第232話 渚①

「なぎ~、見てみてあの夕日、すっごくきれいだね‼」


夢を見ていた。


「そうだね、すっごくきれいだね‼○○。」


昔の夢を。


「○○、その、今まで黙ってたことがあるんだけど。」


「ん?どうしたの?なぎ~。」


あの日の夢を。


「実はね、私、引っ越すことになっちゃったの。……今度の、金曜日に。」


……全てが終わったあの日の夢を。






「ふわぁ~。」


そんな声をあげながら、私は今日も、目を覚ます。

顔を洗うため、洗面所に向かい、鏡を見てみた。……すると、私の頬には、涙の流れた跡があった。

……、泣いちゃったんだ。

そんなことを考えながら、今日もまた、仮面をかぶる。

笑顔という名の仮面を。




「ゆうきお兄ちゃん、葵、おっはよ~‼」


仮面をかぶった私は、いつも通り、大きな声でそう言って、二人の家に入っていく。鉄の仮面をかぶった私は最強だ。心の中で、どんなことを考えていようと、心が苦しんでいようと、明るくふるまうことができる。苦しさも、辛さもすべて、心の中に閉じ込めることができる。

○○に思い出してもらえない悲しみも、○○と一緒にいることができない辛さもすべて、心の中に閉じ込めることができる。

だって、仮面はそのためにあるのだから。

仮面は、他人に迷惑をかけないようにするために、心配をかけないようにするためにあるのだから。

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