第122話 日鞠の暗躍 ①

「……これで、全部かな。」


自分の伝えたかったことを言い終わった俺は、日鞠ちゃんに向かってそういった。


「……そうですか。それじゃあ今から、私がこの話を聞いて、思ったことを話させてもらいますね。」


俺がそう伝えると、日葵ちゃんはそう言って、ゆっくりと、優しい口調で話し始めた。


「先輩。先輩は先ほど、『周りからの信用も何もかも失って……』と言っていましたたが、それは本当なんですか?……私には、なかなか合わなくなったという事実を利用して、自分が一生懸命にやらないことを、正当化しようとしているだけに思えるんですが……。」


「違う‼そんなことはない‼」


気づいたときには、もうそんな言葉が出ていた。


「何が違うんですか⁉結局先輩は、自分の失敗を言い訳にして、周りの状況を言い訳にして、自分が挑戦しないことを、一生懸命やらないことを正当化しているだけじゃないですか‼……先輩はさっき、自分のことを『翼の折れた飛行機』と表現していましたが、それは違います‼自分で、『翼をたたんだ』だけです‼自分が、これ以上傷つかなくて済むように‼……それに先輩、本当は葵先輩の気持ちにも気づいてますよね?葵先輩が、ゆうき先輩、あなたのことを好きだってことに。」


……。


「確かに、俺は葵の気持ちに気づいているよ。もちろん、優香さんの気持ちにだって、昨日告白される前から気づいていた。……本当は、気づかないふりをして、

結論を出さない自分を、正当化しようとしていた。……でも、それ以外のことは違う‼あれは全部、事実であり、俺が勝手に作った話じゃない。……ごめん日鞠ちゃん。今日はちょっと、もう帰るね。」


これ以上話していても、何の得にもならない。そう思った俺は日鞠ちゃんに背を向けた。

日鞠ちゃんが、そんな俺の背中に向かっていった、


「先輩‼チャンスは待っているだけでめぐってくるようなものじゃないんですよ‼

自分から、つかみにいかないと。……先輩は、まだそうやって周りの人に甘え続けるんですか?自分が傷つかなくて済むように、周りの人に、何もかも任せて。これじゃあ、あまりにも、勇気を出して告白した優香先輩がかわいそうすぎる……。」


という言葉は、ずっと俺の脳内に残り続けるのだった。

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