第8話

 「ありゃりゃ」




 僕が腐敗させたのをティターが燃やした理由。僕が出現したことを誤魔化すためだったのか。こういう面倒なこと僕嫌いだからな。誤魔化そうにも、僕ほど腐敗の魔法を使える人間がいない。




「ロッテンダスト、なぜパンプキンを殺さなかった?被害はわかるだろ?野田市の被害、坂東市に直接乗り込んだお前ならわかるはずだ。あの脅威をなぜ放置した」




 大剣の切っ先を僕に向けた。




「必要がないから」




 僕は冷笑を浮かべて、向き直った。だが大剣持ちの男、三船は違うことを考えたようだった。目を閉じて逡巡していた。何かを言いたげだったが呑み込んだようだった。




 だが別の話題ならまた違うといった反応を見せていた。






「お前はなぜこの十字路にいた?」




「散歩だよ」




 三船は警戒した面持ちで僕を見つめている。それでいて口を開くのを躊躇っていた。






「浅田の指示か?」




 ようやく出せた言葉は静まりかえっていた。






「誰?」




 僕は再び首を傾げた。記憶にあるけど、全くない名前。つい最近聞いたような名前が頭をかすめるがまったくわからない。その僕の様子に三船は怪訝な面持ちを見せた。






「孤児院の用務員の浅田だ」




 怪訝な面持ちであり、だが納得したような表情も浮かべている。 




「ああ!!」




 三船が追加した情報で僕は思い出した。自分の手でぽんと叩く。いつも適当な名前を言っているから、時折忘れるのだ。複数の名前を突発的に言えるのはいいんだけど、すぐ忘れちゃうから大変だ。




「そんな名前だったね」






 僕は思わず言ってしまった。自分の名乗った以上、一日ぐらい覚えておかないといけない。それを感じた。






「あの男とつながりがあるんだな」




 だが僕の様子で三船は一つの見解を手に入れたようだった。あの場面で明確に否定しなかった。そのため、僕とおじさんスタイルの中身が裏で通じている。ここで一つミスをしてしまった。頭を軽く叩いて、失敗を理解した。




 知っている。




 その事実で十分なのだ。




「数少ない住人だからね」




 僕は余裕に答えた。だが大剣持ちの男はそれを気にしない。




「浅田の名前を聞いても思い出せない。この町の知り合いであっても咄嗟に名前が出ないのも仕方ない。だが孤児院の用務員で気づいた。普通ならそこで終わりだ。だがお前のくれた情報は別の可能性を見せた」




 三船の眼光が鋭くなり、僕をとらえていた。獣のごとき強い目だ。




「あの男は複数の名前を持っている。お前には別の名前を言っているんだろう。だからすぐにはわからなかった」




「まあそうかもしれないね」




 妄想の中での真実が一つ。僕の複数の名前が相手に感づかれた。






「お前はあの男が複数の名前を持っていることを知っている。だから別名を名乗ったのだろうと考えたはずだ。誰にもロッテンダストに用があるといっていないからな。気づくとすれば浅田しかいない」






「浅田さん可哀そう。ほぼ言いがかりじゃん」




 僕は肩をすくめた。だが真実もある、おじさんスタイルの僕は気づいたから来てやった。夜中に人もいない十字路にだ。






「この町の過剰な武力は異常だ。武力が気になると知っているのは浅田だけだ。孤児院の武力、町を警備するものたちも同様な力の感じ方をした。さすがに孤児院のやつのほうが実力は高いが、どこか似た感覚があった。孤児院が本拠だ。武力の原因、浅田にあったんだな」




 僕は自然に笑みが薄くなっていく。冷酷なまでに僕は冷めていく。






「どうぞ」




 話を続けさせた。




「探していたお前と俺を浅田は引き合わせた。これ以上探られたくないからだ」




 三船は切っ先を僕のほうへ突き付けていた。




「この町の武力を束ねているのは浅田だ。お前は浅田のなんだ?あの男はなんだ?魔法少女を手ごまにし、過剰な武力を束ねる。あの男からは何も感じない。強さも魔力もだ。霊力、気力もない。どうやってお前たちを引き込んだ!!」






