第128話 花壇に込められた想い
「……。『他人に、甘えすぎ』か。」
縁側に腰かけた俺は、そんなことを言って溜息を吐いた。
目の前には、大きく、ながい花壇に、ペチュニアの花が、手の届かない空には、無数の星と、暗い夜道を照らす月が輝いていた。
「ペチュニアの花、きれいだよね。」
風に揺られ、気持ちよさそうにしているペチュニアの花を見ていると、突然、隣に
座った楓お姉ちゃんから声をかけられた。
「うん。すっごくきれい。ピンク色の花と、赤い花がきれいに咲いていて。」
すっごく、すっごくきれいだった。月明かりに照らされ、風に揺られ……自分ではないものによって輝くその姿は、この世のものとは思えないほど美しかった。
「この花はね、おばあちゃんが、ある願いを込めて植えた花なんだ。」
楓お姉ちゃんは、どこか遠くを見つめながらそう言う。
「ゆうきって、花言葉とかって知ってる?」
優しく、温かい口調で。聞いている人をどんどん引き込んでいくような、
そんな声で。
「ペチュニアにはね、ペチュニア全体に対する花言葉、色ごとの花言葉、そして種類別の花言葉があるんだよね。」
包容力のある楓お姉ちゃんのその声は、とてもきれいで、美しくて……
「おばあちゃんは、色と種類にこだわったの。ピンク色のペチュニアの持つ『自然な心』っていう花言葉と、赤い花の持つ『決してあきらめない』っていう花言葉。そして八重咲のペチュニアの花言葉『変化に富む』っていう三つの言葉に、わたしたちに対する思いを込めたんだ。」
そう話す楓お姉ちゃんは、いつもの元気な楓お姉ちゃんではなく、まるで、子供を見守る母親のような顔をしていた。
「変化を恐れず、自分のやりたいことに向かって決してあきらめずに、突き進んでいってほしいって。そういう願いを込めて。」
そう言って一度息を吐くと、楓お姉ちゃんは俺の前に立ち、こう続けた。
「きっと今、ゆうきは悩んでいるんだよね?葵ちゃんのこととか、高校受験に失敗したことで。」
……。
「私には、ゆうきの気持ちがわかるとか、そんな無責任なことは言えない。だって人間っていうのは、どれだけ言葉を尽くしても、完全に理解しあえるなんてことはないと思っているから。」
……。
「でも、ゆうきを信じることはできる。ゆうきを支えることはできる。たとえゆうきの気持ちを、完全に理解できなくても、それでも近くで手を差し伸べることはできるんだよ。」
楓お姉ちゃんは一度、ゆっくり息を吸うと、
「ゆうき、私は、わたしとおばあちゃんは、たとえゆうきがどんな決断を下そうと、ずっとゆうきの味方だからね‼それだけは、どんなことがあっても変わらない。……今はそれを、一番ゆうきに伝えたかったかな?」
楓お姉ちゃんの言葉を聞いた俺は、なんとも情けないことに、大声をあげて泣いてしまった。まるで、小学生のように泣く俺のことを、楓お姉ちゃんは優しく抱きしめてくれたのだった。
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