第12話 頭痛のアイツ

 自宅の近くにあって、ちょいちょい行く居酒屋での話である。

 その日は、カウンター席の入り口に近い所に座っていた。

 一杯目の生ビールを飲んでいるころに、その二人は店に入ってきた。

 席に案内するはずの店員が、その時に限ってなかなか現れない。

 入ったところで待ちながら一人が言った。

「アイツどうした?」

 もう一人が答えた。

「頭痛が痛いんだって!」

 割と声が大きい。

 どうも来るはずだったアイツが来れなくなったようだ。

「頭痛が痛い」を久しぶりにきいたなぁ。

 二人の会話は普通に進んでいく。

「そんなにひどいのか?」

「だーかーらー、頭痛が痛いんだよ!」


 アカン!


 生ビールのジョッキを口にしていた私は、吹き出しそうになるのをなんとかこらえた。

「なんでこねーんだよ?」

 アイツを呼びたい方の男は諦めない。

「そーれーはー、頭痛が痛いからー!」

 もう一人が殊更に語尾を伸ばして答えた。


 もうアカン!


 間が悪いことに、生ビールの次の一口を飲んでいるところだった。

 油断があった。

 口と腹の対決は口が負けたが、その差はわずかだった。

 ちょっとだけ吹き出したビールをおしぼりで拭いていると、ようやく店員が来るのが見えた。


 頭痛が痛い世の中になったものだ……まったく……

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