 僕は構えた。見解は違う。答えも違う。ほとんどが妄想の類だが、一部真実が混じっている。このまま続けると真相に気づく。おじさんスタイルの時には魔力はない。これはある条件を除き、僕の体内から魔力は検出できないようになっている。






 だがこれ以上考えさせない




 大剣持ちの男に対し殺気を放つ。それを受けて相手も構えた。大剣の切っ先を僕に向けていた。




 僕だってわかっている。これは相手の意見を認めたことになる。一部の真実を認めることで、それ以上の思考を防ぐ。これが一番手っ取り早いのだ。




 僕も手の甲を相手に向けて、構えた






「俺とお前に面識はない。今この場にいた理由は何だ!!」




 ともに駆け出し、接近。繰り出される袈裟切り。裏拳で大剣の腹を叩き、軌跡を無理やり捻じ曲げる。また一歩踏み込み肘を顔面へ。相手はそれを見越していたのか、左足を軸に旋回。肘うちが空をきったときには、僕の正面に迫る回し切り。




「たまたまさ」






 その迫る剣を避ける必要もなく、膝で打ち上げた。大剣の腹を蹴り、浮いた剣による反動が上半身のバランスを崩させた。だがそのまま力に逆らうことなく、相手は大剣を地面に突き刺した。体重を大剣に乗せ、向けられる蹴りの一撃。




「院長を前面に押し出し、目立つことをさせた。孤児院に武力を集中させ、15歳の院長がそれを束ねる。話題せいがあるな!現に依頼人の商人が騙された。少し考えれば子供が力を束ねるなんて不可能だったんだ!誰もがほしがる武力を子供が所有する。あまりに餌が大きすぎた」




 僕は掌底で迎撃。




 掌と蹴りがぶつかり、僕はさらに踏み込んだ。力負けをしたのは相手のほうだ。




 魔法少女は決戦兵器だ。




 人間が力を得た程度の冒険者とは格が違う。






 されど相手も優秀なのだろう。力負けしたことによるものをものともしない。大剣から手を放さず、伸ばす。逆立ちのような姿勢で、一転。体重を乗せて地面から大剣の切っ先が姿を現す。慌てて踏み込んでいた僕はそれをステップで後方に避けた。






「そこまでする理由は何だ?この腕があって、とどまる理由は何だ?お前なら東京でも活躍できる。この町の武力集団もそうだ。お前たちはもっと輝けるぞ!!」




「興味ないだけだよ」




 大剣持ちが言っていることは大きく違う。






「子供を利用する理由は何だ!!」




「そんなの僕が知るわけないでしょ」






 実際、三船がいっていることをしている。都合がいいからだ。おじさんが武力を持つのは格好がつかない。年頃の少女が善性によって武力集団を従えるほうが外聞がいい。たとえ裏で何があってもだ。それを院長は理解していたし、受け入れていた。




「妄想が酷いこと」




 正拳を打つ、空気を爆発せんとした音が夜に響く。大剣と打ち向かう一撃は相手の剣撃を歪ませる。連続打撃の応酬、拳の合間に剣撃による牽制。だがそれもいつしか僕が攻め込んで、受け止めていくだけになっていた。切っ先を向けられても何も怖くない。しょせん冒険者の武器だ。怪人の武器じゃない。




「大したことないね」




 地面に手をつけ、足を延ばし、コマのように回る。倒立した状態で蹴りを放つ、牽制技。その重みは魔法少女の力も相まって大きい。三船が剣の腹で受け止めているだけで、精いっぱいなのだろう。






 蹴りを終えると同時に、両手を大きく曲げ、伸ばす。ばねのように伸びた反動のサマーソルトは大剣持ちの腹部を大きくとらえた。大剣が先ほどの蹴りでズレていたため、まともにくらったようだった。




