第6話 どこにエロを感じるかというのは人それぞれですよね?

 それからも彼女のことが頭に浮かんできて、酒に酔った土曜日の夜、ネットオークションで彼女の2枚目と3枚目のDVDを落札してしまった。


 それまではまだ、自分の中で一種のシャレ、として済ますことも可能だった。

「酔った勢いで買ったDVDのグラビアアイドルが、たまたま同級生で、それが恋しちゃってるみたいに夢に出てきてしまいました(笑)!それくらいに、今の自分は心が渇ききっていますよ~!」という自嘲で笑える感じも多少はあった。

 しかしネットオークションでわざわざ落札してまでDVDを購入してしまっては、そう言い訳するのは苦しくなってくる。


 翌週の水曜日、仕事を終え家に帰るとポストの中に2本のDVDが届いていた。言うまでもなく『花町佳織』のDVDだ。この日は仕事でクタクタだったので週末まで取っておこうと思っていたのだが、目前の好奇心には勝てなかった。

(……一応チラッと内容だけ確認しとくか?……こう、週末の楽しみをより具体的に把握しておくことで、週末までの二日間の仕事も高いモチベーションで乗り切れるだろうしな!)

 自分の中の言い訳は完璧だった。


 というわけで2枚目のDVD『僕だけの太陽』をプレイヤーにセットして再生した。

 ジャカジャーン!!

 派手なギターロックをBGMとして、イメージビデオは始まった。

 青い海、照りつける夏の日差し、白い砂浜……南の島っぽい場所で水着の『花町佳織』が走り回る、といういかにもアイドルらしいイメージビデオだった。パッケージから何となく予想はしていたのだが、1枚目の『恋吹雪』とはかなり雰囲気が変わっていた。

 それは彼女自身の容姿にも変化として表れていた。背中まであった長い黒髪は、肩辺りの長さになり少し色も明るくなっていた。メイクも少し濃くなり、水着の面積も小さくなっていた。

(……まあ普通グラビアアイドル、って言ったらこういう感じだよな。…うん、普通普通)

 と自分に言い聞かせながらも、やはり俺はドギマギしていた。

『僕だけの太陽』は『恋吹雪』から1年半後に発売された作品だ。……その1年半の間の彼女の身に何があったんだろうか、と下世話な勘ぐりも多少はせざるを得なかった。

 まあ冷静に考えれば、その1年半の間に彼女が初体験を済ませていようがどうしようが、それが作品に反映されるほど大きな変化をもたらすわけは無く、事務所が彼女を売り出すイメージを変えた、というだけの極めて戦略的な行為の表れだろう。……いや、だがもしかしたら彼女自身のそうした変化を事務所側も追認せざるを得なくなり、イメージ戦略が練られたのではないだろうか?などとも考えた。

 

 次の夜は3枚目のイメージDVD『シークレット・ナイト』をチェックしてみることにした。

(……昨日は結局最後まで観ちゃったけど、今日はあくまで様子見だからな!)

 改めて自分にそう言い聞かせたが、俺はもう自分の意志というものを信用していなかった。

 今日の仕事中も色んなことが頭に浮かんできては消え、仕事に身が入らなかった。このまま行けば明日も同様になることは目に見えている。

 だが、それでも構わないような気がしてきた。ここ何年かの俺は仕事に対して真面目になり過ぎていた。それが今の俺のこの現状を招いてしまっているわけだ。仕事なんてのは所詮は食ってくためにやってるだけで、もっと適当で良いはずだ。ましてやクソ真面目にやってきた俺を揺さぶるほどのことなんてのは、今後そうそう起こることではないだろう。そう、ここは「毒をくらわば皿まで舐めよ」である!時には、仕事に身が入らなくなるくらい何かを思い煩っても良いだろう!いや、そうすることが正しいのだ!

……というわけで心置きなくDVDをチェック出来そうだ。


『シークレット・ナイト』は『僕だけの太陽』から、さらに2年後の作品ということだ。パッケージから早くもエロい感じがプンプン漂ってくる。

 ……ドゥン、トゥトゥン、チキチーチキチー…

 再生すると暗い画面にまずはBGMだけが流れ出した。前回のギターロックとは打って変わってチョッパーのベースからはじまるシティファンクといった感じだ。ギターはミュートと実音とを組み合わせた単音のカッティングを刻み、エレピがメロディともアルペジオとも言えるフレーズを繰り返してゆく。……うんまあ音楽はどうでも良いんだわな。

 今回の舞台はもろにホテルだった。フォーマルと言えばフォーマルだが、体のラインがはっきりと出たスーツを着た『花町佳織』とホテルのバーで飲んでいる……というシチュエーションから今回の作品は始まっていた。BGMだけで彼女の声は無いまま場面は進んでいった。

 酔ったのか、顔を少し赤らめた彼女とバーを後にし、エレベーターに乗り込む彼女と主観カメラ……つまり作品の中の自分。着いた先は豪華なスイートルームだった。互いにイスに座り話しているのだろうか?妖艶な笑みを浮かべていた彼女も、時折表情を変える。……とそこでBGMはストップして、彼女が顔を寄せてきた。

「……先、お風呂入っちゃおうか?」

 そう囁くと、彼女は身にまとったスーツを脱ぎだした。

(……これは、どういうシチュエーションだ?不倫カップルか?……にしてもモロだな)

 やがてスーツを脱いだ彼女と共にシャワールームに行く、という場面になっていた。もちろんこれはAVではないので、彼女は裸ではなく水着を着ているのだが……もうそれが逆に超エロい感じがした。

 やがて入浴を終え、ベッドインを連想させるシーンへと変わっていった。

(……あー、もう見てらんねえや)

 これ以上観るのは、ちょっと辛かった。ここまで来て観たい気持ちよりも観たくない気持ちの方が上回ったのは我ながら少し不思議な気もした。

 彼女は前作から2年ほどが経ったということで、21~2歳だろう。もちろんそれまでよりも大人っぽくはあるのだが、30歳を間近に控えた今の自分から見れば、こうしたシチュエーションに身を投じるにはまだ彼女は若すぎる気がする。

 明るかった髪色はまた黒髪に戻されており、メイクも大人っぽくされてはいたが水着の下の体は引き締まったままだった。

(……この頃もまだバスケしてたのかな?)

 最後の感想は何故かそんなものだった。



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