第6話 ある日お嫁さんは家事を頑張り果て……
ユメくんが家を出発した家の中。
リビングに戻り気づく、家事の多さ。
朝の家事とはこんなに多い物なのか。
私は基本的に夜の家事を担当しているため、昼特有の家事を基本的にやったことがない。
それでも、旦那様にハグまでしてもらったのだ。
それに昨日の夜はあんなに甘やかしてもらったのだから。
昨日の夜を思い出し、またも顔全体を
これくらいはがんばらなくては。
しかし、どこから手を付けていくべきか。
「皿洗いかな……」
そう独り言をこぼし、台所へ向かう。
二人分といえど、料理に使ったフライパンなどがシンクに散乱している。
と思ったが、そこはさすが旦那様。
きちんと端の方に並べて置いてあった。
こういう旦那様の気遣いも好きだ。
この優しさを見てがぜんやる気が出てきた。
「始めるか」
私は袖を二の腕までまくり上げ、水を流し始めた。
二人とも残さず食べ、食べ方もきれいなため、手間が省ける。
新居のため、シンクのぬるぬるも全くと言っていいほどない。
まあ、これも毎回ユメ君が手入れしてくれているからなのだろうが。
全ての食器を洗い終わり、乾燥機に並べる。
プラスチックのふたを閉め、乾燥ボタンを押した。
これで皿洗いは終わりだ。
次は何をするか。そう心の中でつぶやく。
意外と大変なものだな、皿洗いという作業は。
昼の分はユメ君担当、夜の分は次の日の朝にまとめて洗うため、私が皿洗いを担当することは基本的にない。
旦那様は大変なんだな。
もっと家事を手伝わなくては。そう思い、次の仕事へと取り掛かった。
次は掃除だ。
二人が暮らす空間はいつでも清潔でなくては。
だがしかし、この広い家をどこから掃除し始めればいいのだろうか。
まあ、ユメ君も平日は一か所ずつほどしか掃除していないのだが。
今日は休日。時間はたっぷりある。
せめて二人の部屋とリビングくらいは掃除しなくては。
そう思い立ち、まずは自分の部屋へと向かった。
自分の部屋のドアを開け、部屋を見渡すが、あまり汚れている様子は見受けられない。
しかし、まだ開けていないカーテンを開けようと窓際に近づいた瞬間、不吉な予感に襲われた。
「……」
とりあえずカーテンを開け、日の光を部屋に取り込む。
そして、不吉な予感はみごとに当たった。
窓のくぼみに大量の、とまではいかないが、かなり目立つ量の埃がたまっていた。
「これは他の所も怪しくなるな……」
そうこぼし、雑巾を取りに行くため一階に一旦戻った。
部屋に戻ってくると、先ほどまで見えていなかったところが見えてくる。
勉強机の下、ベッドの下、そして暗黙の領域クローゼット。
意外に汚れている所が多そうだ。
一つ、周りをきょろきょろと見回し、マスクを着けて掃除に取り掛かった。
窓のくぼみ、ベッドの下、机の下と順に掃除していき、挙句掃除機をかけた。
恐らく一番汚かったのはベッドの下だろう。
まだここに住み始めて三日というのに、もうこんなに汚れが目立つとは。
これは数週間掃除をさぼっただけでもすごいことになりそうだ。
まあ、旦那様のことだからその心配は皆無だろうが。
クローゼットにも手を付けようとしたが、あまりに恐ろしく、それは無理だった。
掃除し始めたとて、終わりが見えないからな。
一応自分の部屋の掃除を終え、次は旦那様の部屋へと向かった。
何気に旦那様の部屋に入るのは初めてだ。
旦那様が私の部屋に入ってきたことは何度かあるが、私から旦那様の部屋に入ったことはまだない。
初めてのお部屋訪問。
少し心臓をはやらせながらドアノブに手を掛けた。
少々、汚いことを想像していたが、そんなことは全く持って無かった。
さすがは旦那様。
窓のくぼみを手でなでても、埃の一つさえ出てこない。
しかし、いくらユメくんが几帳面だからといって、汚れている箇所が一つもないことはないだろう。
