第123話 日鞠の暗躍②

「葵先輩、お久しぶりです。」


優香の家からの帰り道、私は、とある公園で、日鞠ちゃんと話をしていた。

テストが終わった後だから、楽しい話をするのかな?

そんな風に思っていたのだが、どうやら違うみたいだ。なんか……あれ?こういう表情ってなんて表現すればいいんだっけ?深刻?それとも暗黒?……まあ、どっちでもいいや。ともかく、日鞠ちゃんは、大事な話をするときのような顔をしていたのだ。


「久しぶり‼この前の勉強会以来だね‼」


大事な話をしそうな雰囲気は伝わってきたものの、どう対応すればいいのかわからなかった私は、いつもと同じテンションで話し始めた。


「そうですね。あの時は、いろいろとご迷惑をおかけして、すいませんでした。」


日鞠ちゃんはそう言って、頭を下げる。……今日、優香にいろいろされたのに、終始笑顔だったゆうくんも、こんな風に 誤ってくれればいいのにな。まあ、ゆうくんは

優香のことを振ったみたいだから、別にいいけど……。


「それで、今日は葵先輩に聞きたいことがあって、ここに呼んだんですけど、聞いても大丈夫ですか?」


……私に、聞きたいこと?なんなんだろう。気になった私は、即座に、


「うん、何でも聞いて‼」


と、答えた。


「それでは、単刀直入に言います。……葵先輩、葵先輩はゆうき先輩が苦しんでいることに、ずっと前から、気づいていましたよね?……それに、ゆうき先輩の第一志望校が、今通っている高校じゃないことも。」


いきなり、いきなり日鞠ちゃんは、そんなことを言ってきた。


「……確かに、私は知ってたよ。私の大好きなゆうくんが、苦しんでいることも、第一志望校のことも。」


大好きな幼馴染の、ちょっとした変化に、気づかないわけがない。ずっと見てきた、一番近くでずっと見てきた幼馴染のちょっとした変化に、気づかないなんてこと、

あるはずがない。


「それなら、なぜ葵先輩は、ゆうき先輩を助けなかったんですか?自分の好きな人が、傷ついていることを知っていたのに。」


「それは……ゆうくんに、嫌われたくなかったから。ゆうくんに、ずっと私のそばにいてほしかったから。」


ゆうくんのことを励ますのに失敗したときのことを考えてしまった私は、ゆうくんを、助けることができなかった。ゆうくんが、大好きな人が苦しんでいる時に、手を差し伸べてあげることができなかった。


「それって、完全に甘えですよね?」


日鞠ちゃんの言う通りだ。私が自分に甘かったから、こんなことになってしまったのだ。本当は、本当ならもっと早く、助けられたはずなのに。


「愛っていうのは、なかなか手に入らないから、価値があるものだと思うんです。」


日鞠ちゃんは、穏やかな口調で私にそう、語りかける。


「ぶつかって、離れて……それでもまた、くっついて。そういう過程を繰り返して

育てていくものだからこそ、何物にも代えがたい価値を持つんだと、私は思うんです。……葵先輩のように、自分や、相手を気づつけないようにして育てていくものは、愛じゃないと思うんです。」


……日鞠ちゃんの言う通りだ。そんなこともできない私に、ゆうくんの隣に立つ権利なんて……。


「でも、でも今のゆうき先輩が立ち直るには、私が大好きだったゆうき先輩のようにもう一度なってもらうには、葵先輩の力を借りるしかないんです。私は、夜空を彩る星にはなれても、大好きな人の暗い部分を照らして、正しい道へ導くことのできる月にはなれない。月になれるのは、葵先輩だけなんです。……お願いです、葵先輩。

ゆうき先輩のことを、私の大好きなゆうき先輩を、暗い世界から、引っ張り出してあげてください‼」


そういう日鞠ちゃんの目には、大量の涙が浮かんでいた。……私はそんな日鞠ちゃんのことを優しく抱きしめて、


「わかった。ゆうくんを救えるように、頑張ってみるよ。」


と、そういうのだった。

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