第二章

第11話 究極の誤植

 なんということであろうか、私は遂に究極の誤植に出会ってしまった。

 こんな所で運を無駄にはしたくないものだが、見てしまった時点でもう運は使われしまったに違いない。


「誤植後」


 誤植後という誤植、あり得ない。

 これがまだ、


「後食後」


 なら、それは重複表現でしょう、とか、後が二つあるじゃん、といったツッコミの余地があろうというものだが、


「誤植後」


 こう真っ直ぐに開き直られてはなぁ、言葉がない。

 と、この誤植の究極さに打ち震えていると、ヒラヒラと小さな紙片が手にしていてた歴史資料の本から飛び出して、ゆっくりと舞い、そして床に落ちた。

 拾い上げるとそれは正誤表だった。


 誤(✕) 誤植後

 正(〇) 魏蜀誤


 そして、私の憤りは頂点に達した。


 謝れ!

 誤植を謝れ!

 この誤植の開き直り具合を謝れ!

 再度の誤りに謝れ!

 三国志に謝れ!

「呉」にも謝れ!


 心の中で一通り叫んで放心していると、徐々に冷静さが戻ってきた。

 そして、気づいたことがあった。

 そもそも「呉」を「誤」だと勘違いしていれば、正しく直しようもない。

 この誤りは無敵だ。

 「究極の誤植」の次に「無敵の誤り」と出会ってしまうとは、運を無駄に使いすぎだろう……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る