第9話 頑張る安田さん

 社内の男子トイレで小用中だった安田さんの左に並んだ。

 安田さんは社内で名プロジェクトリーダーとして知られている人だ。

 かなり我慢していたので、お疲れさまですと挨拶をしながら急いで準備をした。

 安田さんは、左手に手帳やら資料やらの束を持ちながらしている。

 しかも小脇に抱えるのではなく、手のひらにお盆を乗せるような感じで。

 自分の方も出し始めると自然に、

「大変そうですね。」

と安田さんに言っていた。

 まったく自然に、

「ハードなプロジェクトだよ。」

と返事が返ってきた。

 会話は実に自然に流れた。

 出したいものも自然に流れ出た。

 けれども、持ちながらするのは大変だろうと思った自分の気持ちは自然には流れ出なかった。

 安田さんなら片手で小用を足すなど朝飯前に違いない。

 大変だというプロジェクトでも目を見張る成果を挙げるに違いない。

 ただ、目の前の壁はそこに手荷物が置けるように胸の高さで棚になっている。

 その時はなぜだか安田さんの前の棚が、


「使ってもいいのだよ。」


と言っているように見えた。

 そして安田さんが仕事で無理をしすぎないといいなと思った。

 でも安田さんは無理しちゃうんだろうなぁ……きっと……

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