第63話 ワイテンブルー 2

白い車体に、青い制服でバチッと決めたその姿が対向車線に見えた瞬間。

アクセルオフからの急ブレーキ!

(ぐおぉ〜マジか〜)

一気に距離が縮まり、背筋を伸ばして運転するソイツとすれ違いざま、俺も背筋をピンと伸ばし、ニーグリップをぎゅっと決めて、何事も無かったような顔をしてすれ違う。

きっちり制限速度以下まで減速できたはず。


(やばいか? これやばいのか?)

走行車線から登坂車線に移り、ドキドキしながらバックミラーをチラチラ見ながら走っていると、ミラーの中で小さくなって行くソイツが、くるりとUターンを決めたのが見えた。

(うお〜!マジか!? Uターンマジか! え? スピードは出てたけど追尾された訳じゃないから大丈夫だよな? でもあれか?危険走行とかそういう奴?)

あれこれ考えながら制限速度以下で走る俺の後ろにソイツはピタリとついた、それも丁度俺のミラーに大写しになる位置に。

ここまで来たらもう見間違いようが無い。っていうか最初から分かってたけど、どっからどう見ても本物の白バイだった。


(うお〜、これどうすりゃいいんだ! 助けてクスダさん!アマイさ〜ん!!)

初めての事態に半ばパニックになりながら、どうしようどうしようと考えるも、結局俺はどうすることもできず、まるでツーリングでもしているかように白バイとランデブーして、そのまま二台揃って頂上の駐車スペースに入っていった。


地べたに座って話をしていたクスダさんとアマイさんがバイクの音に気付いて俺の方を見て、一瞬動きが固まる。

俺は二人の近くにバイクを止めてメットのシールドを上げ、声を出さずに表情だけで土下座しながら謝った。

(すんませ〜ん!!助けてくださ〜い!!)


白バイ隊員はすっと淀みなくバイクを降りて声をかけてきた。

「こんにちはー。ちょっとお話聞いてもいいですかー?」

「え〜、やだ」

クスダさんが答える。

「そんなこと言わないでよ、みんな仲間かな?」

「そうだよ、何かあったのオマワリサン」

とアマイさん。

「いや、こっちの人がずいぶん急いでる風だったから、どうしたのかなと思ってね」

と俺の方を見て。

「ちょっと免許証見せてくれるかな?」

「え?、あ、は…はい」

しどろもどろになりながら免許を渡すと、何を確認したのか

「はい、ありがとう」

と返される。

「そっちの2人もいいかな? このバイクは2人のかな?」

「そうに決まってるじゃん」

「免許出すのメンドイわ〜、なんも悪いことしてないし〜」

「そんなに嫌がらないでよ、これも仕事なんだよね、協力してくれないかな?」

「ん〜、じゃあオマワリサンが警察手帳見せてくれたら見せても良いよ」

「う〜ん…、わかった。約束だよ?」

と言うと、本当に警察手帳を見せてくれた。

「あはは、ホントに見せてくれるんだ」

「はい、じゃあ約束通り免許証見せてくれる?」

「いいよ〜」

俺はと言えば、その後ろでドキドキしながら経緯を見守っていた。

そしてその後もにこやかに三人の会話は続き、

「ご協力ありがとうございました。それじゃこれで行くけど、くれぐれも安全運転でお願いしますね?」

と最後に俺の方を見てから白バイは去っていった。


塩尻方面に走り去った白バイを見送ってホッとした俺に、クスダさんとアマイさんの二人はくるりと振り向いて、

「ばっか!サイトウ、白バイ連れてくんなよ!」

「あせるじゃねーか!」

「すんませ〜ん!!もう、どうしたら良いかわかんなくて、すんませんした!」

「まあ、何もしてなかったからいいいけどさ〜」

「なに、追っかけられた?」

「いや、ゴキゲンで走ってたら対向車に居て、ヤバっと思ったらUターンしてきて後ろにつかれちゃって、そんでそのままここに…」

「ははっ、良かったな捕まんなくてw」

「そのまま、ぶっちぎって逃げちゃえば良かったのにw」

「いやいやいや!そんな事考えもしなかったっすよ!白バイ見た瞬間急ブレーキですよ!!」

「あっはっは!それが正解だわ。白バイからは絶対逃げられんから」

「え?クスダさんでも?」

「無理無理!あいつらおかしいから。俺の友達に白バイ隊員がいるんだけどさあ、一緒にツーリング行くと馬鹿みたいに速ぇから!リーンウィズでヒザ閉じたまま峠かっ飛んでくから!」

「ジムカーナとかも毎日って言うくらいやってて、街なかでも絶対かなわんよ!」

「は〜、マジっすか… まあ、逃げようとは思わないですけど、それにしても二人とも普通に話しててドキドキしましたよ」

「ははっ、まあ気持ちは分かるけど白バイ隊員と話すの結構楽しいぞ?」

「基本やさしいし、色んな話してくれるし」

「バイク好きが多いしな」

「そうなんですか?」

「だって、白バイに乗りたくて白バイ隊員になってる連中だぜ?」

「なるほど?」

「でも仕事でずっと乗ってるから、休みの日までバイクに乗りたくないなんて話も聞くけどなぁw」

「警察手帳も見せてくれたし、いい人だったよ」

「とは言え、赤灯回して追っかける時は鬼になるんだろうけどw」

なんて、そのあとも白バイ友達さんのヤバい武勇伝話しで盛り上がっていると…


さっきの白バイが、後ろに車を一台従えてゆっくり駐車場に入ってきた。

「えっ?」

「あらら、スピードか?」

「あ〜あ、ごしゅーしょーさまw」

白バイ隊員が車の運転手にドア越しに声をかける様子を見ながら、

「車も増えてきたし、そろそろ帰るか〜」

「そうっすね、これで捕まったら笑えないしw」


ヴォン! ヴォウッ!

俺はチラリと白バイを見やってから走り出した。


でも、今日のこの出来事は、俺達と白バイとの長い長い闘いの始まりに過ぎないことを、この時の俺達は知る由もなかったんだ…


なんてことは無いw

「良かった、追っかけられなくて…」


くわばらくわばら。

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