 大剣をそのまま落とし、三船の体は浮き上がった。そのまま一撃の重さがダメージを残し、重力が三船を下に突き落とす。




「がはっ」




 地面で二転三転と体がすべっていく。ようやく止まった時には服装がぼろぼろだった。




 腹部をおさえ、その場に四つん這いになる姿。




 僕は笑みを浮かべた。




 そして男の腹部を更に蹴った。僕の蹴りによってまた体が転がっていく。激しい痛みを耐え、なお戦意を失っていない。




「何が知りたいの?弱っちぃくせに」




「こ、この町の秘密だ。ここは退廃地域、危険地域に指定されている」




 息も絶え絶えだが、三船は僕から視線をはなさない。近寄った僕は背を空に向けた三船の体の下に足を潜り込ませて、ひっくり返す。




「うん」




 三船が伝える現状の評価にうなずいた僕。




 仰向けで腹部を抑え、うずくまる男が言葉を絞り出す。腹部を抑える手の上に足を乗せた。




 踏む、強く力を込めた。




 廃退地域、再興が望めない。




 危険地域、その名の通り命に関わる場所。




「があああ」




 激痛だろう。怪人すらもときに殴り飛ばす力を込めている。冒険者とはいえ、ただの人間。魔法少女に勝てるわけがない。




「弱い、本当に弱い」




 Aランク冒険者であってもだ、魔法少女のBランクに勝てない。魔法において、魔法使いは魔法少女の足元にも及ばない。また僕が魔法タイプでなく、肉体戦闘型であることも加えて、近接戦闘も追いつかないだろう。




「・・・俺は魔法少女のBランクにも勝ったことがある・・・だがお前はそれより強い・・・」




 当たり前だ。




 普通の魔法少女相手なら肉体戦闘において戦えるだろう。魔法を使わせない状況であれば勝てるかもしれない。だが魔法少女の魔法は異常にすさまじく、人間なんて相手にならない。




 僕と三船は相性が悪いのだ。




 僕は魔法が苦手だ。だが一つに絞ったことによって、通用する。腐敗属性の特化型でもあるからだ。肉体戦闘と単属性特化とした構成。魔法少女は得意属性のほかに色々魔法を使用できるし、それは冒険者の魔法使いよりもレベルが高い。




 だが僕はそれができない。一つだけなのだ。




 その一つが強力だから、化物たちに渡り合えている。また肉体能力は高くCランク怪人ならば、引きちぎる肉体性能をもっている。シャークノバやダガーマンティスノバぐらいならば肉体戦闘だけで殺せるだろう。




 蝙蝠ジャガーは無理。あいつ強すぎる。魔法使わないと厳しい。肉体性能だけに特化し、スキルも持たない怪人。その突破力は凄まじく、この僕ですら魔法を使用するだろう。本気を出さなきゃ、殺せない。


 ティターめ、あんな化物作りやがって、本当にかわいいな畜生。






 「・・・下妻にはティターノバ率いる鵺、坂東市にはパンプキン。古河市は3つに分裂、八千代町側の古河は独立をしている。・・・魔獣を操り、古河の地域を侵略しているそうだ。代表が誰かわからない。・・・地方ではこのぐらい普通だろう・・・だが普通ならこの町は滅ばなきゃおかしかったんだ」






「予測が外れて結構」




 僕は足に力を込めた。感触でわかる。これ以上力をこめれば相手の腕が折れる。そのためこれ以上は力をこめなかった。






「・・・滅ぶべき町が生き残った。・・・なぜ滅んでいない・・・それはお前たちがいるからだ・・・でもなぜだ?・・望めば手に入るものをなぜ望まない・・・この町を守ることに固執する。・・・100人もいないんだろう?聞いたぞ集落の人に・・・浅田はお前たちに何を与えた。その名誉も大金も手放して、このような場所にいる意味がわからない」






