第20話 ある日夫婦でユニバを巡って 2
エリアに近づくにつれて、音楽がだんだんと変わってゆく。
今僕たちはニューヨークエリアへの道を歩いている。
ニューヨークエリアの少し
それと同時に自然と足が速まった。
二人とも早くアトラクションに乗りたいと思うからなのだろうが、なんというか周りの雰囲気がそうさせた。
今になって気づいたことなのだが、今日が平日で、なおかつ開園直後だということもあり、周りにほかのゲストは少ない。
少々カップルや同級生が見られるくらいだ。
まさか僕たちが夫婦とは。周りにいる誰も考えもしないだろうな。
少しだけ優越感を感じるが、それを表に出してはいけない。
なんだろうこのむずがゆさは。
それでも、横を見るとお嫁さんが笑顔で道の奥を見ている。
お嫁さんの笑顔が見られる。これ以上に幸せなことはないだろう。
あと、とにかくミカサちゃんがかわいい。
「ユメ、見えてきたぞ」
そう興奮気味の声で言い、ミカサちゃんが指さした方向には、『怪盗グ〇ーの隠れ家』が在った。
周りが黄色一色のストリートの奥にひっそりとたたずむ灰色の〇ルーの隠れ家。
ミカサちゃんもミニ〇ンはよく知っているのか、隣を歩いていた僕の袖をつかみ、ついには走り出した。
もう我慢できないといった様子で。
にぎやかな石レンガの道を二人走り抜け、多くのゲストが並んでいるグル〇の隠れ家の前へと到着した。
ここがこのエリア最大のアトラクション。
『ミ〇オンハチャメチャライド』だ。
「はあ、はあ……ミカサ先輩、そんな走らなくてもアトラクションは逃げませんよ」
そんな僕の声も届かないかのよう。
「早く並ぶぞ、ユメ」
そう言って再び僕の袖を引っ張る。
最後尾に並ぼうとしたミカサちゃんを引き留め、こう言い放つ。
「ちょっと待ってくださいっ」
「どうしたんだユメ」
「ミカサ先輩、これ忘れてませんか」
そう言って僕はポケットから二枚の紙を取り出した。
「おお、そうだったな。列に並ばなくてもいいのかっ」
「その通りです。なので、そちらに並ばずに僕たちはこっちの『エクスプレス・パス専用』という入口から行きましょう」
「そうだなっ」
先輩とは思えない無邪気な笑顔で、再び僕の袖を引っ張り、スカスカの通路を走って抜けた。
最前列に到着したとき、スタッフの方がパスの提示を要求する。
二人分のパスを見せ、チェーンが外れたところで、二人そろって建物内へ入った。
ミカサちゃんは、もう今か今かと待ち構えている。
少しでも手を離したらどこかへ行きそうなくらいに。
こんなにいい意味で冷静ではないお嫁さんは初めて見た。
スタッフの指示に従って建物の奥へ進んでいく。
あるところで止められ、外見は一つの実験室のようなところに入れられた。
中には部屋いっぱいにもなる大きな8人乗りの乗り物があり、前列はパスを持っている僕たちのために空けられている。
部屋の前方には壁一面に巨大なスクリーンがあり、ここに映像が映し出されるらしい。
これは室内型のアトラクション。
室内型とはいっても、この乗り物が激しく揺れ、スクリーンに映し出される映像によって本当にミニオンの研究所内を動き回っているかのような体験ができる。
さながらジェットコースターにでも乗っているかのように。
「ミカサ先輩、先どうぞ」
ミカサちゃんに奥の席を勧め、僕はそのあとに乗り込んだ。
黄色に塗られたその乗り物。
前列は4人乗れるものの、僕たちがパスを持っていたためか2人だけで乗った。
大きく揺れるため、スタッフからシートベルトを促される。
カチャ
そしてついにその時。
「それではみなさん、いってらっしゃーい!」
スタッフの方がそう呼び掛け、部屋のドアが勢いよく閉められた。
※諸事情により、アトラクションの内容はお見せすることができません。ご了承ください。
「ああ、すごかったなユメっ、特にあのマシーンに挟まれそうになるところなんかひやひやしたぞ」
「ふふ、楽しそうで何よりです」
本当にすごかった。
目をつむればただ乗り物が揺れているだけとわかるものの、スクリーンのその迫力から本当に落下するかのような錯覚に
最近のアトラクションは進化したものだ。
「さて、これからどうしますか?」
「な、もう少し
「はは、でも時間ないですし」
グ~~
そんな会話を交わしているとき、僕のものではないお腹の音が鳴り響いた。
気づくと11時半。
「じ、実は朝ごはんをあまり食べてなくてだな……」
恥ずかしさから必死に弁明しようとするミカサちゃん。
違う学年の人と朝ごはんは厳しかったのだろうか。
よくよく考えてみると、パーク内に入ってからすでに1時間半が経過していた。
体感時間は30分くらいなのに。
「そろそろ、何か食べられるところ探しに行きましょうか」
そう赤面するミカサちゃんに話しかけ、できればレスランで食べたいと思い飲食店を探し始めた。
時間の流れる速さに圧倒されながら。
ひとまず『ミ〇オンパークエリア』を抜け、順路通り『サンフランシスコエリア』に入る。
このエリアはアトラクションは一つしかないが、レスランが4件もある、お腹を満たすにはもってこいのエリアだ。
そこで僕たちが目を付けたのは、ミ〇オンパークを出てすぐ左に曲がると右手側に一番に見えてくる飲食店。
