第68話 300km/h
カワサキ ZX-9R Type C
マジック9
最高速度300Km/hのグリーンモンスター
まあ、俺の9Rは青色だけどw
中央自動車道上り。
天気 晴れ。
気温 適温。
ヴォォオオッ!!
スタートダッシュを決めて先頭に出た俺はそのまましばらく先行。
変えたばかりのダブルバブル形状のスクリーンは、見た目が格好良いだけじゃなくていい仕事をしてくれる。
頃合いを見計らって走行車線に移り、幾分速度を落として走っていると…
ガアアアアッ!!
ヴオオオオッ!!
続けざまに二台のバイクが追い越し車線を加速していく。
クスダさんのニンジャと、アマイさんのZZ-R1100だ。
(飛ばしてんなあ)
思わず顔がほころぶ。
フアアアアッ!!
今度はクマガヤさんのXJR1200が乾いた排気音を残して走っていく。
(速っ!リミッターカットしてるんだっけ?)
ドオオオオッ!!
少し遅れて、X4のタンクに目いっぱい体を伏せてテルが抜いていく。
テルの後ろ姿を見送ると、快晴の青空が目に入った。
(い〜い天気だ)
少しの間アクセルを緩めて走行車線を流す。
ふうっと一息。
(さって、行くかあ)
ステップに立ち上がり、ドスンと座り直す。
スイッチを入れる儀式だ。
追い越し車線に移ろうとチラリとミラーを見ると、ヘッドライトが二つ近づいて来る。
ケンゴのCB400と、イシクラさんのニンジャだろう。
ウィンカーを右に出し、一速落として加速。
キャンディライトニングブルーのZX-9R、そのデカいタンクに伏せてアクセルを開ける。
ヴオオオオッ!!
ニンジャ特有のゴリゴリした加速を感じながら、そのスピードに目と体を慣らすように段階的に速度域を上げていく。
走行車線を走るX4に追いついた、テルだ。
抜きざまにテルの方を見ながらぶち抜き、追いすがるX4をミラーで確認しながら更に加速し引き離す。
(前を行く三台に追いつけるか)
高速コーナーの立ち上がり。
リヤタイヤがグリップするのを感じながらアクセルを開け、加速。
感覚的に200km/h以上は出ていると思うけど、そこは最高速度300km/hのZX-9R、まだまだ余裕だ。
バイク的にはw
クネクネと曲がりくねる中央道でそのスピードを維持するのは俺には無理だ。
(これ以上はおっかねえなあ …ん?)
ミラーに映るライトに気付く。
(一台…二台… 速いな)
走行車線に移り道を空けると二台のバイクが抜いていく。
ヴオオッ!!!
ヴァアッ!!!
ヨウちゃんのZX-9R type Eと、ナカオカさんのCBR1100XXだ。
(速えっ!!何キロ出してんだ!?)
みるみる距離が離れていく、とてもじゃないが付いて行けない。
俺はもう自分の限界を超えてスピードを出してコケるような初心者じゃあないし、ガキでもない。
いや、ガキではあるかw
「ちっきしょう!速えなあ!」
―― 集合場所の双葉サービスエリアのパーキングでは、クスダさん、アマイさん、クマガヤさん、ヨウちゃん、ナカオカさん、の五人が休憩していた。
バイクを停めてメットを脱ぐ。
「ふう、楽しかった、てゆーか皆飛ばし過ぎっすよ!」
「え? そう? そんな出てた?」
「いいトコ100キロくらいじゃない? メーター見てないけどw」
ヨウちゃんとナカオカさんが答える。
「全員抜いてった二人が何か言ってるよw」
「「はっはっはっは!」」
どうやらこの二人がトップだったみたいだ。いやマジで飛ばし過ぎだろw
ズドドドドッ
テルのX4が重低音を響かせて入ってくる。
「ふうっ」
「おつかれ〜」
「いや、みんな飛ばし過ぎっすよ!」
テルも俺と同じ事を言った。
「やっぱそう思うよなw てゆーか、あれ? 俺、いつテル抜いた? 体が細すぎて気づかなかったわw」
「そんな訳ねーだろw」
「目ぇも細いし」
「目は関係ねぇだろ、てゆーか抜く時こっち見てったろーが」
「あ、バレてた?」
