第121話 祐希の過去

俺さ、昔はこんな人間じゃなかったんだ。昔はもっと、元気で、バカで(……まあ、今も馬鹿だけど)いたずら好きで……。例えるならば、葵と大輝を足して、2で割った感じかな?……まあ、そういう人間だったんだ。今とは違って、周りの目なんか気にしたりしなかった(まあ、心が仮死状態になってからは、そんなことも雨期にしなくなったけど……。)。……でも、いつからかな?『他人に嫌われたくない‼』って思うようになって、自分の気持ちとか、本音を他人に隠すようになったんだよね。



中学生になってからは、もっとその気持ちが強くなって、『他人に望まれる自分でいよう‼他人に好かれる自分でいよう‼』って思って行動をするようになったんだよね。勉強が、出来るように見せたり、運動ができるように見せたり、気遣いができるように見せたり……。そんな風にしていたら、学校の先生とか、友達とかから信頼されるようになったり、先生とかクラスメイトから、たくさん話しかけられたり、

『中島ってすごいよな。』とか、『中島みたいなやつが、世界にたくさんいたら、世界は平和なんだろうな。』とか言われてさ、すっごくうれしかったんだよね。

……でも、そうやって勝ち取った信頼とか、周りの人が欠けてくれた言葉っていうのは、『本当の俺』に対しての信頼とか言葉じゃないんだよね。飾られた、取り繕われた自分に対する言葉って言うかさ……。たとえ、ほかの人から信頼されていたって、

周りの人から好かれていたって、それは『中島祐希』という人間に対してではなく、

『取り繕われた中島祐希』に対するものなんだって気づいたら、すっごく辛くてさ……。まあ、これに気づいたのは、つい最近なんだけどね。



まあともかく、中学校3年間、ほとんど俺は他人に望まれる自分でいれたんだよね。

……ただ一つ、高校受験の失敗を除いては……。

大輝から、この話は聞いてるのかな?俺の第一志望校が、今通っている私立高校じゃなくて、公立高校だったってこと。……ちょうど1年前くらいに葵に聞かれたときには、今通っている私立高校のことを、第一志望校って言っちゃったけど。

まあ、そんなことは置いといて……、この高校受験の失敗が、今の俺の中で、一番の悩みの種なんだよね。……もし普通に、第一志望校に落ちていただけなら、ここまで傷つき、悩みはしなかったかもしれない。俺が受かった高校が、全て記述式だったなら、ここまで傷つかなかったかもしれない。……ここまで言えば、きっと察しのいい日鞠ちゃんならわかるよね?おれっが苦しんでいる理由が、

高校受験で受かった高校が、すべてマークシートだったせいで苦しんでいることに。

もし、俺が受かった高校が、全て記述式だったなら、ここまで苦しむことはなかったと思うんだ。……だって、もしそうだったなら、

『高校受験に、運だけで受かったクズ』

なんて、自分で自分に言うことはなかったと思うから。



高校受験で落ちてからは、本当に、すっごいスピードで、落ちていったよね。まるで翼が折れた飛行機みたいにさ。周りからの信用も何もかも失って……俺の手の中に残ったのは、あの時からずっと残っているものは、葵への恋心と、大輝との友情だけ。

どうせ頑張っても、手の中に何も残らないことを悟った俺は、何もかも、頑張ることをやめたんだ。

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