妄想の断片

Hiro Suzuki

第1話

 こんなの馬鹿げてるわよ

ラジオから流れてくる所々ノイズの入ったどこか知らない遠くの外国のCMのように妻が言うのが聞こえる。インゲンを茹で上げ、白ごまを擦り、味噌と砂糖と和えるのを手伝っていたら、何故か思い浮かんだ。それで忘れないうちにペンネのチーズ焼きを作る妻に話していたら、そう言われた。インゲンが萎えた俺のフニャチンに見えた。朝からずっと雨が降ったり止んだりしている。家を出た7時過ぎには雨が降っていたし妻の持たせてくれた弁当を食っている時も雨が降っていた。少し横になろうとした午後3時半の今も雨が降っている。ずっと雨、雨、雨。

 3年前の5月を思い出してみた。妻、当時の彼女が泣いている。まだ無理だと思う。わたしもっとピアノに向き合っていたいし、大人でもないし母親なんかにはなれない。そう言って、結局数日後、2人で産婦人科に行った。父親のところに印鑑を押した。彼女がクリーム色のドアの向こうに消えて行った。1時間後、出てきて、何をされていたか事細かに話てくれた。その後、2人でワインを買った。シャンボールミュジニレザムールとかいうやつで20,000円近くした。彼女はシャトーラギヨールとかいうソムリエナイフで栓を抜き、ラッパ飲みしている。俺は黙って酔った彼女の色んな話を聞いている。彼女の薬指にはティファニーの婚約指輪がはめられていて、彼女は今日あった儀式が2人の十字架になると言った。俺はその十字架を永遠に背負ってドーバー海峡を彼女の入った浮き輪の紐を引っ張りながら泳ぎきる。そうして彼女は上陸を果たした後、ナポレオンの待つパリから列車に乗り込み彼女と2人で彼女の故郷ミンスクを目指した。ミンスクに着くとチョビ髭の親父の看板が至る所に貼られていて、貼られていない5階建てアパートの一室で彼女とセックスした。彼女は非常階段から屋上に駆け上がっていき空高くナイチンゲールのように叫びながら舞い上がった。何もかもが真っ白な病棟でカテーテルを突っ込まれた彼女と面会した。ホープを吸う主治医と寝た話とハミングバードになる話を聞かされたあと少しひとりで色々と考えたいの。そう言い、病室へと帰って行く。俺はロンゴ神父さまにお会いして懺悔した。ロンゴ神父さまから500円でロザリオを買い、胸の下で泳ぐ2匹の金魚たちの間に、西成で”Tania”とタトゥーを入れた。

 2週間に一度、兵庫から神奈川へ彼女を見舞いに行った。いつも白い壁にイーゼルを立てかけて、白いキャンバスに油絵具で俺の顔を描いていた。あるときにはアーバンブラウンを買ってきてと頼まれた。アーバンブラウンが何なのか俺にはわからない。別の時には、麦わら帽子を被って、中庭にいた。中庭からは遠くの海が見える。彼女はどこか寂しそうで俺の知らない街に住んでいるみたいな横顔だった。


 これは、フィクションだ。


 小説家志望のフリをしてドス黒い頭の中の妄想を書きまくった。シモーヌ仮称と呼ばれる女のTaniaへ俺は500円のロザリオを握りしめて愛を誓いデカいピンセットで挟まれた胎児の為に十字架を背負って生きることを決意した。ナイチンゲールの叫び声が俺の尾びれをアイスピックで突き刺すように愛撫して俺は窓際を見つめ続ける。ドロドロに溶けて黄ばんだ金魚鉢に浮かぶ尾びれの残骸をたまに食いながら、俺は天井を泳ぎ、ナイチンゲールの広げてくれた腕の中で眠る。

 スマホのアラームが鳴り、G-SHOCKに目をやると3時半だった。クソみたいに狭い金魚鉢みたいな吹き上げにボードを貼らないといけない。ブルーシートに滴り続ける雨の音が聞こえる。


 これはフィクションだ。

 これはフィクションだ。


 カラスの歌が市内放送で始まった。

適当に、SNSでいいねを押してから後片付けをし始める。雨は止んでいた。家に着くと妻が娘をベビーチェアに乗せて、離乳食をあげていた。ただいま、おかえり、どうだったの?今日。何も変わらないけど午後休憩で寝てたら夢を見た。病院に君をお見舞いに行って、打ちひしがれてロザリオを片手に持ちながら金魚になってた。ふーん変な夢だね。そんなの馬鹿げてる。

 俺は馬鹿にした妻の首を締め上げて綺麗な彼女のおでこをロザリオの先端で刺し、血で十字架を描いてあげた。呆気に取られて無抵抗だった彼女も血を見るなり反撃態勢になり、奇妙な叫び声をあげながら俺の脳天に包丁を突き刺した。その衝撃に耐えきれず、俺は倒れかけたが腰袋から玄能を取り出して彼女の頭をカチ割り、鍋の中に飛び散った彼女の脳みそをかき集めてタッパーに詰めた。詰めている間、彼女はきちんと俺のペニスを料理用鋏で丁寧に切り取り、輪切りにして、一枚一枚交互にレモンの輪切りとモッツァレラチーズをはさんで、オーブンで10分ほど焼き上げた。彼女の膣に今朝とれたキュウリを突っ込んで腹の上から殴りつけ、良く揉んだ。膣の中でキュウリの浅漬けを作り、彼女に包帯を巻いてあげて、トマトといっしょに和えてからタッパーの脳味噌のごま油漬けと、ペニスチーズ焼きインゲンのごま和え添えをクラフトビールのスプリングバレーと共に2人で仲良く食べたら美味しかったです。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

妄想の断片 Hiro Suzuki @hirotre

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説

ハルキストの憂鬱な宴

★6 SF 完結済 1話