第66話 いつも通り

「「 いや、バカだろ! 」」


その瞬間、俺とテルの声は見事に重なった。



事の経緯はこうだ。

ケンゴの発案でツーリングに行くことになった。

富山で海鮮を食おうツーリングだ。

これは良い。

メンツはケンゴ、テル、俺。

バイクはスパーダ、サベージ、XJR。

いつもの3人と3台だ。

これも良い。


そしてツーリング当日。

集合場所のコンビニにケンゴが遅刻してきて、にもかかわらず朝飯を買って食い始め、ダベり&タバコで予定時間を大幅に超えての出発となった。

これもまあ良い、いつもの事だ。


岡谷インターから高速に乗って松本で降りる。

ガソリンを入れて上高地方面へ。

しばらく走ると峠道になる。

乗鞍スカイラインに行った時に通った道だな。

さあ、楽しい時間の始まりだ。

ケンゴ、俺、テルの順で隊列を組んで快適なスピードで峠道を堪能する。

川沿いの硫黄臭い道を抜けて、水がビチャビチャ垂れてくる狭くて暗いトンネルを抜けて、林間の気持ちの良いワインディングを走る。


天気も上々。

クネクネとどこまでも続くワインディングロードを気の置けない仲間と一緒にバイクで走る。

これも良い。

いや、むしろ最高だ!


ただ、走り続ければ流石に疲れる。

かなり前からセンターラインの無い道を延々と走っているけど、ちっとも山を抜ける気配がない。


なんて思っていると、スパーダがウィンカーを出して路肩に止まった。

俺とテルも続いて止まったけど、そこにはトイレも自販機も何もない。

視界にあるものは森と空と道だけだ。


「ふう〜、疲れた」

「なに、ションベン?」

「いや…」

「結構走ったなあ、今どの辺?」


「え〜と…」

ケンゴが開いているツーリングマップルを3人で覗き込む。

「今いるのが、この道の、この辺…」

「うんうん」

「それか、この道の、この辺」

「うん?」

「なに?」


「…もしもし、ケンゴくん?」

「ん?なに?」

「ん?なに? じゃなくて」

「もしかして、ケンゴくんはバカなのかな?」

「いやいや何言ってんの、オレはバカじゃないよ」

「そーかそーか、そーだよなそーだよな、じゃあもう一回教えてくれる?今どこに居るって?」


「だ〜か〜ら〜、今いるのは、この道の、この辺か、この道の、この辺」


「「 いや、バカだろ! 」」

↑はい、いまココ


「何で現在地が2つあるんだよ!?」

「おい、マジか〜」

「いや違う違う!だって国道行ったって面白くねえじゃん!!だろ!?」

「いや、そう言う事じゃねえだろ」

「しかも、何でちょっとキレてんだよw」



まったく、ケンゴって奴はこれだから面白いw

とは言え、問題もある。

「そろそろガス入れてぇんだよなあ」とテル。

「あ〜、サベージ、タンクちっちゃいんだっけ?」

「おい〜、勘弁してくれよ〜」

「「 お前が言うな! 」」


その後、無事国道に合流しガスも入れれたから良かった物の、ケンゴのせいで大幅なタイムロスをしてしまった事は否めない、でもまあコレも、いつもの事っちゃあ、いつもの事なんだよなw


「さて、どうすっか? だいぶ時間押してるけど、誰かのせいで」

「そうだな〜、どこまで行くかによるけど下手したら富山で晩飯になっちまうよ、誰かのせいで」

「もう、昼まわってるからなあ、誰かのせい…」

「「 お前のせいな 」」


「いいじゃん、富山抜けて新潟回って糸魚川から帰れば」とケンゴ

「いや、軽く言うけどすげぇ遠回りだろ?」

「正直、ここまでの峠三昧で結構疲れてんだよな」

「なんだよだらしねぇなあ」

「……」 

「……」

「…まあ、取り敢えずもうちょい行って、遅めの昼って事で海鮮ぽいもの食って、そこで考えようぜ」

「そうすっか」

「え〜っ、せっかくココまで来たのに…」

「よっし、行くか」

「だなw」


そして、いい感じの店を探しながら走るも見つからず、結局ファミレスで飯を食うという、これまた、いつも通りの展開を迎え、飯を食いながらの俺とテルの話し合いの結果、来た道を帰るという事になった。

