第7話 七夕の姉ヶ崎さん

 7月7日は七夕である。

 毎年、七夕になると、たなぼた祭を思し出してしまう。

 もちろん、そんな祭りがあるわけではないのであるが、子どもの頃、たなばた祭をたなぼた祭と言い間違えた友達がいたのだ。


 その時は、思いっきり吹いた……


 面白すぎてその後も何度か思い出した。

 大人になってからも思い出した。

 そして、そんな祭りがあったなら実に楽しい祭だろうと思った。

 たなぼた祭りは今でも、想像すると楽しそうな祭りの一位であり続けている。

 職場で隣の席の姉ヶ崎さんは、今日は早めに帰って家族で七夕祭りだそうだ。

 先週の座席変更で隣になった人なのだが、ちょっと珍しい名前だからだろうか、

呼ぶたびに何かがひっかかる。

 仕事を終えて会社の外に出た。

 空を見上げると、生憎の曇り空だった。

 自宅の最寄り駅について週に何度か寄る居酒屋の前を通ると、七夕のイベントをやっていた。

 店に入って生ビールを頼むと、店員が短冊とサインペンを持ってきた。

 短冊に願い事を書くと、店内に設置されている笹に飾ってくれて、一杯プレゼントだそうだ。

 最初は、


「一杯欲しい」


と書こうかと思ったが、あまりにもつまらない気がして、


「輝け!」


にした。


 そう書いて見知った店員に渡すと、もっと具体的に書きましょうよと言われ新しい短冊が渡された。


 そんなチェックがあるんかい!


 とは思ったものの、こちらもただで一杯飲もうという魂胆だから引き下がるつもりはない。


「輝く俺!」


 そう書いて二枚目の短冊をまた、同じ店員に渡すと今度は無事に笹に飾られた。

 サービスになった生ビールを飲みながら短冊が飾られた笹を見ていると、もやもやとした雲がスッと晴れて天の川が見えた気がした。


 天の川の向こうには織姫がいるという。


 店員からもう一枚短冊をもらった。ドリンクサービスは一杯だけだと言われたがそんなことは関係ない。

 本当に書きたかった自分の願いを書くだけだ!


「嫁」


 そう書いた僕の彼女には、まだ独身の姉がいた。


 そういうことか!


 姉が先だよなぁ……きっと……

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