第18話 ある日大仏はイチャイチャを見せつけられて2 + おまけ

 かなり酷だったが、幸せそうに寝ているミカサちゃんを起こした後、電車を降りた。

 現在の時刻は5時45分を少し過ぎたころ。

 ホテルはここ鶴橋駅から徒歩約2分のためそこまで焦る必要はない。


「ぼちぼち向かおうか」


 ナツメのその一言に全員が賛同し、それぞれの荷物を片手に歩き出す。

 僕とミカサちゃんは一番後ろをついて歩いた。

 なぜかって?

 もちろん、いちゃついてもばれにくいからだ。


「楽しかったですか、奈良研修」


「ああ、もちろんだ。まさか奈良公園にあれほどの鹿がいるとはな。私も驚いたぞ」


「たしかに、あれには僕も混乱しました」


「ははっ、あとやっぱり生で見る大仏は迫力が違ったな。見た」


 あまりに興奮して話すミカサちゃんが少し可笑しくなってくる。

 しかし、ここで一つ違和感に気づいた。

 ミカサちゃんは今、『初めて』という単語を使ったはずだ。

 ミカサちゃんは去年も修学旅行に来ているはず。

 ならばなぜ。


「ミカサ先輩、大仏見るの二回目じゃないんですか?」


 その後の回答を聞いて、やらかした、そう思った。


「……」


 ミカサちゃんが急に黙り込む。


「どうしましたか?」


「……実はな、ユメ。私は去年修学旅行に行ってないんだ……」


 しまった。

 聞かなければよかった。

 ミカサちゃんにとって悪い記憶を思い出させてしまったかもしれない。


「実は生徒会長の仕事はユメが想像している以上にハードなものでな。それは修学旅行が近づいていようと関係なく」


「……」


「そのときは夏休み中の学校の管理設定から部活の場所、時間配分。それはそれは修学旅行に行こうだなんて荒唐無稽こうとうむけいな夢だった」


 やっぱり。

 なんとなくそうではないかとは思っていたが本当に案の定だったとは。


「すみませんミカサ先輩、こんなk……」


 僕が言葉を発そうとした瞬間、ミカサちゃんが僕の口を押えた。


「そんなことないぞ、おかげで世界一愛する人と旅行に来れたんだから。もうこれは『新婚旅行』同然だろう? ユメといっしょに来れてよかったよ」


「そう言ってくれると嬉しいです……」


 みんなにばれないように手をつなぎ、残りの道のりを歩いた。

 やがて今日のホテルに着きひと段落つく。


「ふうー、やっとついたー」


 そうこぼしたのはアオイ。

 もう少しすれば先生方もここに到着するだろう。

 それまでの数分間、みんなで今日のことを振り返りながら、笑いあった。

 この時間がミカサちゃんにとって幸せな思い出となりますように。

 そんなことをもう一度願いながら。


 お詫び

 この物語は前回のラストになる予定でしたが、文字数の関係で十八話という形でお送りすることとなりました。それをここにお詫び申し上げます。

 その代わりと言ってはなんですが、今回未収録となってしまったおまけの一部をお見せしたいと思います。

 これからはこのようなことがないように文字数に細心の注意を払い、執筆していきます。これからも温かい目で見守ってやってください。



 おまけ(夫婦がただひたすらにキスをするお話)


 これは銀杏夫婦の、誰にも見せられない日常。


「ユメくーん、ちょっと来てくれないかー」


 隣の部屋からお嫁さんの呼び出しがあり、すぐに向かう。

 現在の時刻は午後9時少し前。

 お互い明日の準備等も終わり、部屋で自由時間を過ごしているときのことだった。

 相変わらず少し未整理なところが目立つミカサちゃんの部屋に入り、少々の歓迎を受ける。

「どうしたんですか、ミカサちゃん」


「実はだな、その……ちょっとキスしてくれないか」


「……?」


 あまりにも突然な要望に僕は固まり、ドアの前に立ち尽くす。


「とりあえずこっちに来てくれ」


 そう言ってミカサちゃんはベッドの上で手招きをする。

 促されるまま、僕はミカサちゃんのそばに寄った。


「まあ、まずは聞いてほしい。ユメくんはだな、単刀直入に言うとキスがものすごくうまいんだ」


 何を言い出すかと思えば。

 キスがうまい、か。

 満更でもない。


「まあ、うれしいですけど……」


「だから……はいっ」


 そう言ってベッドの上で両手を広げるミカサちゃん。

 ついには目もつむった。

 心臓の鼓動が早くなる。

 今、自分のお嫁さんがベッドの上で手を広げてキスを待っている。

 ああ、変な考えが昇ってきそうだ。

 ベッドの上で正座しているパジャマ姿のミカサちゃんに近づき、まず片方の膝をベッドに乗せる。

 そこからミカサちゃんの膝の前に手を付き、少しでも動いたらぶつかる位置にまで顔を持ってきた。

 吐息がかかるのか、少しミカサちゃんが後ずさり。

 届かなくなり、もう一方の足をベッドに乗せ、さらに近づいた。

 ミカサちゃんも背中が壁に付く。

 もうこれ以上離れることはできない。

 自分の心臓の鼓動がさらに一段階速くなるのと同時に、ミカサちゃんの顔も赤く染まっていく。

 そんな顔に我慢ができず、僕は唇を押し当てた。始めは軽く、すぐ離す。


「だめ……もっと」


 この世で最も可愛い目で見つめられそう告げられる。

 僕のブレーキが壊れそうになった。

 もう一度顔を近づける。


「んぁ……」


 ……。


 さっきより少し長く、そして強くミカサちゃんとキスをした。

 僕は目を開けているため分かるが、このミカサちゃんの気持ちよさそうな表情。

 これほどに僕を興奮させるものはないだろう。

 ……。

 しばらく沈黙が続いたのち。


「っはぁ、んはあ……長いぞユメくん。ちょっと苦しかった」


「じゃあやめますか?」


 少し意地悪な質問をしてみる。

「いやだ、やめるんじゃない。次は、その……舌を入れてほしい……」

 その言葉に意識を飛ばしそうになりながらも、なんとか理性は保ち一応の返事をする。


「はい……」


 そして何を思ったのか、僕はミカサちゃんを押し倒した。


「っわ、何をするんだユメくん。びっくりするじゃないか」


「ミカサちゃんが可愛いからですよ」


 そしてまた耳まで真っ赤になる。

 本当に可愛い。


 ちゅっ……


 再びそのピンク色の唇に僕の唇を押し当てた。


 毎回きゅっと目をつむるところも可愛い。


 我慢して足をぴんと伸ばす仕草もこの上なく可愛い。


 そんなことを考えながら、要望通りミカサちゃんの口の中に舌をいれた。

 お互いの唾液が交じり合い、舌をからませる。

 初めてのディープキスはほんのりと甘い。

 ソフトクリームをなめるように、ミカサちゃんの舌に沿って舌を回し、そして離した。

 二人の口の間で唾液が糸を引く。


「気持ちい……」


 その瞬間、何かがはじけ飛んだ。

 やはり、キスだけじゃ物足りなくて。


「やっ、ん……どこ触ってるんだっ、あぁっ。まだ、……だめだって、ん♡」


「……」


「もおーー~っ」



 このように夫婦二人だけの日常は他人に見せられるようなものではないのである。

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