笑みかけ、今回最大の目玉『〇リー・ポッター・アンド・ザ・フォービドゥン・ジャーニー』へと向かった。
入口付近から人だかりができており、その人気は只者ではないことがひしひしと伝わってくる。
ここでも相変わらずのパスを使い、他のゲストとは違うルートで中に入る。
途中、しゃべる絵画がいくつもあり、またそれを近くで見る機会もあったが、それが映像であるとは思えないほどの繊細さだった。
本当に絵が会話をしているような。
それ以上に、僕はこの絵画たちの話を真剣に聞いているミカサちゃんに興奮したのだが……。
「ミカサ先輩」
「ん、なんだ」
「可愛すぎです」
「へ?」
ちゅっ
そう言い放った瞬間、おもむろに僕はミカサちゃんの頬にキスをした。
「ばっ、ばかっ。誰か見てたらどうするんだ」
「誰も見てないじゃないですか……」
まあ、たしかに。そういわんばかりの顔をするミカサちゃん。
「え、絵が見てるだろう」
「ふふっ」
反論しながらも顔がだんだん熱く、赤くなっていくミカサちゃん。
本当にどこまでも可愛い。
「まあ、今回は許してやる。私もそろそろユメくん不足だったからな……」
「ん? なんて言いましたか。最後の方が少し聞こえませんでした」
「なんでもない」
そう焦らすと、しゃべる絵画を背にして順路の奥へ歩いて行った。
早く来いと言わんばかりに手招きをし、それに従うように僕は再び歩き出した。
恋人は一度キスができればそこが
しかし、それが『日常』になるのが夫婦なのだろうな。
そんなことをミカサちゃんに追いつく間に考えた。
「それでは、次の方お乗りくださ~い」
荷物をロッカーに預けた後、クルーの指示に従い乗り物に乗る。
6つほど連なったゲーミングチェアのようなものに横並びで乗り、シートベルトを締める。
座席が一人一人分かれているところや、座席に天井がついていることから、このアトラクションがかなり複雑な動きをすることが見て取れた。
「結構、揺れるらしいですけど大丈夫ですか」
左隣に座っているミカサちゃんに顔は見えないながらも語り掛ける。
「今更それを訊いても意味がないだろう。ま、大丈夫だ」
まったく、こういうときはたくましい。
忘れそうになるが一応先輩だからな。しかも生徒会長。
これくらいの度胸は普通なのか?
「それでは出発しまーす」
乗り物がガコンと動き出し、一段と禍々しさが上乗せされたところで今日最後のアトラクションが始まった。
※何度もすみません。著作権の都合でアトラクションの内容をお見せすることができません。ご了承ください。
「ほあ~~」
安堵にも近いため息をつき、二人乗り物から降りる。
「楽しかったですね」
「ああ、まだ心臓がばくばく言ってるぞ」
軽く内容を説明すると、僕たちが一日だけ魔法使いになってドラゴンと戦ったり、クィディッチ競技場で対戦したり、そんな大冒険をするというアトラクションだ。
二人とも
「いったん外に出ましょうか」
「そうだな」
周りの音にかき消されないよう、少々大きめの声でそう話し合い、人込みをかき分けながら外に出た。
ひとまず近くの街灯の近くに集まり、今体験してきたことをこれでもかと語りつくした。
そこで、ミカサちゃんのある一つの秘密を知る。
「実はだなユメ、黙っていたが……私、高所恐怖症なんだ」
「えっ! それは、すみませんでした。そうとは知らず僕こういうのばっかり……」
ここで初めて知る事実。
まさか高所恐怖症だったとは。
そんなこととは知らず、アトラクションばかり楽しんでしまった。
ジュラシックパーク・ザ・ライドとか絶対怖かったであろうに。
「でもいいんだよ。そこまで高い場所に行くアトラクションはなかっただろう?」
「まあ、そうですけど……」
「私もさすがにユメが『ジェットコースター乗ろう』とか言ってきた時には殴ってやろうかとも思ったけど」
うっ……。
「でも、ユメの楽しそうな姿が見れてよかったよ。実際私も楽しかったしな」
「それならよかったです」
と、まだ少し震えている声と手で言われても説得力はあまりないが。
ぎゅっ
「我慢しないでください。僕のせいですけど怖い時は『怖い』って言ってもいいんですよ」
僕はミカサちゃんの両手を包み込み、そう
「ありがとう、ユメはやさしいな……」
そのまま数秒沈黙が続き、周りの雑音だけが聞こえた。
「さて、そろそろ動き出しますか」
「そうだな。時間は有限だしな」
おもむろに二人は辺りを見回し、そこら中にあるもので好奇心をそそられた。
「あの、ミカサ先輩。少し自由行動にしませんか」
