第130話 おばあちゃんの言葉
「それじゃあわしから、話をさせてもらおう。」
おばあちゃんはそういうと、体を俺の方に向けて、
真っ直ぐ、俺の目を見て話し始めた。
「ゆうき。真面目なお主のことじゃから、『高校受験すら失敗してしまう自分には葵さんを幸せにできない。』とか考えているんじゃろ?」
……。おばあちゃんのいう通りだ。他人から信用されることはあったものの、俺はこれといった成功を収められていない。部活の大会でも、毎回初戦で負けてたし、定期テストで一位を取ったことも、トップスリーに入ったことすらない。そんな俺と、世界一可愛い葵が釣り合うはずがない。そう思っていたんだ。
「わしには未来が見えるわけではないから『ゆうきなら絶対に葵さんを幸せにできる。』なんて無責任なことは言えない。でもな、これだけはわかる。この世に生まれてからもう何十年も経つわしが、今まで生きてきて言えること。それは、人生を生きる上で一番大切なのは理屈とか理論なんかじゃなくて、自分の気持ちだということじゃ。」
おばあちゃんはそういうと、花壇に向かって歩き始めた。
「もちろん、人間関係っていうのは相手があって初めて成立するものじゃ。自分の気持ちだけでなく、相手の気持ちを尊重しなければなりたたん。でも、相手とぶつかり合うのを恐れて、相手に嫌われるのを恐れて自分の意見を隠して築いた人間関係に、自分を押し殺して保ってきた関係に、意味なんてないんじゃ。相手の気持ちも、自分の気持ちも大切にしなければいけないんじゃ。」
優しく、温かい声で、おばあちゃんは諭すようにいう。
「ゆうき。人生に決まった道なんてものはない。人生に、定石なんてないんじゃ。みんな一人一人、別の道を自分で切り開いて、進んでいっているんじゃ。自分が正しいと思って進んだ道が間違っていることも、自分が間違った道だと思って進んでいた道が実は正解だったなんてこともあるんじゃ。でも、それが正しかったかなんてものは最後までわからない。だってどんな道に進んだとしても、辛い出来事は起こるんじゃから。」
良い高校に入って、良い大学に行き、大企業に勤めることが正解だと思っていた俺にとって、この言葉はとても新鮮だった。
「辛いことがあるのは当たり前なんじゃよ‼︎辛いことがあるから、その分だけ幸せな時間は輝く。辛いことがない世の中なら、幸せなんてものはないんじゃ。」
「だから、だから自分の生きたいように、自分で自分の進むべき道を切り開いていけば良いんじゃよ。苦しめば苦しんだだけ、幸せを手に入れられるんだから。ゆうき。理論とか理屈とかそう言うつまらないものに囚われず、自分の生きたいように生きなさい。」
そう、おばあちゃんが、言い終わったところで、
「ゆうく〜ん。早くお祭り行こ〜。」
そう俺のことを呼ぶ葵の声が聞こえた。
「急いで行くからちょっと待ってて〜。」
俺は葵にそう返事をすると、いつの間にか流れていた涙を拭い、おばあちゃんに向かってこう言った。
「ありがとう。おばあちゃん。これからは、自分の生きたいように生きられるよう、精一杯努力するよ。」
と。
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