ないものしりとり

味噌醤一郎

仕事納め

街路樹に電飾が点いた駅までの道を私は急いだ。


仕事納めの今日は社内で小さな立食の忘年会が開かれ、酒を飲めない私も少しだけ顔を出したのだった。

クリスマスと元旦の狭間。

華やいだような、どこか気の抜けたような町の人々を傍目に私は歩を速めた。

学童クラブの迎えに遅れると、延長料金が加算されてしまう。


「お父さん。遅い」

「ごめん。かすみ」


電車で二駅。住んでいる町の駅からは小走りで学童に向かう。

1分前だ。

かすみには怒られたけれど、なんとか間に合った。

私たちは並んで家路についた。


「学童もしばらくお休みだね」

「うん。お父さんもでしょ。お仕事」

「そう。一緒に正月の準備をしよう」

「うん。ね、ね。その手にぶら下げてる袋なあに?いいもの?」

「見てみる?持ってくれる?」

「うん」

「はい。どうぞ」

「はい。え、すごーい。から揚げ、エビフライ、イカリング、コロッケ、ポテト。私の好きなものばっかり」

「揚げ物ばっかりだけどね。会社の忘年会のオードブルを少し持たせてくれた」


かすみは、ビニール袋の中身をしげしげと眺めながら歩いている。


「前を向いて歩かないと危ないよ」


これが私と小学三年生になる娘のかすみとの日常だった。


妻が亡くなってからもう3年がたつ。

父と娘のこんな暮らしも3年になった。


トラックでのルート配送の仕事が終わって、学童クラブに預けているかすみを迎えに行く。一緒にアパートに帰り、風呂を沸かす。洗濯をする。

風呂に入ってから、夕飯を食べる。いつもは休みの日に作って冷凍してあるおかずをチンして、あとは味噌汁とご飯。

食べたら洗い物を一緒にやって、勉強をみてやるとあっという間に寝る時間だった。


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