「おお。そうだな私もちょうどそう思っていたところだ」
「じゃあ、決まりですね」
現在の時刻は3時少し前。
「じゃあ4時まで自由行動にしますか。4時にまたこの場所に集合でいいですか」
「おう、いいぞ」
実は一人で行ってみたかったお店があったのだ。
とりあえず一時間は確保した。
これだけあればもう一度〇ニオンパークエリアまで行って戻ってくることくらいできるだろう。
「じゃあ、また一時間後にここで」
「じゃ」
そう取り交わしたのち、二人別の方向へと歩き出した。
方向的にミカサちゃんは他のエリアではなく、このエリアを満喫するらしい。
僕は一度ミニオ〇パークエリアに戻る。
理由はただ一つ。
『ミ〇オン・クッキーサンド』を買うため。
さくさくのクッキー生地にアイスが挟んであるという食べ歩きフード。
またそのクッキーがミニ〇ンというところも可愛い。
そして、ミカサちゃんがそれを食べたそうにしているところを僕は見逃さなかったのだ。
不審に思われないように走りはしなかったが少々早歩きで。
ミニ〇ンパークエリアへと逆走を始めた。
待ち合わせ時間まであと5分。
「はあ、はあ……」
思いのほか行列ができており、買うまでに時間がかかってしまった。そのため、まだ僕はジュラシッ〇パークエリア前を走っている。
もう待ち合わせまで5分しかないというのに。
ミカサちゃんを待たせてはいけない。
その一心で走り続けた。
もしかしたらミカサちゃんが誰かに絡まれているのではないか。
そんな不安は、待ち合わせ時間をついさっき過ぎた今、一秒ごとに増大していく。
「はあ、はあ……」
やっと見えたハ〇ーポッターエリアの入口。
人とぶつからないよう少し減速し、ジョギング程度の速さで入口の細道を駆け抜ける。
開けたエリアの中心部に出たところで、僕の不安は……的中した。
ミカサちゃんと思われる人物の周りを二人の背の高い男の人が取り巻いていた。
「ねえ、君中学生でしょ~。ちょっとだけこの後付き合ってくんない」
なんだこの人たちは。ただ単に気持ちが悪い。
まだユメくんは帰ってこないのか。
かといって大声をだして大ごとにはしたくない。
近くにうちの生徒は……いないか。よかった。
「無理です。人を待っているので」
きっぱり断れば大丈夫なはず。
「あ、もしかして彼氏~? そんな子供っぽい奴とよりかお兄さんたちと食べ歩き行こうよ~」
「ほら、なんもしないからさ~」
本当になんなんだ。
そのうえユメくんを小ばかにして。
「か、彼氏じゃないです」
「じゃあ友達ぃ?」
「ちがいます。と、とにかくどっか行ってください」
こわいよ……。
ユメくん。助けて……。
「ほら、先生近くにいないんだろ? 行くぞ」
少し背の高いほうが私の腕をつかみそうになったその刹那。
「おい、何してる」
僕はとうに怒りがマックスに達していた。
半泣きのミカサちゃんに触れそうになった手を右手でつかむ。
「おっ、きいたぜぇ。お前彼氏でも友達でもないんだろぉ?」
怒りが限界を超えた僕に、我慢という文字はなかった。
「はい、彼氏でも友達でもありません。僕は……」
精一杯の覇気を相手に伝えろ。
この人たちはミカサちゃんを悲しませたのだ。
許せない。
「僕はこの子の『夫』です」
そのまま続ける。
「その汚らしい手で触らないでください。……ふぅぅ、……さきほど、遠くから写真を撮っていました。これ、クルーの方に突き出しますよ」
最後にそうはったりをかませ、今自分にできる限りの圧を相手にかけた。
一刻も早く姿を消してほしい。
その願いが通じたのか。男二人はたじろぎ、チッと舌打ちをし、背を向けて去っていった。
……。
「っはあ~~」
安堵から、全身の力が一気に抜け、地面に座り込む。
「うっ、うぅ。ありがと、ユメくん……」
がまんしていたのか、ミカサちゃんの目から大粒の涙がこぼれだした。
「すみません、遅れてしまって。そのせいでこんな怖い目にあわせてしまって……」
周りに生徒がいるかを確認しないままミカサちゃんを抱き寄せ、謝罪をした。
「ごめんなさい。ミカサちゃん」
「いいよ……。かっこよかったし……」
そういってくれるのはうれしいが、なんだか複雑だ。
そのあと、ミカサちゃんが泣き止むまで抱きしめ、全体の集合時刻が近くなったところでエリアを出た。
もう二度とミカサちゃんを悲しませないと、そう心に強く決心しながら。
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