第21話 ある日夫婦でユニバを巡って 3
「ふう~、お腹いっぱいになったな」
店を出て第一声にそう放ち、お腹をさする。
「はい、おいしかったですね」
満足げに話すミカサちゃんにそう返した。
「ところで、これからどうするんだ。予定は立ててきてくれているんだろう」
「はい、次は『ジュ〇シックパーク』ですね」
そして横を見ると、もう何度この反応を見ただろうか。
またも目を輝かせ、うずうずしているミカサちゃんがいた。
「じゃあ、もちろんあれにも乗るんだよな」
ここで言う「あれ」は恐らく『ジュラシック〇ーク・ザ・ライド』のことだろう。
「もちろん、パスを使って乗りますよ」
まだまだ時間はあるのに、もう待ち切れないという様子だ。
「早く行こうじゃないかっ」
そう可愛く
「えっ」
驚いた。
周りを見渡してもたしかに僕たち以外に生徒の姿は見えない。
だからといって、誰もこの姿を見ていないとは限らない。
少ないが、他にゲストもいるのだから。
ミカサちゃんにいきなり手を握られおどおどしている僕に気づいたのか、ミカサちゃんがいったん立ち止まり、振り返った。
「どうしたんだユメ。早く行こう」
「いや、ミカサ先輩、手握っても大丈夫なんですか」
そう言ってミカサちゃんが視線を下に落としたところで、顔が真っ赤に染まった。
やはり無意識だったらしい。
でないとこんな危険な行為をミカサちゃんがするはずがない。
「ああ、す、すまんな。つい……」
そう言っている割には一向に手を離そうとしない。
「……離さないんですか?」
「……」
ミカサちゃんが目をそらし、周りを見渡す仕草をする。
「ばれるのは
このお嫁さん開き直りやがった。
まあ、うれしいことこの上ないのだが。
それでも見られると危険であることに変わりはない。
僕も手を離したくないが、ここは心を鬼にしなくては。
「今日のところは我慢してください」
ミカサちゃんのテンションが少し下がるのを感じたが、まだ
「じゃあ、ジュラシックパークに入るまででいい。それまででも手をつないでいてもらえないか……」
うっ……。
こんな可愛い顔と声でお願いされてNOと言える男子はいないだろう。
ずるいです。ミカサちゃん。
「しょ、しょうがないですね……」
そんなこんなで、ミカサちゃんと手をつなぐことになった。
相変わらずちっちゃい手。
先輩なのに、守ってあげたくなってしまう。
僕は少し
ジュラ〇ックパークエリア。
主に二つのアトラクションから構成されているエリア。
エリアのいたるところに恐竜のオブジェがあり、茂みから今にも飛び出してきそうな雰囲気を
エリアに流れるBGMも少し不穏かつ原始的なものに変わり、まさに古代を彷彿とさせる。
「ユメ、ユメ。あそこで写真撮らないか!」
ミカサちゃんがはしゃいで一つの看板を指さす。
『caution don`t touch dinosaurs』(注意、恐竜に触るな)
そう書いてある看板はさび付き、それがまた、生々しさを演出している。
本当にこの先の茂みに恐竜が潜んでいるような。
「おお、なんかこういうの見ると本当に恐竜が復活した世界に迷い込んだ気分になりますね」
「そうだろうっ」
そうはしゃぐミカサちゃん。
「写真ですか? いいですよ」
そう承諾した途端、またもミカサちゃんが僕の手を握り、その看板のところまで寄った。
いくら他に生徒の姿が見えないからといっても、やはり怖いのだが。
まあ、こんなのをいちいち注意していたら日が暮れてしまう。
それに僕も手をつなぎたいというのは本意だしな。
看板の前まで行くと、ミカサちゃんが僕にカメラを手に取るよう促した。
スマホでの撮影ではないため、レンズをこちらに向けると画面が見えなくなってしまう。
「ん、ユメ、これちゃんと写ってるか? もう少し引っ付こう」
そう言ってミカサちゃんが僕の方に体を寄せる。
ほんのりといい匂いがし、その密着度に頭がおかしくなりそうになる。
「ほら、早くシャッターを」
この状況に理性を保っている自分をほめてほしいくらいだが、そんなことはおかまいなしにせかしてくる。
そんな可愛さに促され、また一つ天使とその夫の写真をフィルムに収めた。
「撮れたかっ」
そうカメラの画面をのぞき込みながら言う。
ふわっといい匂いがし、頭がおかしくなりそうになる。
「おお、すごいな」
写真一つでこんなにはしゃぐなんて。やっぱり僕のお嫁さんは限りなく可愛い。
「ミカサ先輩、そろそろ行きましょうか」
「そうだな」
バッグにカメラをしまい、ミカサちゃんの手を握った。
「ふぇっ?」
「誰も見てないからいいじゃないですか。お返しですよ」
先ほどまでしゃいでいた顔が一気に真っ赤に染まる。
「ばれたらどうするんだ……」
そう言いながらもどこかうれしそうだ。
「ばれるのは
「な、マネするなよ」
「ははっ」
そんな会話をしたのち、僕はミカサちゃんの手を引っ張り二個目の目玉『ジュ〇シックパーク・ザ・ライド』へ向かった。
「おお、ここですね」
いくら平日で客数が少ないからと言ってもこのアトラクションには人だかりができている。
「ユメ、パス持ってるか」
「はい、もちろん」
「じゃあ行くぞっ」
そう言うと今度はミカサちゃんが僕の手を引っ張り、パス専用入口へと向かった。
クルーにパスを見せ、中にすんなり入る。
この瞬間、なんだか優越感がある。
その次に持っている荷物をロッカーに預け、乗り口まで向かった。
荷物を預ける理由は、単に落とすかもしれないという理由と、びしょびしょに濡れてしまうかららしい。
