第5話 Le shiatu
れかわかれかわか
れかわかれかわか
ピタゴラスイッチというNHK教育番組のあるコーナーはこんな問いかけではじまる。
内容はいたってシンプル。
ひらがな一文字がゆっくり書かれていくだけである。
仮にその文字が「れ」だとしよう。
れかわかれかわか
れかわかれかわか
という問いかけが繰り返されながら、縦に線がひかれ次に横棒をひいて筆先を斜め左下にもっていき更に右上に移動させる。
ここまではまだ「わ」でも同じだから、「れ」か「わ」かはわからない。
そして、右上に移動した筆先はそろそろ下に下がらねばならない。
この辺りでこの問いかけは核心に迫る。
「れ」かっ? 「わ」かっ?
近所のマッサージ店に行って、なんでこんなことを思ったのかというと、指圧についての外国語の説明が貼ってあったからである。
英語とフランス語と中国語だ。
英語はよくわかった。
中国語はわかる漢字がまぁまぁあった。
フランス語は Le shiatu だけわかった!
レ・指圧!
心の中でもう一回言ってみた
「レ・指圧!」
レがつくだけで何か違う!
この感じを誰かと共有したいと思ったところに、マッサージ店のスタッフが通りかかった。
すかさず、
「フランス語だとル・指圧なんだねー」と話しかけた。
顔見知りぐらいの感じにはなっていた女性のスタッフだった。
「そうなんですよー」
彼女は、そうさらっと返した。
もう何度も同じことを言われていたのだろう。
「でも……」
と言って、
「ル・指圧ですよね!」
とさりげなく訂正した。
ル!
レかルかレかルか
レかルかレかルか
「レ」かっ? 「ル」かっ?
ルでした!
そして、
「あの有名な喫茶店もルノアールですよね!」
と付け加えた。
でもルノアールは「Renoir」じゃないだろうか……
Le か Re か Le か Re か
Le か Re か Le か Re か
「Le」かっ? 「Re」かっ?
「ル!」
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