 僕は嘲笑し、見下した。






「君が知る必要はない」




 そして足を引き上げ、思いっきり蹴り上げた。側面を強く蹴り上げて吹き飛ばす。アスファルトを滑り、粉塵が舞う。耐熱性の服を着ているから無事で済むだろうが、本来は大やけどぐらいはする。




 人間は脆いのだ。




 言っていることの大半は妄想だ。だが誰かが聞くとこの町に秘密があるように思えてしまう。そうなった場合の混乱を考えた。実際秘密は意外とある。








 三船が苦しげに口を開く。






「敵に対してどこまでも非道になれるお前が恐ろしい・・東京ならお前の才能も輝いた。だが、誰にも制御はできないだろうな・・・」




 戦闘したことによって、僕の評価を理解したようだった。






「浅田は何者なんだ」






「さあ、何者でもない、ただの人だよ」




 僕は片手を向けた。暗黒の炎が一つの球体になっていく。腐敗の力がこもった暗黒の魔法は、相手の肉体を腐敗させて塵とさせてくれる。




 容赦ない攻撃に三船は諦めているようだった。Aランク冒険者であり、次期Sランク冒険者パーティーの一員であってもだ。下手な魔法少女であれば倒せるし、ヒーローでも相手にできる。また怪人相手でも戦える強さ。




 ただの人間にしては非常に強いだろう。




 それでも僕と相性が悪い。冒険者と魔法少女は元々さが開いているし、僕が相手だとなおさら相性も悪い。








「・・・この町がおそろしい。・・・理屈が通じない」






 だが魔法を握りつぶした。さすがに殺すわけにはいかない。相手は人間であるし、Aランク冒険者の活躍は首都圏も望んでいる。一都三県同盟も注目している。魔法少女でさえ、三船の存在は重視している。経験の浅い魔法少女を誘導し、一緒に戦える戦力まで引き上げる男だ。ヒーローを統括する組織ですら、三船は重視されている。




 冒険者にして、ヒーローと魔法少女に恩を売った男。




 これを殺せば、こいつのおかげで助かったものたちが反旗をむく。




「やりたいようにやるからね。君の忠告は聞いといてあげる。あとは東京に帰りなよ」




 僕はそういって踵を返す。何か酷い妄想がつけられた気がするけど、あくまで脅迫のつもりで魔法を見せただけだ。






「…何より恐ろしいのは、お前のようなやつを制御する・・・浅田だ」






 その言葉だけは聞こえなかった。僕の姿が遠くなってつぶやいたものだからだ。歩いて帰る僕の背中には三船の視線が続いていた。










 変身を解除し、僕は車に戻った。三船の視線もさすがに見えないところまで歩けば続くわけもない。その後すぐ解除し、道路に止めていた車に乗り込んだ。エンジンをかけ、すぐ孤児院へと戻っていく。急カーブに急発進。通常であれば怒られそうだけど、どうせ人もいない。信号ですら機能していない。






 僕が孤児院に戻り、駐車場に足を置いた瞬間だ。




 物陰が動く。






 その気配に視線を向けた。この町は警備されている。この孤児院もそうだ。孤児院はDランク怪人による24時間監視体制を引いている。下手な怪人も魔獣も忍び込めないほど厳重だ。




 だからか自然と僕は笑みを浮かべていた。






 駐車場の他の車の影に隠れていたものが姿を現す。ゆっくりとそれでいて、僕が認識すれば、平伏してみせた。




 その姿には見おぼえがあった。




 ティターが作った怪人、だが3幹部の上級怪人ではない。




 羽を背にもつ、蟻の怪人だ。強靭な顎をもち、獲物をかみちぎるギロチン。細身でありながら筋肉質の体格。黒茶色の体格をもち、膨らんだ尾には長時間動けるためのエネルギーがつまっている。背には透明の羽が二枚。




