第89話 可愛そうな、優香さん。

「ねえねえ、見てみて、ゆうくん、優香、向こうにカモさんがいるよ‼」


葵は、外の景色を見ながら、笑顔ではしゃいでいる。……俺と優香さんは、

光よりもはやい速度で、足を動かしてボートを動かしているというのに。

スワンボートには、結局三人で乗ることになってしまったものの、『女子二人に挟まれて座る。』といった状況になることを何とか回避した俺は左端に、ハンドルを

動かすという大事な役目がある真ん中には葵が、そして俺と一緒に、足を動かしてボートを動かす必要のある右端に、優香さんが座った。

葵の笑顔を見ていると、とても癒されるのだが、普段運動をしない俺にとって、この30分間足を動かし続けるというものは、かなり体力を使うもので……


「ほんとだ~。すっごいたくさんいるな。」


と、下を見ながら、言う事しかできなかった。……下を見ながら言ったから、本当に、カモがたくさんいるのかは、わからないけど。


「うん、すっごくたくさんいるね。えっと~、1、2、3、4、……。すごい‼10匹もいる‼」


……優香さん、すごいな~。俺はもう、こんなに疲れているのに、まだまだ元気そうだ。しかも足をすごいスピードで動かしながら、カモの数も数えられるとか……尊敬しちゃう。


「あ、あそこ見て‼カメさんがいる‼」


葵の投げたボールを、しっかりとキャッチして、優しく投げ返してあげた優香さん。

しかし葵の興味は、別のものに移っていたようで……。

葵、言葉のキャッチボールくらい、ちゃんとしてあげなよ。

と、天然の幼馴染に対して、俺はそう思うのであった。

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