第4話 追えども追えども追いつけないものですか?
場面は再びインタビューのパートに戻っていた。
「家族構成はどんな感じなの?」
「母親と、兄が一人います。」
「あ、母子家庭だったんだね。お兄さんとは仲が良いの?」
「兄は結構歳が離れてて、カナが中学に上がる頃には働き出して家を出ていたので、今はあんまり会う機会がないですね。小さい頃は可愛がってくれましたよ。」
(……ん?)
ちょっと気になって俺はDVDを巻き戻してみた。普段だったら気にも留めない……酔っ払っているがゆえに気付いたのかもしれない、小さな違和感だった。
「……カナが中学に上がる頃には……」
あまりにスムーズに会話が流れていったので、インタビュアーもスルーしていたが、彼女は確かに自分のことを『カナ』と呼んでいた。
まあグラビアアイドルが芸名を使う、なんてのはよくあることだろう。だけどその名前を聞いた時俺の中で一つの鎖が繋がった。
……そうだ、俺は彼女を知っていた。
その後、DVDは酔いに任せて最後までじっくりと観た。作品は全部で1時間程度のものだったから長くは感じなかったが、『花町佳織』が吉田香奈であると気付いてからの俺は、それまでのような気持ちでは観られなかった。
吉田香奈は中学・高校の俺の同級生だった。
画面の向こうの彼女は俺の知っている彼女とは全然違っていた。でも、どこか納得がいった。彼女の容姿の洗練された様を、俺はどこか予感していたような気がするのだ。だが彼女がこんなタレント活動をしていた、ということは驚きだった。
中高の頃の彼女はクソ真面目そのもの、といった生徒だった。
毎年のように学級委員を務め、成績も優秀、所属するバスケ部でも1年のうちからレギュラーになっていたはずだ。
まあ美人だったから男子からの人気も密かにはあったが、彼女に軽い感じが全然無く、親密になった男子というのは一人もいなかったと思う。母子家庭で育ってきた、という一種の気負いが男子を近寄り難くしていたのかもしれない。その代わり女子からは慕われていた。複雑な女子同士の人間関係の中では、色々あったのかもしれないが、あまり愛想も良くなく、お洒落にもさして興味の無さそうな彼女のことを、どの女子もほめそやすのが、俺には意外だった。彼女が母子家庭で育ってきた、というのは狭い街だからほとんどの同級生が知っていただろうし、彼女が何に対しても一生懸命であることは否定のしようがなかった、という感じなのかもしれない…と今になって思う。
俺にとっても彼女は気になる存在ではあった。と言ってももちろん俺は特に彼女と親しかったわけではない。一緒のクラスになったことはあるが、特に何か会話をしたという覚えは無い。
そんな距離感の俺ですら、彼女はどこか気になる存在であったのだから、多分多くの男子が同じ様な思いを彼女に抱いていたのではないだろうか?
そんな彼女が、どうしてグラビアアイドルをやっていたのだろうか?そして、この作品は10年前の作品である。果たして今の彼女は、どこで何をしているのだろうか?
俺は色々なことが気になり、DVDには水着のシーンもあったりしたのだが、結局当初の目的を果たすことなく布団の中に入った。そして布団に入っても『花町佳織』という名がずっと頭に浮かんできては、なかなか寝付けなかった。
(……頭イテ)
次の日、二日酔いで起きると時刻は既に昼の12時を回っていた。
とりあえず牛丼屋に行って飯を食い、帰ってからテレビを見ていると、そのまままた寝てしまった。
テレビは人感センサーが作動し消えており、秋の夕暮れは朝焼けみたいで一瞬俺は焦った。
(……やべ、もう朝か!?)
慌ててスマホを見ると時刻は17時を少し回ったばかりである。そして日付はまだ土曜日だった。
(まあ……こういう日があっても良いか。)
そう思い直し、スーパーに出かけ惣菜と発泡酒を買ってきた。
酒がだいぶ回ってくると、やはり彼女のことが気になるらしく、スマホで『花町佳織』と検索していた。酒が入るまでそうしなかったのは、どこか彼女を知ることが怖く自らブレーキをかけていたのかもしれない。
『花町佳織』の検索の結果、簡単なプロフィールと幾つかの画像が出てきた。
一番最初に出てきた画像は俺の買ったDVD『恋吹雪』のジャケット写真であり、最初のページの画像はほぼ同作中の画像であった。
プロフィールの方を見ると、『花町佳織』は4年間の内に3枚のイメージDVDと1冊のフォトブックが発売された、ということだった。ちなみに俺の購入した『恋吹雪』は最初のDVDだ。
プロフィールをまとめたのはかなり律儀な人間らしく、彼女のグラビアが掲載された雑誌名・号数や、舞台の出演記録までもが記されていた。
だが全てを含めても、それほど多くの活動があったわけではなさそうだった。
また、最後のフォトブックが発売された4年目以降の活動については、記録がなかった。
引退したとも記されておらず、当然俺はそれ以降の彼女がどうなったのか気になったが、他の幾つかのサイトを見ても真相は不明だった。
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