第4話 おねいさんの顔

 それはいつもの満員になる通勤電車に乗ってから、ちょうど向かいの線路に同時に停車していた反対方向へ行く電車が発車するまでのことだった。

 車両に乗って正面のドアにピッタリと押し付けられると、向かいの線路に停車していた反対方向へ行く電車で、同じようにドアに押し付けられている人たちが見えた。

 お互い辛抱ですなぁと思いながらやりすごしていると、何やら目が惹かれるのを感じた。

 向かいの車両のドアに押し付けられている長い黒髪のお姉さんの顔がガラス面で歪んでいた。


 それから列車が動き出すまで目が釘付けになった。


 視線が離せなかった僕は、そのお姉さんがこの視線に気づきませんようにと思ってドキドキしていた。

 程なくして向かいの車両がゆっくりと動き出して、僕がホッとした瞬間にお姉さんと目が合ってしまった。

 そして、向かいの車両は急に速度を早めて出発していった。


 電車を降りたところで、この出来事をスマートフォンのメモに書いた。

 タイトルに「おねいさんの顔」と入力したら「お婦負さんの顔」と変換された。

 お姉さんの呪いか!

 入力し直してみるが、変換候補は変わらない……

 呪いだ!

 心の中で謝った。

 お姉さん、見つめてしまってごめんなさい!

 すると気づいたことがあった。


 「おねいさん」ではなく「おねえさん」か!


 そんな訳で、この話のタイトルは「お姉さんの顔」ではなく「おねいさんの顔」なのである。


 お姉さん、重ね重ね申し訳なかったです……

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