「X4のメーター振り切ってたのにカツの9R離れてったからなあ、ちきしょう」
と悔しそうにテルが言う。
「メーター振り切る!? そんなに出しちゃいかんよ? あぶないよ?」
「抜いてったお前が言うなw」
「まあ、高速はネイキッド、キツいよなあ」
「サイトウ、それを言ったらXJRで付いてきた奴が一人居るんだけど?」
とクスダさん。
「あー大丈夫です。クマガヤさんが普通じゃないのは分かってるんでw」
「いや?ビキニカウル付いてるし?」
とクマガヤさん。
「それ、フルカウルのバイク乗りに言うw? いい加減自分がおかしいって事に気付いた方がいいぞクマガヤ」
すかさずクスダさんからのツッコミが入る。
「ひでえ言われようだよw」
「「あっはっはっは!」」
――
「後はケンゴ君とイシクラか?」
と、クスダさん。
「え〜と… そうっすね」
ちなみにイシクラさんはクスダさんの友達で、
そのイシクラさんの友達がヨウちゃんとナカオカさん、みたいな繋がりで、みんなタメ年。
みんな仲が良くて、少し年下の俺、ケンゴ、テルとも仲良くしてくれている。
ありがたい事だ。
なんて話していると、パーキングにケンゴのCBとイシクラさんのニンジャが入って来て、メットを脱ぐなりケンゴが
「いや、飛ばしすぎだって!」
「あー、もうその話終わったからw」
「いやいや!終わってないよ!オレのCB400スーパーフォアハイパーVテックバージョン2のハイパーVテック効きっぱなしだったから!壊れるかと思ったわ!」
「壊れれば良かったのにw」
「良くねぇわ!! オレのCB400スーパーフォアハイパーVテックバージョン2のハイパーVテックが…」
「はいはい」
「分かった分かったw」
「みんな、飛ばし過ぎだろ」
イシクラさんの方でも同じような話しをしている。
「イシクラのニンジャだって、ちょっとアクセル開ければスピード出るだろ? オレと同じバイクなんだから」
「出るけどコエーじゃん」
「峠でスピード出すより、高速の方が安全じゃね?」
「そうか〜?」
イシクラさんは峠だと結構飛ばす。
9Rに乗り換えて、速く走る事に目覚め始めた俺と同じ位の速さだから、一緒に走るととても楽しい。
「ヨウちゃんとナカオカは300とか出してんの?」
「いや? 出した事ないなあ」
「ZZRとかCBRならスペック的には行けるはずだけど実際どうなんだろうな?」
「さあ? 瞬間的になら出せる気はするけど、どうだろ?」
と当事者二人も首をかしげる。
(300かあ… メーター読みなら9Rでも出るはずだけど、出せる気がしねぇなあ…)
このところ、時速300km/hというワードがバイク雑誌を賑わしている。
アマイさんの乗るZZ-R1100を皮切りに、国内主要メーカーの最高速度更新祭りが始まっていて、ナカオカさんの乗るCBR1100XXスーパーブラックバードもホンダの旗艦として発売され、スズキからはGSX1300Rハヤブサが発売された。
そう、世は正に300km/h戦国時代に突入していた。
もちろん、サーキットで速いバイクも多く発売されていて、つまり、
速い=格好良い。
と言う図式が出来上がっていた。
少なくとも俺の周りではそうだったんだ。
ちなみに俺が乗っている9Rは、SSでもあり、
決して中途半端なバイクではない。
決して中途半端なバイクではない!w
そんな背景もあって、最近のツーリングは俗に言う走り屋スポットに行く事が増えた。
ここで唐突に、仲間内の速さランキングを説明しておくと、まず一位はクマガヤさん。圧倒的に速い、おかしいくらい速い。二位はヨウちゃん。速い、まるで付いて行ける気がしない。クスダさん。速い。アマイさん。速い。多分ナカオカさんも速い。
うん…俺と比べるのが間違いだった…
―― 一息ついて再スタート。
今日の目的地は、奥多摩湖周遊道路。
行くぞ!
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