第13話 旧友と再会することは楽しみですか?
「乾杯~!!」
浅井の呼びかけで集まったのは、浅井の他に3人。外山、高橋、長瀬……いずれも男ばかりで、同じサッカー部だったりクラスメイトだった奴らだ。皆地元で就職して家庭を築いているとのことだ。
田舎の人間は刺激に飢えているのか、浅井が「塚本が帰省してきており、しばらくぶりに会わないか?」と誘うと、全員二つ返事で今回の飲み会の参加を表明したということだ。浅井とは3年前に会ったが、他の奴らはもっと会っていなかった。多分5~6年ぶりだと思うが、人の顔というのはそうそう変わらないものらしく、すぐに誰かを思い出すことが出来た。
ウチの親父のお見舞いトークが一通り終わると、東京での俺の生活について尋ねてきた。皆さっきまでとは目の色が違う。やはり彼らにとって地元を出て東京で生活するというのは特別なことなのだろう。俺自身がそう考えていたようにだ。
「つーか、お前らこそどうなんだよ?」
東京での俺の生活を大体説明して質問も尽きてきた頃、俺の方からそう尋ねた。飲み始めてから1時間以上が過ぎ、久しぶりの距離もだいぶ縮まり、酒もかなり回ってきていた。
「30を前にして、子供を育てて家庭を守るために働く……もう人生決まったようなもんなんじゃねえのか?それってどうなんだ?それで良いのか?」
ずっと思っていたことがうっかり口を滑って出たのは、この場の雰囲気のせいだと思う。
四人とも一瞬驚いた顔をしたが、むしろそこまで踏み込んだ質問をしてきた俺に嬉しそうな様子で答えを返してきた。
子供の成長が生きがいだ、と言う外山と高橋。長瀬は家業であるパン屋の仕事に、難しいながらもやりがいを感じている、と言う。
「そういう塚本はどうなんだよ?何だっけ、営業の仕事?」
「ああ、そうだな……。まあ、俺はホント食ってくためにやってる、って感じだな」
仕事に飽き飽きしていたその時の俺にとっては、その答えが100パーセントの本音だった。また時期が違えば答えも違っていただろう。
「……まあそれはそうだよな。でも東京での生活はやっぱ面白いんだろ?なあなあ?」
外山はだいぶ酔いが回ったのか、やたら陽気な絡み方をしてきた。
「バカ、俺なんかただの社畜だよ。バカみたいに働かされて、休みもグッタリだよ。……まあ例えば役者やミュージシャンを目指して上京してきました!みたいな人間だったらもっと東京も面白く感じるのかもしれないけどな」
「ほ~ん、じゃあ何のために東京にいるんだ?別に食ってくための仕事なら、どこでだって出来るだろ?」
長瀬がごくごく素朴に、他意の無い質問をしてきた。
「……そりゃあな」
俺がここ最近感じていたことを見事に言葉にされ、俺は返答に窮した。
「あ、分かった。女だな!」
高橋が悪戯っぽく笑った。
「……いや、今は女はいないな」
「……そういや公太。ずっと学級委員やってたバスケ部の、吉田香奈って覚えてる?」
「……吉田?……ああ」
短い沈黙を破るべく話題を変えた浅井の言葉に、俺は心臓が飛び出さんばかりに驚いたが、努めて平静を装って返事を返すことが出来た。
「この前ショッピングモールでばったり会ってさ…アイツも東京で就職してたけど、辞めてこっちに帰って来てるって言ってたな~」
「へえー、そうかー」
俺の相槌は、なかなかに棒読みな感じだったことだろう。
「何かこっちに帰って来てからは、仕事もまだ決まってなくてブラブラしてたって言ってたな。面白そうだから今度呼んでみるか?公太もまだ2、3日はこっちに居るんだろ?」
「…………え?」
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