 その怪人が平伏し、僕へ敬意を示す。






「偉大なる大首領、自分の半分の親にして、首領より上に立つ御方」






 羽アリ怪人、鵺の大隊長にしてDランク怪人がいた。駐車場で僕をわざわざ待つ律義さ。孤児院まで入り込まず、僕の武力集団にも顔が利く。この怪人は僕の怪人にとって顔なじみだ。魔獣にも手を出されないのは、古いからだ。




 ティターが生み出した怪人の一体。ただ僕が最初にティターに渡した魔石。怪人を生み出せるDランクの魔石によって生まれた。生きた年数であれば僕の武力集団の幹部と年数は変わらない。




 僕の魔力と、ティターの魔力によって生まれた最初の怪人だ。








「君も律義だねぇ、外で待たなくても、適当に入ってくればいいのに」




「それはできません。大首領の大切な環境に踏み込むなど、自分には荷が重すぎます」




 蟻の習性だ。蟻は集団で動き、社会規則性を本能で行う虫だ。自分の役割からそれたことをせず、必要なことを普通にできる、社会的生物の虫。






「大首領のおかげで、鵺の管理下の人間は最大労働時間11時間を達成できそうです。そのお礼に参りました」




 この羽アリ怪人は、社会的システムを律義に守る。ベースが蟻である以上、働くこと、休憩することを重視する傾向にあった。蟻のシステムは、元々働くこと、休憩することを交互にわけた集団生活にある。蟻は常に働かないし、必ず休みを取る。これを本能に組み込むおかげで、昆虫界において勢力を保てる強さがあった。




「僕はただティターに告げただけだよ、働かせすぎじゃないって」




「それだけで自分は感謝でいっぱいであります」




 平伏する羽アリ怪人。




 この羽アリ怪人は鵺が管理する人々の労働時間を非常に気にしていた。蟻がベースである以上、休みを必要と考えているようだ。鵺の支配下の人々の最低労働時間は10時間であり最大労働時間は一切ルールにない。だからか鵺の支配下の人間が、それより下の人間の労働時間を延ばすことに抵抗があったようだった。




 その最大時間を11時間にし、過剰な労働を削減にいたったようだ。




「人間の労働時間に君ほどうるさい怪人はいなかったよ」




 僕が苦笑し、羽アリ怪人は平伏して答えた。






「人間は強くありません」






 この怪人は律義であり、非常に面倒くさい。蟻がベースのため、ルールを重視する。人間の能力を非常に観察し、限界を理解している。働き続けることができないとを本能で理解しているため、人間側に立って、労働時間の短縮を求めていたのだ。




 鵺は悪の組織だ。だがインフラや必要物資などのことを考えれば、働いてもらう人口が少ない以上、その分労働時間を伸ばしてごまかすしかない。それを羽アリ怪人は強く非難していた。人間が壊れれば、その分怪人が負担するしかない。労働時間の長期化は人口の減少にもつながると鵺でも大騒ぎしていた怪人だ。




 鵺でも羽アリ怪人は大隊長クラスである。Dランクの中では本来弱い。だが生まれた時期が遅い。鵺が生まれる前からティターに作成された怪人だ。




 年数を重ねた結果、経験の差で上級怪人シャークノバやダガーマンティスノバにも追いついている。DランクでありながらCランクの怪人と渡り合える。一対一では簡単に倒せないし、油断をしなければ撃退できる。




 また人間の管理者でもあった。下妻の人々からは意外と信頼がある怪人だ。労働時間の短縮を人々に常に語っており、それを実現するため行動も起こしている。また他の部隊、シャークノバやダガーマンティスの率いる部隊の怪人が人間に危害を加えれば、即座に人々の前でも首をはねた。




