マンモス大学
「ないものしりとり?何それ?」
「あのね。あるものを言っちゃダメなの。世の中にないものだけ」
「世の中にないもの?」
「そう。クラスのなおちゃんが教えてくれた。お父さん、やってみようよ」
一緒に布団を敷いて、電気を豆電球一つにする。
かすみを寝付かせるため、私は娘の方を向いて隣で横になった。
「ええと、かすみ。ないものっていうと、ええと」
「うん」
「お父さんの持ってるお金」
「もう。そういうんじゃない」
かすみは膨れている。
「とにかくやってみようよ。ないものしりとり。私からね」
「はい」
「じゃあね。ええと。食用テレビ」
「え?なにそれ」
「食べられるテレビ」
「あ、そうか。ないねえ、確かに、食用テレビ。やり方わかったよ、お父さん」
「よかった。じゃ。お父さんだよ。食用テレビの、び」
「び、ね」
び、び。
思いつかない。
これは、難しい。
「び。び、かあ」
「び、だよ」
「び、び、ねえ。むつかしい。ないものじゃないといけないんだよね」
「そう」
「ううん」
「もう。私考え付いたよ。言っていい?」
「うん。お父さん、降参。お願い」
「ビニールホーム」
「え?」
「ビニールの家」
それは、あるよ、かすみ。
「ビニールハウスなら、トマトとかつくる家だよ」
「あるかあ。あるね、確かに」
「うん」
「ううんと。じゃあね、びんぼん玉」
「なんだそれ。苦し紛れ。ピンポン玉じゃなくて、びんぼん玉」
「駄目かなあ?」
「オッケー」
「お父さん、やさしい。じゃ、次、お父さんだよ。びんぼん玉の、ま」
今度こそ。
あ、思いついた。
「マンモス大学」
「え?その言葉知ってるよ、私。大きな大学のことでしょ」
「違うんだよ。マンモスの事しか教えない大学」
「わ。ないかも」
「いや。あるかも」
「どこに?」
「駅前の雑居ビルの二階とか」
「お父さん、それは多分大学じゃない」
「ははは。どう?オッケー?」
「オッケー」
「やった」
「うん。よくできました。マンモス大学。ええと、次は、く、か」
「く、だよ」
「く」
「うん」
「あ。空気マン」
「なんだそれ?」
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