そうこのアトラクション最大の魅力は最後に20メートルの高さから急降下し、池に着水するところ。
一番前に乗っている人はシャワーを服のまま浴びたようにびしょ濡れになってしまう。
ゴーー バシャーーン
早速、一つ前に出発した便が返ってきたらしい。
同時に多くの悲鳴が聞こえ、この猛暑に水がかかったことが分かった。
「うわー、びしょびしょ」
「楽しかったー」
降りてくる人が口々にそういう。
しかし、濡れたにもかかわらず誰一人として不満そうな顔の人はいなかった。
「おお、楽しそうだなっ」
そう語り掛けるミカサちゃん。
「それでは次のゲストの方々―、どうぞお乗りくださーい」
意気揚々とした声でクルーがそう促す。
僕たちは後ろから二列目の席に乗り、そのまま、出発の合図が入る。
「それでは行ってらっしゃーい」
アトラクションの内容を簡単に説明すると、水辺に生息する恐竜の見学にボートに乗って行くはずだったのだが、ハプニングにより予定のコースを大きく外れ、立ち入り禁止の研究所に入って行ってしまうというものだ。
「「おお」」
急にガコンと動き出したものだから思わず声を上げてしまった。
そして二人顔を合わせ、はにかみあう。
この時間がどんなに幸せだろうか。数週間前の僕には想像もつかなかっただろう。
出発からしばらくは草食恐竜が茂みの中に見えたり、水を飲んでいる温厚な生物がいるだけだった。
それが数分後、
バシャッ
いきなり水面から恐竜が飛び出してきた。
その反動でボートは大きく進路を換え、本来進むはずではないルートを進み始めようとする。
その
ぎゅっ
僕の手が小さなものに握られた。
隣を見ると、ミカサちゃんがさっきの好奇心とは裏腹に、半分泣き目で前を見つめている。
まさかミカサちゃん、これが本当に恐竜ツアーだと思って乗ったのだろうか。
「ミカサ先輩、怖いんですか」
意地悪でそう
「そ、そそんなわけないだろうっ」
先輩としての意地なのか、頑なに認めようとしない。
こんなに手が震えているのに。
しょうがない。僕もにぎってあげるか。
ミカサちゃんよりも強く手を握り、怖さが少しでもなくなるようにと願いながら、このアトラクションで最大の怖さのエリアへと船は進んだ。
※著作権の都合で詳しくはお見せすることができません。ご了承ください。
「おかえりなさーい」
クルーのその声でシートベルトを外し、ボートから降りる。
最後の急降下でまだ若干足に力が入らない。
「ユメ、起こしてくれないか。最後の急降下で足がすくんでしまった」
そう言ってミカサちゃんが僕に手を伸ばす。
「はは、僕といっしょですね」
そう言いながらミカサちゃんの手を握って引っ張る。
「おうふ、ありがとな。意外と力あるんだな」
「ま、まあ」
起こせないと思っていたのだろうか。
ミカサちゃんが不意打ちを食らったかのように起き上がる。
「それにしても濡れましたね」
「ああ、後ろの席といっても結構な量な水しぶきが飛んできたな」
さっきまでがくがくしていたのにもうケロッとしている。
やっぱりミカサちゃんは強いな。
僕はポケットから、ぎりぎり濡れなかったハンカチを取り出す。
「ミカサ先輩、こっち向いてください」
「ん、なんだ」
そっとミカサちゃんの濡れた顔を拭く。
その瞬間、ミカサちゃんの顔が赤く染まった。
「あ、ありがとな……」
その熱さで顔についた水滴が蒸発してしまいそうなくらいに。
全く、こういうことに耐性がないんだから。
まあ、それも含めて可愛いのだがな。
「さ、行きましょうか」
そう言って再びミカサちゃんの手を取ろうとしたが遠くにうちの生徒が見えたためそれを諦め、歩き出した。
後ろからミカサちゃんが付いてきて、先ほど荷物を預けたロッカーの前まで来た。
その後、ジュラ〇ックパークエリアを2時間ほど買い物で巡り、満足げになったミカサちゃんにこう言った。
「さて、次はハリー〇ッターエリア、行きましょうか」
「おうっ」
そんな会話を交わし、二人、〇リーポッターエリアを目指し歩いた。
ハリーポッ〇ーエリアは普通に順路通りに行くと見つからないような設計になっている。
それが『魔法使いの街』という設定から来ているのか、単に後付けでできたエリアだからかは定かではない。
エリア自体は広いのに、出入り口は一つしかなく、外から見たら何となく謎の雰囲気が漂っているくらいにしか思わないほどの入口だ。
まあ、内容は申し分ないのだが。
「ここがハリ〇ポッターエリアの入口ですよ」
「えっ、ここがか?」
岩が地面から6個、
ここの奥にある
「行きましょうか」
「ああ」
広場を抜け、細道に入る。
その途中、またBGMが変わり、どこか
道中、壊れてクラクションが延々と響いている車のオブジェや、壁越しに聞こえる魔法使いの声などがあり、
もう一日も終盤に差し掛かっているからだろうか、エリア側から帰ってくる人たちもちらほら見え、中には魔法学校の制服を身にまとっている人、魔法の杖を持っている人、様々な方法で楽しみに満ちた人とすれ違った。
その姿をミカサちゃんも見たのか、目が輝きだす。
そして、ついに入口。
「「おお~~」」
格子状の門にエンブレムが飾ってあり、わきにある鳥の彫刻がその不穏な雰囲気を醸し出している。
そしてその奥に広がる魔法使いの街と『ホグワー〇城』に二人とも驚嘆し、ほぼ上を見上げたまま魔法の街へと一歩を踏み出した。
夫婦二人の魔法のような時間はまだまだ続く。
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