 鵺の怪人であっても容赦がない姿勢。




 別名、鵺の処刑人。




 蝙蝠ジャガー、シャークノバ、ダガーマンティスノバより立場は低いが、口をだせる怪人だ。




 僕の合成した魔石とティターの魔力で生まれた以上、立場は安定している。首領が生み出し、大首領である僕の力もあり、年数も長い。3幹部より長く勤めている。




 ティターを裏切る心配もなく、大首領からの温情も受けている。




 立場が非常に安定していた。




 労働年数、Dランククラスの実力、時間経過によるCランクほどの強さかもしれない。


 人々の管理者。大首領が渡した魔石から生まれた怪人






 幾つもの要素が重なり、かなりの地位にいる。




 鵺の中で人間に最も信頼された管理者。大隊長の地位をもつ怪人。




 それが僕に頭を下げていた。




 パンプキンの魔獣侵攻の際、野良怪人が人間を弾圧した際、非常に激怒した怪人でもある。その激怒はティターすら動かし、その怪人の処刑すらあった。僕が止めなければ本当に処刑していたであろう。




 管理下の人間に手を出されると、非常に激怒する怪人でもあった。下妻の人口が減らないのはこの怪人への信頼に他ならない。本当に容赦がない。ルールを守る人々に危害を加える怪人はどこの所属でも処罰し、処刑する。3幹部からの苦言すら無視し、徹底するほどのものだ。




 ゆえに処刑人だ。




 人々からは守り蟻と呼ばれてもいる。






「大首領、働かせ続けることは社会の継続になりません。人は自由がなければ、子を産みません。自由すぎても産みません。鵺はそれを管理し、偽りでも平穏や安心を与え、自由を縛り、窮屈にしたうえで、人間に子を産ませなければいけない。強制されることをしらない人間を、その気にさせるルールが必要でした」






 羽アリ怪人は平伏したうえで、僕に本気の感謝を告げている。ルールで、集団的組織の本能をもつアリがつげている。孤児院の駐車場でだ。子供たちは寝ており、院長は起きてるかわからない時間。




 ここの人間にも配慮しているようだった。怪人が孤児院の中に入ることへの影響も配慮したのだろう。だから駐車場だ。




「君も大変だよね。ここの人間にも気を遣うなんて」




「大首領が大切にしている人間であれば、気を遣うのは当然であります」




 この怪人ほど、人間の社会を理解し、配慮する怪人はいない。だからか僕はこの怪人を気に入ってもいる。ただルールから外れると即処罰の応対には反対を示す。




 この怪人はルールを重視しすぎて、不可抗力をたまに理解できなくなるから、そこは大首領権限で止めている。でも下妻の人々は羽アリ怪人を信頼し、相談してもいる。その相談を他の怪人に晒さず、己の意見を加えながら、鵺から人々の要望を引き出してもいる。




 




「君の献身は鵺にも役立っていると思うよ。僕も感謝してるからね」






「ありがたきお言葉」




 羽アリ怪人は驕らない、偉ぶらない。ルールを重視した、鵺の中でも強い怪人だ。3幹部以外に羽アリ怪人に勝てる怪人はいないほどの実力者。




「君は重要な存在だ。この程度でお礼なんか必要ないよ」




 僕が苦笑しながら、羽アリ怪人に告げた。




 野良怪人は人間に危害を加えない。




 羽アリ怪人の縄張りに手を出せば、死ぬことがわかっているからだ。






 


「このお礼こそが、鵺や大首領の繁栄につながるならば自分ごとき頭など、いくらでも下げれます」






 あくまでルール。役割。ゆえに信頼できる怪人の一体だった。もし羽アリ怪人を処罰しようとする動きがあれば、大首領権限でそいつをつぶす。そのぐらい悪にはふさわしくない律義さがあった。




 ただのお礼に現れた怪人を前に僕は笑うしかない。また終わればすぐ去っていく。




 僕やこの地の人間に対しての配慮だ。




 羽アリ怪人は礼をつげ、羽を動かし空へ飛んでいく。その際、他の人間タイプの怪人に出会っても襲われなかった。当たり前だ。年数が違うし、律義さが違うし、裏切りが一番疑われないのだ。








 飛んでいくその背に僕は告げた。






「本当に怪人かな」




 思わず疑った。




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