例えば、私の部屋で一番汚かった『ベッドの下』とか。
そこまで考えが回ったところで、一つ、不安が浮かんだ。
ユメ君はいくら私の旦那様だからといっても中学生男子ということに変わりはない。
つまり……。
そういうナニかがあるかもしれないのだ。
まあ、そんなことするような性格には見えないが。
それにここに入居してきてまだ三日も経っていない。
自分の家から持ってきていない限り、買う暇は無かったはず。
…………。
それでもやはりナニか出てきたらびっくりしてしまうので、断念することにした。
まあ、あの旦那様のことだからきれいにしてあるだろうし。
そんなのも無いだろうし。
もしあったら許さないけど……こんなに可愛いお嫁さんが近くにいるというのに。
見つかっていないながらも嫉妬する自分は、よほど愛が強いのだろうな。
そんなことを考え、リビングの掃除へと向かった。
リビングも一通り掃除し終え、ようやく暇になった。
といってもまだ仕事は残っているのだが。
一段落ついたというほうが正しいだろう。
「ふう」
そう一つため息をつく。
しかし、まだ力は残っている。
それはなぜか、考える間でもないだろう。朝、ユメ君にぎゅってしてもらったからだ。
この世で一番愛している人から抱き着かれるのだぞ。
それはやる気が出るに決まっているではないか。
「とりあえず洗濯物を片付けるか……」
そう独り言を呟き、脱衣所へ向かった。
脱衣所の洗濯物の量を見て、驚愕する。
いくら二人といえど、生活していると、これだけの量の洗濯物が出るのか。
まあ、しょうがない。これを毎朝ユメ君はやってくれているのだからな。
洗濯は夜もするのだが、最近はため込んで朝担当のユメ君に回している。
そのためか、今日も洗濯物の量は多い。
私は洗濯機のふたを開け、丁寧に洗濯物を入れていった。
しかし、そこで大事件に気づく。
この家では下着を分けて洗っていない。
それはつまり、私の下着もユメ君の下着も全部ユメ君がいっしょに洗っていることになる。
洗濯を任せておいて文句を言えた身ではないのだが、これは私も恥ずかしいゆえ、分けてほしい。
そしてユメ君は女物の下着を洗ったことがないのか、そのまま洗濯機にぶちこんでいるらしい。
あたりにネットらしきものが見えない。
「////……しょうがない、今日ばかりは手洗いするか……」
そうこぼし、自分の下着を風呂場の方へ投げ込んだ。
そしてなるべく旦那様の下着を見てしまわいようにしながら、一気に洗濯槽に洗いものを入れ、スイッチを入れた。
洗剤、柔軟剤を入れ、ふたを閉める。
しばらくののち、水が出始め、洗濯槽がぐるぐると回り始める。
この瞬間を見届けるのがなんとなく好きだ。
これが分かる人はいないだろうか。
それにしても、なぜ同じ洗剤と柔軟剤を使っているはずなのにユメ君からはあんなにいい匂いがするのだろう。
そんなことを考えながら、さきほど風呂場へ投げ込んだ下着のもとへ向かった。
うちの風呂場は広くもなければ、狭くもない、いたって普通の風呂場だ。
シャワーと鏡と浴槽がある。
何不便のない普通のもの。
その床の真ん中に下着が乱雑に投げ込まれていた。
これをユメ君が見ていたらどんな反応ををするだろうか。
そんなことを考えてみる。
思わず笑ってしまい、顔がほころんだ。
笑いがおさまったところで洗面器を手に取った。
シャワーを左手で取り、洗面器に向ける。
蛇口をひねった瞬間、冷たい流水がシャワーから勢いよく流れ出た。
少し顔にかかる水が冷たい。
ある程度水が張れると、そこに数枚の下着を漬ける。
しかし、下着を手洗いする専用の洗剤などまだこの家にはない。
仕方なく洗濯機の横のかごから洗剤を取り出し、それを下着につけて洗った。
下着を洗っている最中、場所が場所だったためかこんなことをふと、唐突に考えた。
(旦那様と一緒にお風呂に入りたい!)