『ハピネス・カフェ』。
白い建物に赤い水玉模様が特徴のひと際目立つ飲食店。
サンフランシスコの漁村の倉庫を改造して造ったレストランという設定らしい。
「ユメ、ここに入ろう。もう我慢できない」
よほどお腹が減ったのか、数日何も食べていないかのような顔で僕を見つめ、承諾を待った。
「いいですよ、ここでお昼を済ませましょうか」
その言葉に少しだけミカサちゃんの顔が明るくなり、僕の手を取り店へと足を運んだ。
こういうとき素直なところも可愛い。
それに自分が先輩だということを意識してしまって僕の手を引っ張ってしまうのも可愛い。
この可愛さは全てミカサちゃんの優しさから来ているのだろうな。
そんなことを考えながら店内へと足を踏み入れた。
「いらっしゃいませー!」
クルーの声が響き渡り、ほのかに食欲をそそるような食材のにおいがしてくる。
まだピークでないためか、客はまばらで同級生と思しき人物は一人も見当たらない。
これがどういうことか。
察しが付くだろう。
つまり、イチャイチャしてもばれないということだ。
これはチャンス。そう思い、ミカサちゃんを少し奥の方の席へとすすめた。
「ここらへんに座りましょうか」
「そうだな」
ミカサちゃんと向かいあって座り、二人、自分の横に荷物を置く。
「さて、何たのもうか」
ミカサちゃんがそうつぶやきながらメニューを手にする。
同じく僕もメニューをとり、1ページ目を開いた。
その瞬間から目に飛び込んでくる商品の数々。
〇ニオンパークが近いためか、ミニオ〇の料理も多種多様にある。
どれもおいしそうであり、ますます食欲をそそられる。
油断するとよだれが垂れてしまいそうだ。
そして正面でメニューを幸せそうに眺めるミカサちゃんの顔もまたいい。
「……、お、私はこれにしよう」
「ん、どれですか?」
そう言ってミカサちゃんが指さしたのは『ミニ〇ン・フライドチキンプレート』。
黄色のミ〇オンを模したライスにこんがり焼けたフライドチキンとサラダが乗っているといった具合のプレート。
写真だけでもおいしそうだ。
「あ、じゃあ僕はこれにしようかな」
僕が指さしたのはその下にあった『〇ニオン・バーガープレート』。
黄色いミニ〇ンを模したパンに肉、野菜、チーズが挟まれ、ポテト、オニオンリングがいっしょに乗っている。
お腹がすいた今ではどれもおいしそうに見え、その中でもひと際これがおいしそうに見えた。
「じゃあ、注文するか。オーダーっ」
決まるや否やミカサちゃんは声を張り上げクルーを呼ぶ。
こういうときの度胸は
「ご注文お
そう言って寄ってきたのは気前のよさそうなおばちゃん。
元気な声でオーダーを取り、
数分後
「はい、お待たせしました。ミニオン・フライドチキンプレートが一つと、ミニオン・バーガープレートが一つ。以上でよろしいでしょうか」
「大丈夫です」
「では、ごゆっくりどうぞ」
さきほどのおばちゃんが料理を持って
声も出てたし現役ですごいな。そう感じた。
「食べましょうか」
「そうだな」
「「いただきますっ」」
ここはサンフランシスコらしくナイフとフォークを使って。
といっても、僕はフォークしか使わないのだが。
ハンバーガーを握り、ミニオンには少し
その瞬間に分かった、やはり研究されつくしてある。
これほどにおいしいハンバーガーを食べたことがあっただろうか。
さらにはパンが黄色というユニークさ。
味だけでなく、目でも楽しめる。
やはりこういうところの食べ物は値段が高い分、クオリティも高い。
そんなことを感じながら正面を見ると、ミカサちゃんがちょうどフライドチキンをほおばるところだった。
一口入れた瞬間に右手を頬にそえ、うっとりした目をする。
その姿に見とれてしまい、ミカサちゃんから目が離せなかった。
「な、何見ているんだユメ。恥ずかしいじゃないか」
「あ、いや、すみません。おいしそうに食べるものだからつい」
すると、ミカサちゃんは少し周りを見渡した後。
「一口食べるか、ユメくん」
そう訊いた。
いつのまにか呼び方も『ユメくん』に変わっている。
誰も見ていないからいちゃつけると判断したのだろう。
「あ、ありがとうございます。じゃあ一口」
僕がそう返すと、ミカサちゃんはフライドチキンのひとかけらをフォークで刺し、僕の口の前に持ってきた。
「はい、あーん……」
僕がその行動に
/ / /……
少し顔を赤く染める。
「ほ、ほら、お嫁さんがあーんってしてくれているのだぞ。早く食べろ。誰も見ていないとはいえ恥ずかしいんだからな」
その言葉にせかされ、この機を逃してはいけないと、机から身を乗り出してぱくっとフライドチキンを食べた。
「おいしいか……」
「おいしいです……」
お嫁さんが可愛すぎてもはや味どころではなかった。
午前中からこんなに幸せで、午後は体がもつのだろうか。
そんなことを考えながらひとまずは昼食を食べ続け、午後へと備えた。
ユニバ巡りはこれからが本番。
『ジュラ〇ックパーク』、『ハリーポッ〇ー』。
お嫁さんとの思い出作りはまだまだ続く。
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