まあ、正確に言えばどの道を来たのかは誰にも分からないから、本来通って来るはずだった道を帰るというのが正しいんだけど。

ちなみに、ケンゴの意見は自動的に却下される事になっているw


そして国道を帰る事しばし。

(おいおい、もうこんなトコまで戻って来ちゃったよ)

行きの道がどれだけクネクネ回り道をしてきたかが分かろうと言うものだ。

でもまあ、車の流れに合わせて走って、信号で止まって、なるい道をダラダラ走るのは退屈で眠くなってくるし、それはそれで疲れる。

だから、「国道行ったって面白くねぇじゃん」というケンゴの言葉も、まあその通りなんだよな。


そのまま特に何事もなく走り、松本インターから高速に乗る前に休憩。

暗くなって来たから、メットのシールドをスモークからクリアに替える。

視界が良好になるのは良いんだけど、顔が見えるのが嫌なんだよなあ。

走りながら可愛い女子見てるのがバレるしw


「最後、塩尻で降りて、塩嶺(塩尻峠)走って帰らん?」

「まだ峠行くかよ?」

「だって、このまま帰っても面白くねぇじゃん」とケンゴがニッと笑う。

「はあ…いいぜ〜、塩嶺は俺のホームだからな、ブッちぎってやるぜ!」

「ははっ、まだカツには負けねぇよ」

「行くか〜、でもサベージじゃもうついて行けねえかもなあ、カツも速くなったし」

「そもそも付いて来るのがおかしいんだけどなw」

「じゃあ、行きますか」


一応言っておくと、時間に余裕があってのんびり帰りたい。とか、どっか寄りたいとこがある。とかじゃなければ休日の松本〜塩尻間は国道じゃなくて、高速を使うことをオススメする。

なぜならメッチャ混むから。


という訳で高速に乗り、あっと言う間に塩尻インター出口。

ケンゴ、俺、テルの順で塩尻峠に合流。

(よっし、行くぞお〜)

車の流れに乗っていたケンゴが少しずつペースを上げ、俺とテルが付いて行く。

上り二車線のこの道は普段から割と車のペースが速い。

そして、その車たちよりも速いペースで走っているけど不安は感じない。

(よしよし、普通に付いて行けるぞ。速くなってるじゃん俺)

まあ、テルのサベージも付いてきてるんだがw

(おっと、東山のコーナーはキツイぞ。ツッコミ過ぎるなよケンゴ)

と前を行くケンゴを気遣う余裕まである。俺ってすげぇ。

更にいくつかコーナーを抜けて、なるい区間に入る。

(悪いけど、ブッちぎるぜ!)

ヴォォオオーンッ!!

排気量差に物をいわせてケンゴを追い抜く!


―――

「いや、速くなったわ、カツ」

「だろ?w」

「まあ、最後はバイク差だけど」

「分かってるよそんな事は、おだてるなら最後までおだてとけよ!w」

ツーリングの締めは、いつも通りコンビニでの振り返り話だ。

「いや〜、結構疲れたなあ〜」

「誰かのせいでなw」

「もう当分、峠はいいわ〜」

「結局海鮮食ってね〜しなw」

「確かにw」

「まあ、また今度だな」

「そうだな〜」


ひとしきり話し、疲れと眠気がじわ〜っと体に広がってきた頃、誰からともなく、

「そろそろ、帰るか〜」

「帰りますか〜」

立ち上がり、くあ〜っ… と背伸びをする。


楽しかったツーリングも、もう少しで終わりだ。

「じゃあな」

「ああ、お疲れ」

「じゃ〜な〜」

別れの言葉を告げてそれぞれに走り出し、

あとは流れ解散。



いつものメンツでツーリングに行って、バカ話をして、帰ってきて、自分の家のいつもの場所に、いつも通りにバイクを停める。

「ふう〜っ、疲れた」


いつも通り。って言うと、変わり映えしない。とか、マンネリ。みたいな、良くない意味に使われる事もあるけど、でも、今日みたいないつも通りのツーリングでも、俺に取っては特別で、

だから、こんな『いつも通り』だったら

悪くないと思うんだ。





















































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