後篇 懸想文のこと

第六図 むすび文

 扨々さてさて、私が内裏だいりよりまかり出ようとするある折、皇嘉門こうかもんの前に停まっている車から女房が降りてきて、裳裾もすそより何か色ある物を落として行ったので捃摭ひろいあげるとそれは結文むすびぶみであった。

 まことはと言えば、その落とし主の誰人たれひとゆかしく思われたので、この結文むすびぶみを持ち帰り、夜一夜よひとよそれをおのが胸に当てて偲びなが彼誰時かはたれどきを迎えた。


【備考】

皇嘉門こうかもん:大内裏外郭十二門の一つ。朱雀門の西、二条大路に面し皇嘉門大路の起点・由来となった。別名は雅楽寮うたづかさの御門ごもん

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