第3話 恋吹雪とは何色ですか?
(『花町佳織』の『恋吹雪』か……)
一本のDVDが目に留まった。
花町佳織というその名前に聞き覚えは無かった。だけどその子の名前に惹かれたのは理由があった。
花岡市中町、俺が育った街の名だ。郷愁を一気に呼び起こさせられた。
パッケージを手に取り確認する。彼女は地味目な和風の美人でスタイルも良いが……例えば新宿の人ごみの中ですれ違って、振り返って見るかと言ったらそこまででもなく、人込みに紛れてしまう……そんな女子に思えた。
作品のリリースは10年前、18歳のデビュー作品!と銘打たれていた。……うん、俺と同じ歳か。つーか俺が18だった頃はもう10年前になるのか……。
まあそんなわけで色々な感情が綯い交ぜになり、俺はその作品『花町佳織』の『恋吹雪』を購入して帰ったわけだ。
30分近く歩いて帰ったので酔いも少し醒めてきていた。俺は家の近くのコンビニで缶チューハイを2本買いDVD視聴に備えた。酔いが醒めてゆくのを感じながら見られるものではないだろう、と思ったからだ。
家に着き、シャワーを浴び、布団を敷き、チューハイのプルトップを開けてから、DVDをセットした。時刻は0時を既に回り土曜日を迎えていた。
何で10年前のよく知らないグラビアアイドルのイメージビデオを観ながら週末を迎えてるんだろうな、っていう自嘲気味の笑いもありつつ、だがそれこそが今の俺にはお似合いなんじゃないか、という気もした。
「じゃあまず、名前と年齢、スリーサイズをお願いします。」
まずはカメラマンによるインタビューからビデオは始まった。AVとかでもインタビュアーがやたら馴れ馴れしいと、それだけで俺は不快感を感じ観るのをやめてしまう。だがこのインタビュアーは、ほどよい距離感と女性を見下していない感じが見えて好感が持てた。
「……えっと、花町佳織18歳、来月には19歳になります。身長は164センチでスリーサイズは上から83、58、86です。」
不思議な口調だった。恥じらいが強く感じられるわけでもなく……かといって観ている人間にサービスをしようというテンションでもない、あまりそこに感情の感じられない、だけど事実は正確に伝えなければいけない、というどちらかというと事務的なしゃべり方だった。少なくともアイドルのしゃべり方としてイメージするものではなかった。
「佳織ちゃんは、どうしてこの世界に入ったの?」
「大学進学のために上京してきて、そこでスカウトをされました。」
「あ、そうなんだ。趣味とか特技は何かある?」
「中高とバスケをしていました。」
「スタイルいいもんね。……ちなみに好きな男性のタイプとかは?」
今までほぼ即答していた彼女だったが、そこで初めて少し考える様子を見せた。まあこういう質問に若干戸惑いを見せることでウブな少女を演出する……という手法なのかもしれなかったが、俺にはその間が彼女本来のものに思えた。
「……しっかりした人ですかね」
「う~ん、それは経済的にしっかりした大人の男性、ってことかな?」
「いえ……もっとこう人間的な部分ですかね。偉そうな大人が必ずしもしっかりしてる、ってわけでもないじゃないですか?」
「あはは、たしかに。でも、そうなると佳織ちゃんと付き合う男は大変だね」
インタビューはそこで一旦終わり、イメージビデオが流れ始めた。
桜吹雪の並木道を彼女が歩いてゆくというものだったが、本物の桜が舞っているのか怪しくどこか安っぽい映像になっていた。
その中でカメラは、白いワンピース姿の彼女と並行して歩いていた。それによって恋人気分を演出しているのだろう。
ずっとアンニュイな表情を浮かべ歩いていた彼女が、こちらに向き直りニッコリと微笑みそこでそのシーンは終了した。
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