第10話 杉川さん家の包丁

 久しぶりに杉川さん家に行った。

 以前は、ちょいちょいお邪魔させていただいたのだが、少し前に引っ越してからは間が空くようになってしまった。

 杉川さんとは映画の趣味が合うので、お互いに都合がよい時は映画を観ながら一杯やるのである。

 杉川さんの家に着くと、いつものように挨拶をして部屋に入った。

 杉川さんはこれから観る映画の準備をし、こちらは持ってきたツマミの準備をする。

 まず、柿の種などの乾き物を皿に出す。

 そして、今日は刺身を持ってきたので包丁を探した。

 流し台の下の扉を開けると包丁があった。

 まな板を用意して刺身を切り出したが、切れない。

 その時、様子を見に来た杉川さんが言った。


「その包丁、殺人的に切れないよ。」


 確かに、恐ろしく切れない。

 殺人的に切れる包丁で手を切ったことのある私は、殺人的に切れないから殺人的じゃない包丁があってもいいじゃないかと思った。

 そして、杉川さんにこう言った。


「マグロ、ぶつ切りにしまーす。」

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