何を考えているのだと頭を横に振り、考えを振り払う。
しかし、一度思ってしまったことはそう簡単には消せない。
どうしても一緒にこのお風呂に入りたい。
一緒にこの浴槽につかりたい。
そんな考えが頭の中をよぎりまくり、ついに実行に移すことにした。
まあ、朝下着姿見せる宣言もしたことだし、私とお風呂に入ることができれば旦那様も願ったり叶ったりだろう。
第一私はそういうことを気にする人でもないし。
夫婦のスキンシップとして、こういうのも必要だろう。
何かと理由をつけようとしたが、結局自分の欲望以外の何物でもなかった。
でも、入りたいものは入りたい。
気が付くと、いつの間にやったのかお風呂掃除が終わっていた。
しかもピカピカに。
そんなに旦那様と一緒にお風呂に入りたいだろうか。自分の本能に少し呆れながらも、お湯を張るスイッチを左手の薬指で押した。
リビングに戻って時計を見るとまだ11時を少し過ぎたくらい。
旦那様が帰ってくるのはあと一時間ほど後だ。
だというのに、もう胸が高鳴っている。
本気で自分はこんなことを計画しているのかと思うと、少し呆れが出るものの、やはり一緒にお風呂に入りたい。
それにお勤めから帰ってきた旦那様に一度は言ってみたいのだ。
『ごはんにする? お風呂にする?それとも…………』
と。
まださすがに最後のは言えないが。
自分で考えておいて、自分で恥ずかしくなる。
あとまだ58分ほど。
ああ、この気持ちをどこにぶつければいいのだろう。
そんな幸せなことを想像しながら、ソファーでおとなしくテレビを見て、旦那様の帰りを待った。
12時10分を過ぎたころ。
コンコン
ドアのノック音が玄関から聞こえた。
結局集中できなかったテレビを即座に消し、玄関へと急ぐ。
鍵を外し、ドアを開けると、そこには夢にまで見たユメ君が立っていた。
まあ、当たり前なのだが。
「ただいま~ミカサちゃん、お留守番ありがとう」
部活で疲れているはずなのに、それを一切感じさせないほどの笑顔で私を労ってくれた。
素直にうれしい。
そしてこういうところも好きだ。
「おかえり、ユメ君」
そう言うと、ほのかにユメ君が笑い、靴をぬぎ始めた。
そして、靴をそろえたところで、ついにあの言葉を言う。
「ユメ君」
「ん 何?」
少しもじもじしながら言う。
このセリフってこんなに恥ずかしい物だったんだ。
「……お風呂にする、ごはんにする、それとも、私といっしょにお風呂に入る?」
旦那様の肩にかかっていたサブバックがずるっと床に落ちる。
よほど驚いたのだろう、口が半開きになり、固まっている。
「それは、その、どういう意味合いで……」
「そのままだけど…………」
さらに旦那様の顔が熱くなる。
「それはどれを選んでもいいんですか……」
「も、もちろん、いいに決まっているだろう」
ああ、早く決めてくれ、こちらまで恥ずかしくなってくる。
「最後のを選んだとしても?」
「ま、まあ選択肢に入っているからな」
ユメ君が正気を取り戻し、何かを決意したような表情を見せる。
「早く選んでくれ、こっちも、は、恥ずかしいんだからな」
そうせかすと、ユメ君は口を開き、どれを選ぶか、決意を口にした。
「じゃあ、僕は…………」
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